タイトル | 評価 | 一言メモ |
gift | うな | センスだけで構成された掌編集 |
アラビアの夜の種族1 | うな | 最強にキモイ男の伝説 |
短編集……というか掌編集か。 同作者の『アラビアの夜の種族』がすごい評判良くて、とても気になるので読もうと思ったが、長いし出だしがいきなりややこしいし、本当にこの作者を信じていいのかどうかわからなかったので、とりあえず短い話を読んで確かめてみることにした。 この本に載っているのは、なんか変なのばっか。 短編というよりは、長編の切れ端、アイデアノートみたいな感じ。 ただし、そこに描かれているのものは変幻自在で、非常にセンスにあふれていた。 彼女に振られたショックで妖精の足跡を撮ろうとする『ラブ1からラブ3』 天才すぎて四歳で自殺する『オトヤ君』 中学生同士の伝統ある秘密の深夜戦争に現れた怪人『鳥男の恐怖』 ベトナム料理を食べると見る不思議な夢『生春巻き占い』 などなど、ほかではあまり見ないような独特の着眼点の作品を、ナチュラルでいてちょっと変な文体を駆使してさらっと語っている。さらっとしているけどそこには愛とか絶望とか現代とかいろいろなモノが語られている。 一つ一つのストーリーに関しては、短すぎて特筆するようなものはなかったが、これだけ多くの話を、これだけさりげなく提示することが出来るのだから、作者の実力とセンスがたしかなのはしっかりと伝わった。 そんなわけで、次は『アラビアの夜の種族』を読もっと。 (09/3/3)
18世紀エジプト。 エジプト侵略を企むナポレオンを謀殺するため一人の奴隷が挙げた策は、伝説の<災厄の書>を読ませて、本の面白さにとりつかせて殺すというものだった。 すぐさま書の探索が命じられたが、そんなものは奴隷のでっちあげだった。 書は、夜の種族たちによって今から作られるのだ。 書をつくるために語られる第一の話、それは醜い王子と蛇神の話だった…… 実際にアラビアに伝わる物語を邦訳したもの、という作者のデマからはじまり、はじまった物語はエジプトの話で、すぐさま主人公らしき人物が伝承を語りだし、その伝承はでっちあげで、別の人物が物語を語り始め、その物語の主人公はとんでもなく邪悪な嘘つきで…… と、ものすごい数の虚構で十重二十重にくるまれたなんともうさんくさい話。 擬古文調でリズミカルに語りながら、時々「〜〜だってば」など、現代語そのまんまの言葉がわざとらしく挿入されて作者の性格の悪さとセンスが光る。 あからさまに千夜一夜物語を思わせる構成からして、著者版のアラビアンナイトなんだろう。 しかしそこで語られる物語は醜悪で陰惨。 醜すぎて屈折しまくった邪悪な王子が、部下を殺し恩人を騙し邪教を支配し家族を殺し帝国で暴虐を尽くし仕える邪神をも滅ぼすという、いやななりあがり物語。 とにかく『グインサーガ』のアリストートスもかくやという陰険さと屈折ぶり。アリとイシュトのいやな部分をあわせたような活躍ぶりにはむしろ惚れ惚れとしてしまう。 ことに終盤の、自らの意思で睡眠を一年以上も断つくだりは、きもアホさにうっとりとしてしまった。 神妙に語られる物語の中で、作者のうさん臭さが最高に輝いているが、しかし一巻だけではまだそれなりに面白い、程度だなあ。 こっから巧みに広がっていくのか、単なる千夜一夜なのか、さて。 まあ、とりあえず二部と三部も読んでみるかー。 (09/4/25) |