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藤崎慎吾

タイトル評価一言メモ
レフト・アローンうなまさに遅れてきた新人
ストーンエイジKIDSなんか読みにくぅい
クリスタル・サイレンス 上・下うな真面目に書きすぎてだるい





  レフト・アローン  うな

レフト・アローン (ハヤカワ文庫JA)
藤崎 慎吾
早川書房





SF短編集。

★『レフトアローン』 戦闘サイボーグの悲劇を描いた表題作
★『猫の天使』 猫の視覚をモニターに映す実験が招いた事件
★『星に願いを ピノキオ2076』 赤子の脳に宿ったAIの物語
★『コスモノーティス』 遺伝子改造によって宇宙に適応した人類たちを描く
★『星窪』 ある孤独な画家が幻視した宇宙
以上五編を収録。

いずれも的確な知識とその説明に支えられたハードSFの力作。
同じ作者の長編の外伝的作品が多いためか、ちとわかりにくい話も多かったが、世界観はいずれも魅力的で、その長編を読んでみたいと思わせるものだった。
特に良かったのが『猫の天使』
物語の語り口が巧妙で読みやすいのもさることながら、ここで語られる猫の視覚というものが珍妙不可思議で、しかし生物学的な説明がしっかりと入ってくるので説得力はばっちりで、勤勉な作者の性格がうかがえる。
猫にありがちな「なにもないところを見ている」という行動の理由付けが、そのまま物語のオチへとつながっており、お見事。猫好きのSF好きには是非読んでもらいたい。

日本の代表的なSF作家、というと、筒井・小松・星の三大巨頭がまずあげられるが、つけ加えて一人、というなら、光瀬龍だと、自分は思っている。
一言で云うと、カッコいいハードSFを書くのが光瀬龍だ。
文章的な実験と仏教をとりいれた不思議な未来観。圧倒的な無常観と叙情性、そういった「ちよょっと素人には手出しできない」SFを書いてきたのが光瀬龍で、彼の路線は山田正樹へと継がれ、さらに神林長平・大原まり子につながっている。

ところが、どうしたわけか、神林・大原の後を継ぐに足るSF作家が、いまだ見当たらない。
どうしたわけかもくそも、SFブームが終わってしまったんだからどうしようもない。面白い作品が出ても、売れないんだからどうしようもない。そもそもハードSFなんてややこしいもの、売れるほうがおかしいのだ。
そんなわけで、この路線は細々と書かれながら、次のヒット作は九十年代中盤のアニメ、エヴァンゲリオンを待たなければならなかった。正直、エヴァンゲリオン嫌いの自分としては神林と同じ路線だと認めるのはかなり忸怩たる思いがあるのだが、仕方あるまい。それくらい、SFは不作が続いていた。ロボットアニメは流行っていたのに。スターウォーズは大ヒットしているのに。

それが近年、エヴァンゲリオンが道をつくったのかなんかしらんが、ハードなSF設定も、うわっ面で恋愛なりバトルなり青春ものなりやっとけば受け入れられることがわかったみたいで、ゲームやライトノベルを中心に「実はハードSF」な作品が多々見られるようになった。
割合的には少ないが、その中には本物も含まれている。嬉しいことだ。

が、やはりそういう遊びの少ない、正々堂々のハードSFも読みたい。そんな中、近年、ハヤカワがやっと動きだしてくれた感がある。翻訳とグインだけじゃまずいとやっと気づいてくれたんだろうか。
そもそも早川書房、やる気がなさすぎだと思う。才能ある作家を、もっとやる気にさせなくちゃだめだろ。今まで幾人かの早川作家のあとがきとかを見るに、どうも早川はかなりの放置主義っぽいんだ、これが。

例えば『星界』シリーズの森岡浩之。『星の樹が継げたなら』でデビューし、幾編かをSFマガジンで発表したが、その後なにも連絡なし。数年後、頼まれてもいない『星界の紋章』全三巻分を書き上げた森岡が突然原稿を持ってくるまで、ろくに連絡していなかったらしい。
この『星界』シリーズが若い層(要するにアニオタですが)にヒットして、早川のメインコンテンツの一つとなるわけだけど、こういう有望な若手作家、ちゃんとサポートしてやれよ早川。『星界』の新刊が遅れ続けてるのって、絶対に催促がぬるいからだろ。確かに作者は遅筆だが、間にスニーカー文庫で何冊も書いてるんだぞ。

催促がぬるいと云えば、原寮も放置気味だ。そりゃ、本人自体、まるで海外作家のような発刊ペースを望み、楽しんでいる節はあるが前作から『愚か者死すべし』まで、何年空けてるんだよと突っ込みたい。
飛浩隆もそうだ。彼は幾編かの中短編を書き、SFマガジンなどで好評を博していながら、92年から十年も沈黙を続けている。どうもその間、さして早川から連絡があったようでもない。せっかくの中短編すら、単行本にしてもらえていなかった。
放置といえば、やはりグインサーガ。内容もそうだが、校正もいい加減で有名。「栗本薫がわがままだから」という意見も多いが、ちっとはなんとかしようとしろよ、編集も。厄介なことは全部放置かよ。 かように、ぼくの知る限り、どうも早川は受身らしい。ひたすらに受身らしい。あかんだろ。

ただ、いいところもあって、前述の森岡、原、飛、三人とも、突然原稿を送ったのに、即「出版しましょう」となったそうな。受身なくせにフットワークは軽い。 それだけ新人とか原稿求めてるくせに、最近になって創設された日本SF新人賞の主催は徳間書店で、おい、そりゃ早川がやれよと云いたくなった。やる気出せよ、早川。ゲッタップ、早川。
まあ、そんな早川ですが、近年少しはやる気を見せている感がある。だからがんばれ。

話が逸れすぎてわけわからなくなった。無理矢理戻す。
要するに、おれはこの藤崎慎吾という作家、初めて読んだのだが非常に買っている。
光瀬・山田・神林の路線を継ぐに足る人材かもしれないと思った。若手というにはトウがたっているが、がんばれ。超がんばれ。
そんな感じ。早川しっかりしろよ

(07/9/27)







  ストーンエイジkids  う

ストーンエイジKIDS (カッパブックス・カッパノベルス)
藤崎 慎吾
光文社





長編SF。シリーズ第二弾。

各地のコンビニ店員が警官となった未来。
ストリートチルドレン達は都会の公園に住み着き、山賊として生きていた。
しかし公園には人間にそっくりだが人間ではない少年少女『ツギハギ』の集団や、どこからともなく現れ浮浪者のみを捕食する小型の恐竜じみた化け物が徘徊し、問題は絶えなかった。
警官を辞し、山賊の少年たちの面倒を見る記憶喪失の大男・滝田は、少年たちとともに化け物と戦ううちに、自らのルーツを探る手がかりを見つける。
一方その頃、山賊のサブリーダー、クシーは、捕虜として捕らえたツギハギの少女ナインと心を通わせ始めるのだが……

まず、シリーズ物だと知らずに読んだのがいけなかった。
だれが主人公なのかもわからぬままに半分近くを読み、地味な滝田が主人公だと気づいてエーッ?となり、アクションシーンの退屈さに何度も途中で投げ出した。
解説で瀬名秀明が誉めている通り、変な宗教を盲信し、プラスチックを常食とするヒロインのナインは「これはいいクーデレですね」というか「綾波レイktkr」という感じでしたが、なんかストーリーにうまく絡んでいるようにも思えず、そもそも二段組450Pにもなる長編の癖になにをしたいストーリーだったのかまるでわからず、シリーズ物だからかオチがついていない部分も多々あり、やたらともやもやするだけに終わった。

設定にはかなり面白い部分があり、世界背景は非常に魅力的なのだが、キャラクターが魅力に欠け、文章が硬く、表現に乏しく、無駄に長いので読むのがひたすら苦痛である。二流の海外SFのような味わい。
以前、短編集を読んだときにはその設定の面白さにうならされたが、それだけの人なのだろうか? ちょっとがっかりだ。

(07/12/13)






  クリスタルサイレンス 上・下  うな

クリスタルサイレンス〈上〉 (ハヤカワ文庫JA)
藤崎 慎吾
早川書房





あらすじ
人類は火星を開発しまくってるけど火星では変な生物の化石とか変な鉱物とか見つかりまくって、火星の過去になにがあったにょー?とか思って女性研究者である主人公が調べに行ったら、企業同士の争いやら各国の暗闘やらに巻き込まれていろいろ大変なことになってる感じ。

とにかくいろんな細かい設定がこちやこちゃこちゃこちゃ考えられていて、火星都市の成り立ちとか生物学鉱物学的な火星の解釈やらネットワークの発展による架空未来史やら、とにかく本当にもう、いろいろなところまで考えられていて「こいつぅ、すっげえ勉強していやがるな?」という感じで圧倒される。まさにハードSF。
その緻密な設定の説明がかったるくて眠くなるところもハードSF。
良くも悪くもSFらしいSF。こういうSFものが九十年代の終わりになって出てきたというのが驚きではある。

題材的ストーリー的に、映像化すると映える気がするし、遊ぶ余地もありそうだし、映像化したら設定もわかりやすくなりそうで、いい感じに2〜3時間にまとめられそうなので、さっさとアニメ映画化すればいいのになー、と思った。

上巻の時点では、設定の説明が多すぎて、ページ数のわりにはストーリーはさして進展してないなー、と思った。下巻はどうなるんだろう?
実はあんまり気にならないんだけど、買ってるから読みはするお。つうか設定の説明についていくのが疲れて疲れて……おれが馬鹿だということを忘れてもらっちゃ困るな。

デビュー長編だけあって、ものすごい勢いあまっていて「これがワシのSFラブじゃ!」という気持ちはガンガン伝わってくるが、正直だるいです。
だがこの洗練されてなさこそがSFのSFたる由縁な気がする。

(08/6/9)


クリスタルサイレンス〈下〉 (ハヤカワ文庫JA)
藤崎 慎吾
早川書房





長編ハードSFの下巻。
実にSFらしいSFだった。
細胞レベルのミクロと惑星レベルのマクロを自在に行き来する作者の視点。
常識への懐疑と、どこか青臭い思想。
惑星開発、先史文明、ネットワーク社会、ハイブリッド兵士など、SFにありがちなガジェットも欠かさず有意義に取り入れ、まさにSFを愛したものがSF愛をこめてこめてひねくりだした大作だ。
そのテーマは小松左京の流れを汲み、筆の精緻さはハインラインを、知識の広さはアシモフを想起させる。まさに正統派のハードSF。日本にこのようなSF作家が現れる土壌がまだあったというのが驚きだ。

が、全体の印象としては「少佐のいない攻殻機動隊」であり、つまりストーリーが広いのはいいが展開が散漫で地味だ。
アニメ映画『イノセンス』の前半を観てみれば分かるとおり、どれほど美麗な映像と魅力的な世界観を用意しようとも、主役なしには物語りは精彩に欠ける。(もっとも、押井守はそんなこと百も承知でわざとそういう作品として『イノセンス』を作っているからタチが悪い)
要するに、物語を牽引するわかりやすい魅力がないってことだ。
こういう方向に邁進するから、SFは廃れていったのだ、ということを如実に思い出させてくれる、そんな作品だ。つまり、それほどSFらしい。
キャラ偏重でストーリー二の次のゲーム・漫画業界と、読者の理解が二の次のSF業界、もっといいところに妥協点はないものですかね?

ともあれ、SF者には愛される作品だというのはわかったが、半端者の自分にはあんまりついていけなかった。がんばりすぎ、という印象。内容の伝わらない努力って、見ていて疲れるんだよね。

(08/6/13)











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