タイトル | 評価 | 一言メモ |
壊れた少女を拾ったので | うな | 完全にイっちゃってるよこの作者…… |
姉飼 | うなぎ | イキっぱなしだよぉ |
ホラー短編集 人間の頭をくりぬき弁当をつめて売る美人姉妹 ★『弁頭屋』 人を喰い喰らわれる聖餐を描いた ★『赤ヒ月』 家電製品との恋を描く ★『カデンツァ』 気狂いの少女が壊れた少女を直す ★『壊れた少女を拾ったので』 無数のダニによる世界の終焉の様子を描いた ★『桃色遊戯』 以上五編収録。 完っ全にイッてるよね、この作者。 というのがまず第一印象。 なにがおかしいって、おかしい情景をおかしいように描かないところがおかしい。 弁当容器が人の頭でも、腹を裂かれた人間が痛がりながら生き続けていても、自分の体をとりはずして他人を修理しても、べつになんともない。それはまあ普通のことなんですけども的なテンションでさらっと流していく。 それでいて、まったくルール無用の妄想垂れ流しキチガイ小説なのかと思いきや、妙な部分で正気を垣間見せる。家電と普通に恋に落ちておきながら、それが他人には理解できないだろうなあ、という常識を見せたりする部分などがそれだ。 仔細に語っていないだけで、この世界にはこの世界なりの明確なルールがあるのだということが、なんとなくわかる。そのルールを守る全体、この文章が、ひいては物語世界が正気で書かれているのか狂気で書かれているのか、まったく判別がつかない。 無論、完全に作者は正気だ。 正気であるがゆえに、読者を狂気にひきずり落とせる。 一見するとグロテスクな描写や救いのないストーリーが目を引くが、実際に恐ろしいのはまったくの正気をもって巧みに語られる作者の話術だ。 時には冷徹に突き放した視点で、時には少女の語りでもって粘っこく、各話ごとに手法を変えながら、その語り口はいつも的確にこちらの認識を揺さぶってくる仕掛けが施されている。 この作者は、言葉を知悉している。その効用を、あるいはその頼りなさを、不明確さを、知悉している。読み終わったときにはそう感じた。 さもあらん、なにやらこの人は同志社大学言語文化教育研究センター(っていのは初耳で、なんなのかはよくわからないがw)の教授であるらしく、ホラー作家としてのデビューよりも先に、いくつかの評論をものしているらしい。その評論本も『プラスチックの文化史-可塑性物質の神話学-』や『ポスト・ヒューマン・ボディーズ』など、なかなかに興味をそそるタイトルだ。 つまり、それほどに言葉を知悉した人間が、敢えて論理性をかなぐり捨てて言葉を使っているのだ。読んでいる時に生じる生理的違和感・生理的嫌悪は作者の狙いどおりなのだろう。 ホラーとして描かれたためか、エログロが目立つ収録作品の中で、もっとも自分が面白かったのは家電との愛を描いた『カデンツァ』 吾妻ひでおか筒井康隆ばりのシュールな情景は、怖さと笑いが同時にやって来る。 特にランニングマシンと体育会系の愛を貫いた妻と、愛する冷蔵庫を棺とした夫の話は秀逸。笑うべきか泣くべきか怖がるべきかまるでわからないのがいい。 グロテスクな血まみれのイマジネーション、脇役の一人も無駄にしない構成力、恐怖の裏にある黒い笑いのセンス、簡潔に狂気をあらわす語り口のいやらしさに、やや下世話でキャッチーなタイトル。 やや先走りすぎて人を選ぶ節はあるが、変な言葉になるが「正統派の異端ホラー」として十分異常な出来。 この人は物の見方感じ方がすでにおかしいので、あまりホラーを意識しない方が大衆受けする作品が書けるんじゃなかろうか? (08/10/22)
第十回日本ホラー大賞を受賞した表題作含む短編集。 ★姉飼 怪しげな屋台で売られている串刺しになった生物「姉」 幼い頃、姉の魅力にとりつかれた主人公は、長じて姉を飼うことになるのだが…… ★キューブガールズ 記憶喪失の少女に目の前の男が告げるには、彼女は男が二万円で買った、お湯をかけると人間になる玩具ということだが…… ★ジャングルジム 来る日も来る日も人々を受け止め、共感し癒しつづけてきたジャングルジム。ある日恋をするのだが、それが破滅のはじまりだった ★妹の島 一組の歪んだ資産家家族に支配された島の崩壊 ほんとになんなんだろう、この小説群は。 あまりにも悪趣味でグロテスクで理不尽で理解不能で、しかし明確な論理が通っている。 審査員の評にある「別次元から送られてきたとしか思えない」という評が実に的確。本当に、同じ次元の人間が書いているとは思えない。 人間とも化け物ともつかない奇妙な生物に「姉」と名づける異様なセンス。このセンスが文章のすべてに、一文字たりともあまさずに作品内に横溢しているのがたまらないし凄い。本当にもう、すべての文章がこのセンス。 ジャングルジムが普通に人間とベッドインするシーンと、おっさんがスズメバチに刺されて恍惚として体内で幼虫を飼ってるシーンがお気に入り。お気に入りというか、なんかすげえと思った。 こんなににもグロテスクで気持ち悪くて汚くて、なのになんか切ないというこのきしょい感覚はなんなの? ほんとに。 第二作の『壊れた少女を拾ったので』もたいがいすごかったが、一作目であるこっちのがより強烈だなあ。 乱歩的エログロ趣味の極北にあるような感性なので、そういうのが好きな人は是非。 (09/2/17) |