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有川 浩

タイトル 評価 一言メモ
塩の街 甘ったれすぎてなってねえ
空の中 うなぎ これは丁寧なSF





  塩の街  う

塩の街―wish on my precious (電撃文庫)
有川 浩
メディアワークス


 



長編ラノベSFみたいな。
ある日、宇宙から降ってきた巨大な塩化ナトリウム。
その日から、人々はどんどん塩の塊になってしまい、世界は壊滅状態になってしまった。
両親を亡くし、暴徒から逃げ一人町を彷徨っていた少女・真奈は秋庭という男に助けられ、彼のもとで暮らすことになるのだが……

出来の悪いエロゲの文体で出来の悪いエロゲのストーリーを出来の悪いエロゲのイラストつきで読まされた。
要するにひどい出来だ。
別にエロゲ風でもいいんだが、できが良いエロゲにしてくれよー。

世界崩壊ネタが好きで、壊滅後の世界をシミュレートするようなSFは好きだから読んでみたんだが、視点はぐだぐだで読みにくいし文章は薄っぺらいし、この壊滅状況をミクロな視点で描こうとしているのかマクロな視点で描こうとしているのかがバラバラで気持ちがちっとも入らないし、結局くだらない、つまらないキャラたちの恋愛話に終始するだけの内容で、せっかくの設定がお涙頂戴のお情けにしか感じない。
こりゃあかんわ。
全面的にダメ。
こういうの読むならエロゲーやるよ、おれは。いくらでもあるもん、こういうの。

(07/5/22)







  空の中  うなぎ

空の中 (角川文庫 あ 48-1)
有川 浩
角川グループパブリッシング


 



長編ラノベっつうかライトSFというか。

200X年。
民間の試作航空機と航空自衛隊の戦闘機が、四国沖上空二万メートルにて相次いで謎の爆発をとげる。
事故の調査のため派遣なされた航空会社の調査員、高名春己は空自の協力を得て事故の空域へ飛ぶ。そこで春己は全長60qにも及ぶ巨大な生命体を発見する。
一方その頃、高知の浜辺でクラゲに似たUMAをひろった少年・瞬はその生命体にフェイクと名づけ、可愛がって育てるのだが……

ものすごい丁寧。
前作の『塩の街』では頭の痛い恋愛描写ばかりが目立ってろくに見れたもんではなかったが、一転して今作では頭の痛い恋愛描写はそのままに、謎の生命体の生態や自衛隊の組織、各国の反応などを丁寧に丁寧に描くことによって、その恋愛描写もなんかアリかなって思わせてしまう。
登場人物は「おまえ宮崎アニメの住人かよ」ってくらいに善人ばかりでむずがゆいのだが、善人だけではままならない政治などを描くことによって、その善人の善人ぶりに深みを与えにられて、なんかオッケーって感じがする。
つまり、前作で自分的にだめだった部分が、ページ数を増やしてひたすら丁寧に描くことによって、すべて良くなってしまったのだ。これは強い。

ストーリー自体も、少年組と青年組の二つのカップルに視点を交互させることによって、怪生物が起こした混乱をうまい具合に描写できているし、二つの物語がリンクしていくのはこれだけでわくわくする。
のんびりしているが異常に懐が広くていい男過ぎる春己と、典型的なツンデレすぎる女性パイロット光稀の恋愛模様もニヤニヤ出来るし、繊細な少年瞬とその幼馴染みの佳枝の恋愛も純真すぎてありえねーけど、あまりにじっくりと丁寧に描くからキュンとする。

無論、根底のアイデアとなる高度二万メートルに住む謎の生命体という発想はセンス・オブ・ワンダーだし、ただ一体によって満ち足りているため同種の他者という概念をもたない思考回路はなかなか面白い。
この生命体をめぐって、話が膨らんでいく展開も面白いし、中盤などはなかなかスリリング。
が、丁寧すぎるためか、終盤は特に意外な展開もなく、順当におさまってしまい、長さのわりにはカタルシスに欠けた。こういう静かで順当なのがいいという人も多いだろうが、個人的にはちょっと肩透かしだった。
あとさすがにカップルがくっつくシーンはやりすぎなんじゃないかな、と感じた。頭が痛すぎる。まあラブラブ好きにはその方がいいのかもな。

前作を低評価したことを不明に感じるほど、丁寧な佳作。
とにかくホントに丁寧で、作品全体にながれる空気が優しく真摯。
作者があとがきで「大人ラノベ」と云っていたが、まさにそれ。
大人ラノベ。なるほど、それはたしかに必要だ。俺的にも。

なぜこんなにも優しく穏やかな空気なのだろうとすこし考える。
わかった、この作品の登場人物、どいつもこいつもチンコついてねえ! チンコに突き動かされてそうな部分がなにひとつねえんだ!
これにピーンときた私は作者の性別を調べてみたら、案の定女性。
やられた、名前のせいで男だと思ってたが、なるほど、女か。それは然りだ。
女性のSF作家というのはそれだけで希少なので、がんばって欲しい。

しかし最後についていた、本編の十数年後を書く掌編『仁淀の神様』は蛇足だと感じた。
話の内容自体はいい話なのだろうが、やはり少年少女の物語は未来に向けて開いたままで終わって欲しい。それが良い未来であれど、未来を描くこと自体が無粋に思える。

(08/10/31)










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