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小川一水

タイトル評価一言メモ
群青神殿確かな実力。しかしつまらない。
老ヴォールの惑星うなぎ∈(゚◎゚)∋なんと力強いSF!
ファイナルシーカー レスキューウイングスうな取材力
こちら郵政省特配課うなラノベというより青年漫画
時砂の王うなちょっと企画倒れ
妙なる技の乙女たちうな働く人になりたくなーい
ハイウイング・ストロークうな(゚◎゚)正統派飛行機ファンタジー





  群青神殿  う

群青神殿 (ソノラマ文庫)
小川 一水
朝日ソノラマ





長編海洋SF。
海底よりあらわれた謎の生物ニュークをめぐる物語。

魅力をもって語られる深海の景色。
確かな取材力を感じさせる豊穣なギミック、ガジェット。
イージス艦をしりぞけ日本経済を破壊する海洋生物という着眼点。
一人一人のたしかな人生を感じさせる登場人物。
いきいきと活躍するヒロイン。

なぜこれがつまらないのか、それがわからない。
でも結果としてつまらないのだから仕方がない。
おそらく、視点がぶれているのだろう。
事件のなにをメインにおっかけていけばいいのか、作者がわかっていない。
そんな感じだろうか。

ヒロインの物語が主題とうまく結びついていなかったのも良くないのかな。
二つの物語がかみ合わないままだった気がする。
だから、最後までヒロインが浮いていた。
一人だけいかにもアニメ的なキャラクターづけだったし。
そのくせ主人公と普通にやりまくってるし。
どうもヒロインのせいで物語のカラーがぶれるんだよな。
じゃあ、ヒロインがいけないということか。
実際、ヒロインなくしてページ半分にしたら面白くなりそうだ。
じゃあ、それで。

(06/9/14)






  老ヴォールの惑星  うなぎ∈(゚◎゚)∋

老ヴォールの惑星 (次世代型作家のリアル・フィクション ハヤカワ文庫 JA (809))
小川 一水
早川書房





SF短編集。短編っつうか、中篇ばっかか?


★『ギャルナフカの迷宮』
子供たちに正しい学問を教えたことが政府への反逆であるとして、主人公は投宮刑に処される。
投宮刑とは、刑務所の地下深くに作られた迷宮に落とされることである。
最低限の水と食料だけは確保された不思議な迷宮の中で、罪人たちは疑心暗鬼に陥り、争いあっていた。
その中で、主人公はさまざまな人たちと出会っていき、迷宮に社会を作り出すことを決意する。

面白い。
まるで火の鳥黎明編を思わせるような物語。
文明を剥奪され、野生のような生き方を強いられていた人々が、わずかな団結を機会に少しずつ人間性を取り戻していく展開は見事。
登場する人物たちも、ありきたりではあるが、わかりやすく物語を牽引している。
最初の同盟者グンド爺、生涯の伴侶となるタルカ、誰も信じないホクストル――みんな迷宮の中で生きているのを感じる。
終盤の大胆な時間経過にぞくぞくし、ギャルナフカの正体には意表をつかれた。
ただ、ちょっとラストの締めかたは強引だったかな、という気がする。
前向きでいいと思うけどね。


★『老ヴォールの惑星』
とある惑星に住む、巨大な肉体を持ち、食われた相手に知識を受け継ぐことのできる特異な生命体たち。
その中でも、もっとも巨大なヴォールは、別の惑星にも生命が存在することを示唆しながら、だれにも知識を譲ることなく孤独に死んでいった。
ある日、その惑星に巨大隕石が迫っていることが判明する。惑星の滅亡までは五万日。彼らは別の惑星に独自のやり方で信号を送り始めるのだが……

難しい。
とにかく特異な生命体の生態と、惑星の特殊な風土を描ききったことに意味がある作品。
難しくてついていけなかった。ザ・ハードSFって感じ。


★『幸せになる箱庭』
木星圏にあらわれた大量の自動機械たち。
かれらは木星を資源とし、解体していくのだが、それは地球の滅亡の遠因となる。
地球人たちは自動機械に接触し、彼らの創造主、クインシーの存在を知り、彼らと交渉するために自動機械の使う装置を使い、銀河の彼方へ旅立つのだが……

トランザウト、というヴァーチャルリアリティな設定を用い、アイデア自体はわりとオーソドックスなものだが、手堅く作られていて好感が持てる。すべてが釈迦の掌の上であることに気づかないことは幸福か不幸か、そういう話。
寝取られ属性もちにはたまらないね。


★『漂った男』
海だけの惑星に不時着した主人公タテルマ。
幸い、あらゆる距離を無視して通信することのできる万能通信機Uフォンによって、基地と連絡することはできる。しかし、逆探知不可能というUフォンの特性のため、巨大な海にぽつんと浮かぶ彼の位置を特定することはできない。
費用の問題から、彼の捜索に費やせるのは十機の自動機械のみ。しかし惑星は八百億平米。自動機械の探索範囲は一日当たり三十万平米。わずか三日分の食料しか持たぬ主人公の命は風前の灯と思われた。
しかし、その惑星の海はゲル状で、食べることができた。栄養にも問題がなく、生きていくだけならいくらでもできるのだ。
こうして、タテルマは陸のない惑星を、ただひたすらに助けを求めて漂い続けることになったのだが……

傑作だ。
すばらしい。感動した。
骨太のSFであり、力強い物語だ。
単に舞台をSFにしたキャストアウェイ、とも云えるのだが、なにもしないでも生きていける環境、通信だけは確保されている環境というSF設定が、本作を独自のものとして趣深くしている。
はじめはややシニカルに語られる状況が、真の孤立を機に重くシリアスになっていき、人々の思いが交錯していく展開に引きずり込まれる。

日々明確に伝えられる状況。
愛しているから別れたいと願う妻。
生きていくことはできるが、ただ生きていくことしかできないという絶望。
嘘のつけない不器用な軍人との間に培われる友情。
勘違いするマスコミ。
プロパガンダに利用する軍。
はじまる戦争。
真の孤立。
狂気。
現実への復帰。
惑星への適応。
変化する肉体。
ただ、流れていく時間……

この、物語への吸引力はどうだ?
後半の展開は、なにもかもが胸をしめつけ、最後の展開には、思わず拳を握りこむ。
嘘のつけない軍人がついた、たった一つの嘘!
ああ、くそう、悔しいけど、ベタなのに、泣ける。あまりにも見事な緩急。美しく力強い最後の一文!
これがSFだ! これがSFなんだと意味もなく叫びたくなる。
若い力、失望と希望。これがSFなんだ。

物語の骨子自体は、実は『ギャルナフカの迷宮』とほとんど大差ない。
文明を剥奪された人間が、どうやって自己を組み替え、生きていくのか、という物語。
しかし、今作で示されているのは、もっとダイレクトで、もっと力強く、ゆえにもっと心を揺さぶってくる。
日々成長する作者の力量をダイレクトに感じることができよう。
ストレートだが、それゆえに広がりを持ち、心に残るタイトルもお見事。

生きていくことはできるが、生きていくことしかできない現状。これは、惰性で生きる現代すべての人間の状況を端的に表現したものともいえるだろう。だからこそ、心を揺さぶるのかもしれない。
我々もまた、ただ現代を漂うことしかできない無力な存在なのだ。その中でなにができるか。なにをもって狂気をつなぎとめるか。

くだらないことを言うと、なぜかこの作者ははじめからカップルが出来上がっていることが多い。どちらかというと、それが読者をさめざめとさせることが多かったのだが、この本に収録されている三作では、寝取られ属性を発揮することによって、ヒロインの存在意義を飛躍的に挙げている。
いやあ、まさか寝取られによってここまで魅力的になるとは思わなかったぜ。

しかし、わからないものだ。
この作者は、ジャンプノベルで乙一と同じときに大賞を受賞している。
ジャンプノベルといえば、ろくに作家が生き残っていないのに、同年に二人も才能ある人材を発掘するとは、不思議なものだ。
天才型の乙一、努力型の小川一水と性格がまったくちがうのも面白い。
おれは乙一の天性、遠く離れた場所から、突然こちらの心を射抜くような鋭い感性を高く評価していたが、なんの、小川はその天才に対し、一歩一歩読者に近づき、至近距離からぶん殴るような乱暴さでこちらの心を揺さぶってきた。

甲乙つけがたい力量だが、近年歩みをとめている乙一よりも、小川は一歩先んじたかな、と思う。なんといっても、この男、名作も駄作も含め、とにかく書き続けるだろうなという力強さがある。
この力強さと多作。小松左京の後継として最有力ではなかろうか。

(07/9/22)







  ファイナルシーカー レスキューウイングス  うな

ファイナルシーカー レスキューウィングス(MF文庫ダ・ヴィンチ) (MF文庫ダ・ヴィンチ)
小川一水
メディアファクトリー





長編……SF? レスキュー物。

少年時代、友達と乗ったボートで遭難しかけた高巣英治。
その時に助けてくれたレスキュー隊員に憧れ、英治は十数年後、航空自衛隊救難飛行隊に入り、だれよりも早く救難者を見つける『千里眼』として活躍していた。
だが、英治の千里眼はかつての遭難の折、彼にとりついた少女の霊の力であった。
人を助けることに執着する霊と、彼女の力に頼りきりな現状に苦悩する英治。
そんな状況をかまいなしに、救難事故は次々と起きていく。

うむ、堅実な作品だ。
とりわけてすごい部分はなにもない。
だが、適度に読みやすく、着実な取材が感じられ、ありがちではあるがキャラはたっており、普通のレスキュー物としてうまくできているところに、「幽霊」というたった一点の非現実をもちこむことによって、物語として見事に成立させている。

この作者は、今後傑作と呼ばれるだけの作品はあまり物さないかもしれないが、代わりに駄作も書くことはないだろう。それだけの地力がある。

(07/12/21)







  こちら郵政省特配課  うな

こちら郵政省特配課 (ソノラマ文庫)
小川 一水
朝日ソノラマ





長編ラノベで全四話。

郵政省が本気を出した。
郵政大臣が承認さえすれば、どんな荷物でもどんな場所にでも採算度外視で配達する。それが特配こと特殊配達課だ。
田舎の郵便局を辞し、若い情熱をもてあましていた鳳一は、恩師の誘いで特配に配属されるが、来て早々、運ぶハメになったのは、なんと一軒家だった。
特配課の活躍を描く全四話。

手堅い。アイデアのどうでもよさに反してなんとも手堅い。
作者の現場徹底取材主義が生きているんだろう。現場にいる人間の暑苦しさや誇り、実力主義やプロ意識が実に生き生きと描かれている。
主人公の熱血ぶりとヒロインのじゃじゃ馬ぶりはいかにも漫画だし、ヒロインとの距離感やライバルとの関係はテンプレ的なありがちさだが、それらが現場主義のリアリズムと組み合わさって自然な感じに仕上がっている。
面白いというより手堅い一品。小川一水はやはり男でござるな。

青年漫画にすると非常に仕事を賞賛していて似合いそうだ。
こういうぬるいのをドラマ化や漫画化すればこの人はもっとブレイクするんじゃないか?と思った。これくらいキャラ立てがゆるい方が役者が演じたときに映えそうだしなあ。
まあ、されないだろうからいいんですけどね。

(08/6/22)













  時砂の王  うな

時砂の王 (ハヤカワ文庫 JA オ 6-7)
小川 一水
早川書房





卑弥呼が予言に伝わる王様に助けてもらったらそいつは宇宙人と戦うため二十六世紀からやってきたサイボーグでした。
で、いろいろあって、人類はなんとかなった。

設定もストーリーの骨格も素晴らしいし、キャラも男汁が出ていて良い。
が、仕上がりはちと雑で、結局なんで邪馬台国にしたのか意味がわからなかった。 きっと意味などないのだろう。
しかし読ませることは読ませるし、SFとしても申し分ない。
でもなー、構成自体はがんばっても、ストーリーの盛り上がりが平坦で説得力にかけるんだよなー。

(08/7/22)







  妙なる技の乙女たち  うな

妙なる技の乙女たち
小川 一水
ポプラ社




SF連作短編集。
2050年、世界初の軌道エレベーターが作られた赤道直下の人工構造体リンガ島を舞台に、宇宙事業の末端の末端、ほとんど関係ない部署で働く女性たちをテーマとした作品。

★『天上のデザイナー』
零細デザイン事務所で働く歩が宇宙服のデザインに挑む。

★『港のタクシー艇長』
メガフロートを渡す船タクシーの女運転手の決意

★『楽園の島、売ります』
グレーな方法で天然記念指定された土地を観光地にしていたのだが……

★『セハット・デイケア保育日誌』
雑多な人種を相手にする保育園にまぎれこんできた少年。

★『Lift me to the moon』
軌道エレベーターの新人アテンダントの苦難。

★『あなたに捧げる、この腕を』
機械の腕で金属を彫刻する芸術家の恋愛

★『the Lifestyles Of Human-being At Space』
軌道エレベーターを作り上げた巨大企業CANTECの新事業は、宇宙での食物栽培。

以上七編収録。


SFでプロジェクトXという、おそらく小川一水しか開拓していないよくわからない分野に忠実な、小川一水らしい作品集。
およそ色気というものを感じない小川作品の女性たちだが、職業ごとのプロ意識を題材にしたため、その色気のなさがいいほうに作用している。これは自分の性質をわかっててやったんだろうなあ。
そもそも、男にするとそれはそれで必要以上に「生きる!」という感じになるのが小川作品なので、こういった小さな規模の話では女性主人公にするのは正しい選択か。

相変わらず、実によく調べて書いているなー、と感心することしきり。
実在の職業を調べ上げ、それをSF的設定にうまいこと適合させる手腕はじつに見事。
巻末に参考資料がのっていて、その半分以上がネットのHPやブログだったりして、逆に感心してしまった。そうか、そんなところからうまく拾えるものなのか。

実直で丁寧で色気がなくて力強く、実に作者の特性に忠実な、小川一水らしい作品集だった。
が、連作短編にしたわりには各話のつながりが弱く、一話一話のインパクトも弱いし、せっかくここまで丁寧に設定をつくり、説明したわりには、読者的にも作者的にももったいない作品だなー、という印象が残った。
長編だといいけど、短編だとこの実直さが疲れるんだよね。


(09/2/11)






  ハイウイング・ストロール  うな(゚◎゚)

ハイウイング・ストロール (ソノラマ文庫)
小川 一水
朝日ソノラマ




星一面に広がる重素の雲により、人類が空に浮く島に追いやられてしまった世界。
ケンカばかりしている少年リオは、なかば強引に戦闘機の射手にされてしまい、この世界の生活の基盤となる浮獣狩りをすることになる。
はじめは失敗ばかりを重ねていたが、相棒のジェンカとの仲を深めながら、リオは成長していく……


空に島がぷかぷか浮いている、というなんか知らんがアニメやゲームでよくある世界観で、ひどく正統派に少年の成長劇を描いている。
特になにがどう優れている作品でもないのだが、キャラクターの配置、性格、構成、すべてが正統派で、のきなみ高いレベルでまとまっているのが好印象。たまにはこういう正統派もいいよね。
それでいて小川一水の特色である、現場主義的リアリズムも健在。
寒い場所ではゴーグルの内側に油を塗る、予備の弾は脇に挟んでおく、などなどの「たしかにどんな仕事でもそういうちょっとしたコツあるわ」と思わずうなづいてしまうような、その仕事ならではの生活の小知恵みたいなのが、実に丁寧に積み重なって、一人の新入りが一人前になっていく様子を活写している。

そのうえで、仕事の上達には失敗がさけられないこと、時間と金をかけたものほど上達すること、優れた個人も多勢の普通人にはかなわないこと、などの当たり前すぎる常識を、当たり前のようにSFファンタジーの世界に組み込んでいるのが地味にすごい。
少年の成長譚となるとどうしても特殊な存在に描いてしまいがちだが、あくまで「がんばっててちょっと特徴はある一般人」の域を出さないように描いてある。この辺はいつものことではあるのだが、今作では特に強く感じた。

主人公のリオは頭の悪さと根の素直さがよく描けていたし、やりたい盛りの不良少年、というのを実に自然に盛り込んでいたのに感心した。
親切が下手な相棒ジェンカも、よくあるツンデレではなく、本当に親切が下手な感じがよく出ていて、これもまた地味にうまく描けていた。
で、この二人のセックスシーンが、本当に対等の関係として描けていて、ここもまた感心してしまった。

ドッグファイトシーンも、狙撃重視のキアナ型、火力重視のカティル型、速度重視のグリューナ型の三つでうまいこと単純に分類させ、ともれば一人よがりになりがちなオリジナル戦闘機での戦闘をわかりやすく描写していた。
同時に、サブキャラクターとして各型の乗り手を登場させることで、それぞれがうまいこと戦闘機の特徴と合致することで、キャラクターと戦闘機の両方が覚えやすいようになっているのもわかりやすくていい。

後半、多少強引な展開がないでもなかったが、一冊の中で世界観すべてを語りきっていたのも好印象。それでいて無理に詰め込んだ感じはなく、テンポよく進んだのも良い。
終盤、浮獣の親玉との戦闘シーンは、あまりにも王道な展開にニヤニヤとしてしまった。
それでいて「悪者倒しました、めでたしめでたし」の話ではないし、なのに後味はすっきりしている。

色んな意味で、いい仕事をしたあとのような汗臭さと爽やかさの残る作品。
この作品、もったいないなー。ゲーム化かアニメ化しないかな。しやすいのに。
ゲーム化なんてほんとこのままできるのに。
そんな感じで、飛行機やRPGが好きな人におすすめ。

(09/4/18)









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