札幌 中古住宅 読書感想 乙一
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乙一

タイトル評価一言メモ
夏と花火と私の死体うなデビュー作。ホラー。ヒキコモリ文学はじまる。
天帝妖狐うな∈(゚◎゚)∋中篇二作。してやられる。
死にぞこないの青うな∈(゚◎゚)∋長編ホラー。地味にリアルないじめられっぷり
暗いところで待ち合わせうなぎ∈(゚◎゚)∋長編サスペンス。乙一にしか書けない、乙一の一つの到達点
失踪ホリデーうな短編と長編が一作ずつ。金持ち設定なのに貧乏くさい謎
きみにしか聞こえない―caling you―うな∈(゚◎゚)∋短編集。乙一にしか書けない変な話ばかり
さみしさの周波数うな∈(゚◎゚)∋短編集。『失われた物語』が傑作
石ノ目(文庫版は改題『平面いぬ』)うな∈(゚◎゚)∋短編集。かわいくないキャラがかわいい
暗黒童話うな長編ホラー。挑戦と失敗。
GOTH リストカット事件うな∈(゚◎゚)∋連作ホラーだかミステリーだか。出世作
小生物語うなエッセイ的駄文。
ZOOうなぎ短編集。奇才ぶりを遺憾なく発揮
階段(『悪夢制御装置』収録)うな
失われる物語うな短編集。ラノベからの傑作選。中身はいいが商売としてどうかと思う
くつ下をかくせ!絵本。ないない、これはない。





 夏と花火と私の死体  うな

夏と花火と私の死体 (集英社文庫)
乙一
集英社




中編『夏と花火と私の死体』
短編『優子』
以上二編収録

★『夏と花火と私の死体』
ホラー。
作品自体は佳作。
それなりに書けてるし、それなりに読ませる。オチも、読めるとはいえ、ちゃんとしてる。

特筆すべきは作者の年齢で、受賞時にはなんと17で、執筆時には16だったという。
この作品を、いまのおれが書けるかといえば、書けない。16ならにばなおさらだ。
いま現在の実力が知りたいな。新作を読んでみるか。


★『優子』
短編サスペンス?
人形を人間と思い込む男の話と思いきや、実は……という話だった。
ネタは一発ネタだが、ばれやすく、短編でやるもんじゃないかな、と。
最後の方のネタのふりかたとか考えると、もっといろいろつめこんで長編にした方がよかったんじゃないかな? っつっても、このネタじゃあよっぽどうまくやんないと『人形館の殺人』(綾辻行人)どまりか。
解説によると、綾辻行人は、この作品で「やっぱりかれは本物だよ」と語ったそうだが、まあ、やっぱりつまり人形館どまりかと。






  天帝妖狐  うな∈(゚◎゚)∋

天帝妖狐 (集英社文庫)
乙一
集英社




中篇ミステリー『A MASKED BALL-及びトイレのタバコさんの出現と消失-』
中篇ホラー『天帝妖狐』
以上二編収録

★『A MASKED BALL-及びトイレのタバコさんの出現と消失-』
まいったな。
これは間違いなく良作だ。軽い筆致で書かれながらも、うわっすべりにならない文章は、たしかにいまどきの高校生を描写している。
便所の落書きを軸とした匿名のコミュニケーションは、サスペンスの題材としてばっちり。脇役一人一人の扱いまで丁寧だし、細かい伏線もしっかりはられている。
犯人がなぜか妙に人間離れしているのはちとアレだと思うが、しかし現実非現実の境目としてぎりぎり決まっていなくはない。
なにより動機がいいじゃないか。はっきりとは書かず、適度に(あくまでも適度に)ぼかした書き方もいい。特にV3の扱いは秀逸だ。
このクォリティの作品が書けるならば、なるほど、たしかにこの人は本物なんだろうな。少なくとも、小説家ではある。

若者感覚で書け(じっさい若いんだが)、しかしうわっすべりせず、きちんとオチのある話が書ける。でも、作風自体はたいして好みじゃないんだよな……まあ、これは好みの問題か。
しかし、この先作風を広げていくのならば、いい感じではなかろか?


★『天帝妖狐』
ありがちな筋。気負いすぎて雑な構成。中途半端なオチ。
ケチはいくらでもつけられる。
けれども、これは、傑作だ。少なくとも、傑作の萌芽がある。

なんといっても怪人となってしまった男のもつ哀愁。これがすごい。
けっして湿っぽくならず、泣きを入れず、しかしこれほど悲哀のただよう表現はすばらしいの一言。この作者で、初めて感情表現がうまいと思った。
それと、田舎の街の情景描写。まるで自分がその場に住んでいるかのような錯覚。田舎の臭いが確かにした。

異端者へ向ける優しくも残酷な視線。救いがなく、しかし悲劇ではない物語。 江戸川乱歩の初期の短編と同質の臭いだ。あるいは、乱歩の後継者の一人になれるやもしれぬ。そう思わせるものがあった。
正直、すごいやつかもしれない。






  死にぞこないの青  うな∈(゚◎゚)∋

死にぞこないの青 (幻冬舎文庫)
乙一
幻冬舎




長編ホラー。
教師にいじめられる少年と、少年のみに見える怪人アオの物語。

いかん、もしかして、おれ乙一のファンかもしれん。
非常に根暗で、優しく、臆病で、ずるく、でもずるくなりきれず、いらないプライドを保つことも捨てることもできない、そんなガキのダメさを描ききりやがった。
新卒の先生にいじめられる、ちょっとだけ頭がよくゲームが好きでやや肥満の少年。コロコロを楽しみにし、ビックリマンのチョコを捨てるのに抵抗を覚える少年。
これは、同い年だということもあるんだろうが、とにかく自分のことに思えてならん。なにせ、おれも教師にはあまり好かれてなかったしな。
そういう意味で、この作品を過剰に評価してしまっているきらいはある。あるがしかし、そうとまで思わせてしまっただけでも素晴らしいというか、とんでもない。

拘束衣に包まれ、隻眼で口の裂けたアオは、少しゲーム的すぎる感もあったが、ほかの部分のリアリティと相まって、心地よく気持ち悪い。
うまい、と思ったのは、このいじめる先生が、嫌な奴にかかれていながら、気持ち的にわかるところだ。
新卒でみなに期待され、意欲が空回りして疎まれる。それを避けようとする気持ちからの、生贄としてのいじめ。

デビュー作からそうだが、乙一はサスペンスの書き方がうまい。
かくれんぼをしているときの、鬼が自分の隠れている場所のすぐわきを通り抜けていった的な微妙なすれちがいを多発させているだけの気もするんだが、それが自然でうまい。

しかし、なんでいつもオチは微妙なんだろうな。
いや、まずくはないし、むしろうまくまとめているんだけどさ。好みの問題かね
中篇くらいだとうまくきまるんだが、長編になると軽すぎるきらいがある。
いずれにしろ、いい作品だ。






  暗いところで待ち合わせ  うなぎ∈(゚◎゚)∋

暗いところで待ち合わせ (幻冬舎文庫)
乙一
幻冬舎




長編サスペンス。
殺人容疑の青年が逃げ込んだのは、盲目の少女が一人で暮らす家だった……

いかん、もう完全にただのファンだわ、おれ。
これは、もう傑作だ。
なんていうか「盲目の女の家に隠れ住む男」というだけの大筋からして「屋根裏の散歩者」的に乱歩チックで、もうおれのツボ。
さらに男も女もお互いに気づきながらなにごともなかったかのように生活するとはもう。
悪趣味でいやらしく、なのにそこに向ける視線の優しさときたら! 実に乱歩的!

主人公の二人はその筆致がいじましいくらいに健気で気が弱くて、たまらんものがある。なんでこんなに気が弱いのか!
「屋根裏の散歩者」「盲獣」「芋虫」「押絵と旅する男」「孤島の鬼」あたりが個人的乱歩のヒット作なんだが、乱歩は異形の存在に対する優しさと憧憬をもっているようなところがあって、それが悪趣味なだけに終わりがちな作品を、ただの猟奇物ではなくさせている、と個人的に思う。
以前、同作者の『天帝妖孤』を読んだときにも思ったのだが、どうもこの作者にはそういった乱歩と同質の、異形への優しさがある。
だから、気持ち悪くて、しかも暖かい。

その『天帝妖孤』のときにも使われた、男と女の視点が交互に入れ替わるという手法を使っているが、前作では形式倒れに終わっていたこの視点変更を、実にうまくサスペンスの一要素として機能させているのにはうならされた。成長していやがるよコイツ。
中盤、「ありがとう」と台詞の直後に視点を変更されたときは「やられた」と思った。悔しくすらあったものだ。

むう。ただ、なんていうか、読みにくいんだよな。
いや、文章の密度とかはちょうどいいと思うんだが、なんていうか、なんていうかな。もともと、変に人を選ぶようなところのある書き方だしな。まあ、それは欠点であると同時に長所なんだが……。
とにかく、乙一作品を一通り読んでみることは決定。





  失踪HOLIDAY  うな

失踪HOLIDAY (角川スニーカー文庫)
乙一
角川書店




短編『しあわせは子猫のかたち』
長篇『失踪ホリデー』
以上二作収録

★『しあわせは子猫のかたち』
『ゴースト ニューヨークの幻』の乙一版と云ったところか。
つまり、ありきたり過ぎる話。が、地力で読ませる。
作者の文章が好きな人にはこのうえもない傑作、そうでもない人には凡作だろうな。個人的には間をとって佳作。


★『失踪HOIDAY』
文章が面白いな。
気の抜けた文体でギャグともそうでないともつかない文章が続く。この作者の持ち味が出てる。

筋というか、題材は面白い。家の中に住んだまま狂言誘拐。
まあ、かくれんぼだね。かくれんぼがよくよく好きなのか。
が、ちと退屈だな。構成的にはうまいんだけど、退屈。オチのどんでん返しは良かったが、読み味は爽やか過ぎるかもしれん。
とはいえ、、伏線の回収の仕方は天才的だ。
なんか、作者が楽しんで書いてる気がしたな。一作目は半分フロック、それからしばらくは少し気負いすぎてる。で、この辺りの作品(コレが四冊目だっけな?)で楽しんで書き始めて、最近のはいい意味で好き勝手にやってる感じがするな。
良作かな。






 きみにしか聞こえない―CALLING YOU  うな∈(゚◎゚)∋

きみにしか聞こえない―CALLING YOU (角川スニーカー文庫)
乙一
角川書店




短編集
もっていない携帯電話がつながる 『きみにしか聞こえない』
他人の傷を写し取れる少年 『傷―kizu/kids―』
とある病棟に咲いた奇妙な華 『華歌』
以上三篇収録

★『きみにしか聞こえない』
一言でいえば友達のいない寂しがり屋の電波さんの話なんですが、くわしくいうと、えーと、電波?
まあ、なんていうか、こう、甘ったるー。ぬるー。
なんつうか、世にも奇妙な物語のぬるい話って感じ。友達いないもの同士が架空の携帯電話を使ってテレパシーするって、なんかこう、そりゃ電波過ぎるだろ。
それで簡単に仲良くなられるのも相当萎える。なんつうか、アイデアのわりにはストーリーが安易に過ぎるかしら?
ネイキッドな乙一の願望がだだ漏れしているので、ある意味ではたまらないかもしれない。


★『傷―kizu/kids―』
えーと、もったいない。
ていうか、話がちっとも解決してねえ。短すぎたな、確実に。
この設定、キャラをもとに、長編一本しあげてちょうどいいかもしれん。長編はながいか? まあ、倍の文量は欲しかった。
設定だけで、ストーリーに動きがなくキャラに葛藤が足りないのう。でなければ、もっと黄昏た話にするか……でもそれは作者の文章タイプによるものだからな、多くは望めまい。

★『華歌』
……と思ったら、これはめっちゃ黄昏てるよ。
山奥の病棟、事故より一人生き残り死を思い続ける主人公、それぞれが傷を負っているがために、話し合うこともできない入院者たち。愛されているがゆえに自殺した少女、その足元に咲いた、少女の顔をもつ奇妙な花……花の歌う子守唄。
文章はあくまでおさえた静かな筆致で、淡々としてすらいる。
しかし、そこにある感情は決して穏やかではない。だからこそ、悲しい。
傑作だ。
なにげにさりげなくミス・リーディングしているのも憎いものですね。
  





  さみしさの周波数  うな∈(゚◎゚)∋

さみしさの周波数 (角川スニーカー文庫)
乙一
角川書店




短編集
タイトルそのまんま 『未来予報』
タイトルそのまんま 『手を握る泥棒の話』
やっぱりタイトルそのまんま 『フィルムの中の少女』
事故で触覚以外がすべて失われた男 『失われた物語』
以上四編収録

★『未来予報』
企画倒れ。
ストーリーと呼べるほどのものがない。いや、ないわけじゃないんだが、薄い。
小道具の使い方がうまい奴なんだが、それだけで話を作ってしまった感じ。微妙。うなの苦手なCIH(ちょっと・いい・話)路線だしな


★『手を握る泥棒の話』
なんかよかった。
ダメで間抜けで小気味良い話。
だからどうしたといえばそれまでだが、いいんじゃないかな、こういう話も。


★『フィルムの中の少女』 また企画倒れ?
特殊な形式でかかれているが、あんまり意味がなかった。オチも微妙かと。
ただアイデアは悪くないかと。だから企画倒れ。


★『失われた物語』
よかよか。
事故で右腕の触覚以外、すべての感覚を失った男の話。
右腕の触覚だけが世界のすべてという絶望の中で、触覚によってのみ感じられる演奏。
そうとう鬱でヒキコモリな話だと思うが、これはいがった。うな印をあげよう。






  石ノ目(文庫版タイトル『平面いぬ。』)  うな∈(゚◎゚)∋

平面いぬ。 (集英社文庫)
乙一
集英社




短編集。
山奥で石がうんたらとかいうホラー 『石ノ目』
妄想から生まれた少女 『はじめ』
かわいくない少年とできそこないの人形 『BLUE』
動く刺青 『平面いぬ。』
以上四篇収録

★『石ノ目』
芸風を広げようという姿勢には好感が持てるが、出来はいまいち。
主人公の心情がいまいち理解出来ない。変質的な人間なのかただの鬱病なのか芸術家なのか、まったくわからん。ゆえに、物語のために動かされている感がある。
が、標準は割っていない。悪い出来でも標準を割らないのはたいしたものだ。


★『はじめ』
風の又三郎系の話。
ふらりとあらわれ、そして去っていった少女、あれは幻だったのか? といった系統の話だが、最初の最初から少女が「幻覚だ」と明言されているあたりが面白い。
それがオチにつながっていればなおよかったが、そこまでは無理か。
「いつも野球帽をかぶっており、年中着ているセーターの袖口は鼻水でガビガビ」と描写される幻の少女はじめは、可愛いとも美人とも書いていなかったが、きちんと美少女している。おもしろかった。


★『BLUE』
切ねえ話だな、おい。
芸風を広げるためか、舞台を外国にしていたが、それはさしてほとんどまったく意味がなく、正直どうかと思うんだが、しかし中身は良かった。
できそこないのBLUEもおよそ可愛げのない少年テッドも、実にうまく書けている。可愛げがなくて可愛い。
最後の方でいい話にしすぎている感があるが、まあ、よかろう。それくらい甘ったるい方がいいのかもしらん。良作。


★『平面いぬ。』
題名どおり、ど根性ガエルの犬版。
ただし踏んだら張り付いたのではなく、彫った刺青が動き出した、とするあたりは、カエルよりは現実的?
読み終わった直後はまとまっている気がしたが、思い返すと雑然としている。終わった気分にさせる書き方に騙されたんだろう。
まあ、雑然としているのもこの人の世界観の味ではあるし、いいか。


全体的に見て、佳作。過渡期の作品だな、という印象。
あとイラストが恐ろしく低い水準で書かれている。オタ絵じゃないだけになおまずい。なんだこれは。(新書版の話)






  暗黒童話  うな

暗黒童話 (集英社文庫)
乙一
集英社




長編ホラー。
眼球移植をした少女は、殺される幻覚を見るようになった。
少女は幻覚の場所を求めて、ある田舎町に赴いたのだが、そこにいたのは人外の力をもった殺人鬼だった

ああん、微妙。
雑に書いたもんだな、こりゃ。最初の100ページくらいはとてもよかったんだが、どうも初の長編と言うのもあって、かなり見切り発車してる。
おかけでうまく風呂敷を畳めてない。納得の行かない部分も多々ある。

が、ホラーとして見たときは、十分なホラーな文章になっている。特に犯人側の視点の気持ちの悪さ、悪趣味さはいままでになかったもので、なるほど、ここまで悪趣味のできる奴だったかと感心した。
途中で挿入される暗黒童話集「アイのメモリー」も切なく気持ち悪く後味が悪くて良い。

記憶喪失関連の話の処理さえうまくできていれば、傑作にもなりえたかもしれないのにな。あとちょっとだけ文章を詰めてさ。
しかし、雑とは云ったが、個人的に雑さと云うのはマイナス要素ばかりでもない。自然、勢いも生まれるし、不思議と読みやすさにつながることもある。元々、雑な文章はきらいじゃないのだ。
まあ、色々考えて、佳作、といったところか。






  GOTH リストカット事件  うな∈(゚◎゚)∋

GOTH 僕の章 (角川文庫)
乙一
角川書店




ミステリー連作短編集。
殺人鬼に狙われやすい少女・森野夜と、そんな森野を(性的じゃない意味で)狙っている殺人鬼寸前の「僕」が巻き込まれる事件簿。 これが売れて乙一はわりかしメジャーになった感じだね。

★『暗黒系』
これ単品では物足りないが、主役二人の紹介話としてはしごく適切。
主人公のしずかな変態性も森野の美少女ぶりもアピール十分であった。


★『リストカット事件』
ささいな伏線がにくい。
主人公の変態ぶりがすばらしい。


★『犬』
叙述トリックがわりと一瞬でわかったのは興醒めだったが、まあまあ。


★『記憶』
変態同士の純愛といったおもむきですな。
いずれ捕食する獲物を愛でるような主人公の森野に対する視線がキモ愛しい感じです。
オチはわりとわかったげ。でも落とし方はよいよい


★『土』
サイコさん視点の話なのでおいしい。
素材のおいしさを殺さなかっただけでも見事。それだけと云えばそれだけ。
イメージの美しさと残酷性の調和は見事。


★『声』
やられた。
なんでこんな簡単な叙述トリックにひっかかったのか、自分でも分からないくらいにやられた。
ここまで気持ちよくやられるとすがすがしい。
トリックとかオチとかなしにしても、十分に面白い中身だったので、叙述トリックされてることに気づかなかった。
ひとえに、いままでの話の積み重ねで、主人公の行動をしらずのうちに期待していたんだろう。連作でなければ使えないやり方だし、締めとしてはうまい作品だ。


総合すると、いままでで一番売れる匂いがする作品であり、品質も良好。良作。
ただ、ヒロイン森野のイメージがガンパレの石津、あるいはおねティーの森野苺と激しくかぶるのですが、これ系を流行らしたのはだれですか?






  小生物語  うな

小生物語 (幻冬舎文庫)
乙一
幻冬舎




ネットで掲載されていた、嘘が多量に混じった著者の日記を一冊にまとめたもの。
なんつうか、面白いやつなんだなあ、という感想。
嘘の入れ方が、実に自然で、嘘の内容が自然というわけではなく、文章の流れでそういう流れになってしまったから普通に書いてみただけだ、というような感じの嘘で、いい感じです。
でもまあ、これはネットで見たかったなあ、というか。
まあ、知らなかったんだからしょうがないんだけど。
「東京に行くたびにホテルではなく漫画喫茶に泊まっていた」とか、そんなエピソードの数々がとても乙一のイメージ通りですね。






 ZOO  うなぎ

ZOO〈1〉 (集英社文庫)
乙一
集英社




短編集。
なぜか母親にいじめられる妹 『カザリとヨーコ 』
『血液を探せ!』
世界の終わりに起動したロボットの仕事とは? 『陽だまりの詩』
ソファーを介してしか話せない親子 『SO-far そ・ふぁー』
『冷たい森の白い家』
『Closet』
言葉のとおりに世界が滅亡 『神の言葉』
恋人を殺した男の迷走がおわる瞬間は…… 『ZOO』
殺人鬼に閉じ込められた姉弟の運命は…… 『SEVEN ROOMS』
『落ちる飛行機の中で』


★『神の言葉』
いやあ、これはなかなかなかなか。
小説すばるが初出というから、いままでよりも遠慮がなかったのかもしれん。すがすがしいほどのアン・ハッピーエンド。
主人公設定は、なぜか云った言葉がすべて真実になるという能力をもった少年、という、ストロングスタイルといいたくなるぐらいの真っ向勝負の能力もの。わかりやすく云うとジョジョもの。

わずか20数ページの作品なのに世界を滅ぼすダイナミックさに惚れた。
人の首が次から次へとぽとりぽとりと落ちていき、その情景がまたたくまに全世界にひろがるさまは圧巻だったし、すべての人が滅んだ首でいっぱいの世界で、いままでと同じ世界の幻覚を見続ける部分は、作者の描写の特性「リリカルでぬとぬと」をまざまざと感じる名場面。最後の一文も決まった。
それにしても、気のせいかこいつは年々心が病んでいってるような気がするのだが、気のせいか?


★『ZOO』
やっぱり乙一は発想を基本的に逆転させてるよな。
恋人を殺して、その記憶を封印し、いもしない犯人を探しさ迷い歩く男……という本来ならばオチになる部分を冒頭で明かし、そのうえで物語をキチンと構築している。見事。
鮮やかな短編。
しかし、いつの間にかホラーの文章がかけるようになっているな。デビュー作の時はきわどいラインだったのに。普通に良作。


★『SEVEN ROOMS』

設定と、死体の流れるどぶ溝の描写はキモくて良し。
ただ、その描写、状況の面白さだけしかなく、オチとかそういうのはわりとなさげまあ、納得のいく説明がついたら、逆につまらなくなりそうだが。
悪くないが、ほめられた作品じゃないな。


残りの作品は読んだし感想書いた記憶もあるのに見つからない。
あとで探すか、なければ書き直す。





  階段(『悪夢制御装置』収録)  うな

悪夢制御装置―ホラー・アンソロジー (角川スニーカー文庫)
篠田 真由美,乙一,瀬川 ことび,岡本 賢一
角川書店





おしい!
最後の10ページまではすごい良かったのに、詰めで大失敗! なぜに?
小心者で、家族に威を示すことで自尊心を満喫することしかできない父親。
善良でありながら、夫に恭順することしかできぬ母。
父におびえ妹に加えられる虐待を黙殺するしかない自分。
その暗い家庭の象徴としての、崖のように急な階段。
そこでの事件をきっかけに崩壊する家庭。
いや、まあ、なんていうか……わしの世代にはこういう家庭環境って多いの?ここまで派手ではもちろんないが、この父親母親のだめ具合はなんか心当たりがいろいろと……
特に父親の行動描写がとてもリアリティあふれるダメさでいい。
自分のおどしで娘が階段から転げ落ちれば、捨て台詞を吐いて逃げる。その夜には気持ち悪いくらいに猫なで声で優しくなり、そして翌日にはすべて忘れて(忘れたふりをして)いる。
実に小心者でダメだ。ダメダメだ。とてもよい。

な・の・に・最後で急に化け物じみた暴力野郎になってしまっているので、ぶちこわしだ。
短編のためか、安易に落としてしまっているのがイタイ。こいつはわりと安易で読み味爽やかなところに落とす癖があるんだが、こういう話でそんな爽やかにせえへんでも……
しっかし、いつも貧乏生活の描写がうまいのは、貧乏だったからですか? 金持ちの描写はド下手だったしな。やっぱ貧乏だったんだな。貧乏は正しい! のか?
    





  失われる物語

失はれる物語 (角川文庫)
乙一
角川書店




スニーカー文庫で出していたものを選り抜きで再編し、一作だけ新作を足した短編集。
その商法だけでせこいのに、文庫化に際してさらにショートショートを初収録するというありさま。
まさに外道!
『Calling You』
『失はれる物語』(『失はれた物語』改題)
『傷』
『手を握る泥棒の物語』
『しあわせは子猫のかたち』
『マリアの指』(新作)
『ボクの賢いパンツくん』(文庫版)
『ウソカノ』(文庫版のみ)
以上、八篇収録

★『マリアの指』
乙一の書く女は童貞の幻想。


★『ボクの賢いパンツくん』
短すぎて特に感想なし。


★『ウソカノ』
乙一はもうもてないヒキコモリじゃないんだな、と実感して淋しくなった。
それでこの先やっていけるのか? 乙一よ。






  くつ下をかくせ!  う

くつしたをかくせ!
乙一
光文社





乙一が書いて、スニーカーで乙一と組んでいた羽住都が絵を書いた絵本。
乙一読者には若い女子が多いので、そこを狙おうという出版社の意図がわかりすぎて怖い。

内容はなぜか大人がサンタが来ることを怖がっていて、みんな大人の云うままに色んな場所にくつしたを隠したけれど、翌朝にはすべてのくつしたにプレゼントが入っていたよ、というだけの話。
別に乙一は文が洗練されてるわけでもないし、その性根が美しいロマンチストでもないので、なんだか無内容なだけにしか思えない絵本だった。
いじけた青少年少女、怪物、叙述トリックの三つをなくして乙一に物語を書けというのがまず無謀なことだと思う。


(09/1/27)








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