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インデックス読書感想文 目次>神林長平



 

神林長平

タイトル 評価 一言メモ
小指の先の天使 うな 神林らしい萌え短編集
蒼いくちづけ うな 長編SFホラー。いまいち
鏡像の敵 うな∈(゚◎゚)∋ 久々の神林はたまらんぜー!
敵は海賊・正義の眼 うな 数年ぶりでシリーズ再開。それだけは嬉しい
うな

  小指の先の天使  うな

小指の先の天使
神林 長平
早川書房


 
SF短編集。神林の新作キター!
期待を裏切らない味わい。が、予想を越えてもいない。妥当なところ。
どうもわしはこの人の作品、SFではなくファンタジーとして楽しんでるっぽい。世界観や語り口がよい。相変わらずなにを言っているかわからぬが。


★『抱いて熱く』
人間同士触れ合うと死んでしまう荒廃した未来世界での話。
小さなビンの中で育てた瓶詰めの魚などの小道具からしてなんか萌える。
でもオチは考えてなかったっぽい。


★『なんと清浄な町』
いつもの味わい。それなりに面白い。いつもの神林っぽい皮肉が萌える。


★『小指の先の天使』
いいファンタジーだ。
肉体を捨て意識だけとなった人間たちと、それを拒み文明を退化させた人間。
お互いの狭間にいる黒衣の番人が、ふらふらとしたのんきな中年男で萌える。


★『猫の棲む処』
猫のソロンが萌える。猫の描写が上手かった。


★『意識は蒸発する』
いまいち意味はわかりにくかったが、とにかく萌える。


★『父の樹』
よくわからない怪物体になってる父が萌える。


結論として、萌え小説、と。
正直、バカなのでよく意味がわからないところが多々あったが、とにかくよし。






  蒼いくちづけ  うな

蒼いくちづけ (ハヤカワ文庫JA)
神林 長平
早川書房


 



SFホラー長編。
昔、読んだことがあるような気はするのに、ぺらぺらめくってみても覚えてないので、再読。

記憶に薄いことを納得。
どうも締め切りに追われていたのか、会話・設定に独特の妙味はちゃんとでているが、作品が消化しきれていない。というか、打ち切り風味。
主人公・OZを登場させるまでにページをかけすぎ、規定の枚数が近づいていたんだろうか、そこからの展開が早い。早すぎる。
OZ自身はいいキャラなのに、それが生かしきれてなかった。

やっつけ仕事、とまではいわないが、締め切りに追われた、いかにも仕事然とした作品なので、読むときはさらりと読めるが記憶に残らない。
まあ、これがのちにいろいろと形をかえてできたのが良作『永久帰還装置』のような気もするし、しょうがないか。プロだもの。お仕事もするもの。
プロってのは、お仕事をこなしつつ、自分のスタンスも守らなきゃいけないから大変だよなあ。






  鏡像の敵  うな∈(゚◎゚)∋

鏡像の敵 (短篇集 ハヤカワ文庫 JA (810))
神林 長平
早川書房


 



SF短編集。初期〜中期の作品が集まってる。


★『渇眠』
相対性理論を用い、時間を超えて逃げる永久犯罪者とそれを追う永久刑事。
二人が火星への連行中に遭遇した宇宙船ではいったい何が起こっていたのか?
眠りが喰われるとはどういう意味なのだろうか?
タイトな文章で語られる時間と世界の考察


★『痩せても狼』
久方ぶりに返った故郷では、貨幣を脂肪に変えて体内に蓄えるようになっていた。


★『ハイブリアンズ』
機械とダイレクトに意思を交換できるようにつくられた人間、ハイブリアン。
記者となった彼が恒星船で出会った事件とは?


★『兎の夢』
日記のように毎日自分の意志を告げることにより、自分と同じ人格を有するに至るコンピューター、PAB。
だれもがPABを持っている時代、機械に触れずともPABの電波を受信できてしまう主人公を誘う機関とは――


★『ここにいるよ』
一日前の出来事をしか見ることの出来ない子供が見ていたものとは?


★『鏡像の敵』
特殊スーツDAMに身を包み怪魔と戦う主人公。だが怪魔の正体とは……


ひゃっほー、単行本未収録だった作品が読めるぜー!
と大喜びしたものの、ほとんどが読んだことあって、初読なのは「ハイブリアンズ」と「鏡象の敵」しかなかった。しょんぼり。
でも、持ってない本に収録されてるのがほとんどだし、けっこう忘れてたので読み直したら面白かったので、それはそれで良し。

正直なところ、神林作品群の中ではちと落ちるほうかな。
「渇眠」「兎の夢」はそれぞれ後年「永久帰還装置」「帝王の殻」という良作を生む土台となった、いわば実験作であって、これ自体は評価できないし、「ハイブリアンズ」「鏡像の敵」は単行本未収録となったのもうなずけるような、神林作品の悪いところが出た一人よがりな失敗作に見える。
「痩せても狼」「ここにいるよ」あたりは、好きだな。面白い。

しかしいまいちの評価ならなんでうな印が?と思うかもしれんが、久々に神林の文章をじっくり読んで、なんか楽しかったんだもん。
句点と倒置法を多用した文章は、独特のリズムと勢いをもっており意外なほどに読みやすく、カッコいい。スタッカートの効いたメロディーを聞いている感じだ。この文章だけでしびれちまうよ、あたしは。
そのリズムで語られるイマジネーションの、なんと豊かで美しいことか。
なによりも、現実への揺ぎ無き不信感ときたら!
どんだけ疑っているんだよと。どれだけ世界は自分を騙そうとしているのだと。
そんな中学生みたいなところがたまらなくいい。

あー、神林は新作ださんのかのう。
連作短編がいいな。おれは神林の連作短編は並ぶものがないほどに素敵だと思うよ、ホントに。

解説、桜坂洋……って、またおまえか!
おまえの本はこの間、窓から投げ捨てたでしょう?(ホントは本棚にあるけど)
それをおまえ、あんた、神林の解説って……おれがどれだけ神林を好きかわかっててやっているのか!?ええ!?おまえはあれだな、本当に、おれのことが嫌いなんだな。おまえの部分だけ窓から投げ捨てる。絶対にだ!

そうしてぼくはこの本をそっと書架に収めたのでした

(07/5/17)






  敵は海賊・正義の眼  うな

敵は海賊・正義の眼 (ハヤカワ文庫JA)
神林 長平
早川書房


 



長編SF。『敵は海賊』シリーズの七作目。
なんと十年ぶりの続刊となる。まだ続ける気があったことに驚いた。

今シリーズは、伝説の宇宙海賊、?冥・シャローム・ツザッキィと、彼を追う海賊課刑事ラウル・ラテル・サトルとその相棒である黒猫型宇宙人アプロを中心に、お互いが対立したり不本意に共闘したりしながら、現実を脅かす敵と戦う作品。
今回の敵は、自然保護運動の活動家ゲラン・モーチャイ。
彼の元に?冥があらわれ、戦線布告をするところから物語ははじまる。

久しぶりの敵は海賊。
いやあ、懐かしい。そうか、もう十年も新刊が出てなかったのか。
私見なのだが、神林長平という作家は、97年ごろに突然に「大人」になった。
神林作品の特徴は「童貞臭い」と評される、現実への強い不信感にある。
言葉が、コンピューターが、物語が、社会が、超能力が、死が、機械が、仮想現実が、自分を現実から遠ざけている。誰もが若い頃に一度は感じる現実との乖離感覚を、ありとあらゆる手法で理屈をこねてハードSFとして成立させる、それが神林長平という作家だ。現実をひっくり返すその手腕は「日本のP.K.ディック」とも呼ばれ、国内に類型の作家はいまだ出ていない。

その、神林作品にはじめて変質を感じたのは『ライトジーンの遺産』だった。
臓器が唐突になんの理由もなく崩壊するという未来、必然として盛んになった人工臓器産業の、その裏で起きた様々な事件を私立探偵である主人公が解決していくという作品なのだが、この作品は、いままでになく爽やかな読後感を与えた。
いままでにも読後感の良い作品はいくつかあったのだが、この作品のそれは明らかに異質なものだった。
この時はそれがどういう違いだったのかいまいちよくわからなかったのだが、その後『永久帰還装置』を読み、さらには火星三部作最後の一作である『膚の下』を読んだ時に、ようやく確信を持てた。

神林長平は、この信用のならない世界を、信用することのないままに許したのだ。

以前の作品にあったのは、居直り、開き直りだった。
信用できないけど、どうしようもないからもういいよ、というものだ。
低俗な男女関係に例えるなら、恋人の浮気は許せないけど、別れたくないから見てみぬふりするよ、という感じだ。
だが近年の作品にあるのは、そんなネガティブな感情ではない。
恋人は浮気をするけど、そんなところも含めて愛してるよ、という感じだ。
性的に枯れたのかもしれない。それで落ち着いたのだろうか。

『敵は海賊』シリーズもまた、?冥が自分を操ろうとするあらゆる力に対抗する話で、その操る力というのは観念的なところが多分にある。
枯れて許して大人になった神林先生がシリーズを書かなくなったのも当然といえるかもしれない。

そんな状態で発売された十年ぶりの新刊。
果たしてどんな感じに仕上がっているのかな? と。期待半分不安半分で読んだ。
で、結果として、安心半分落胆半分新たな期待が半分、といったところだ。

なんというか、読みやすい。
神林作品の中では異様なほどに読みやすい。
構成もストレートで、軽妙なかけ合いと人間関係をおっているうちに、トントン拍子で話が終わってしまった。神林作品特有の「なにいってんだかさっぱりわからないけど凄い」感もまるでなく、そう、なんというか、ちゃんと話がようくわかってしまったのだ。なんという意外な展開。
一応一通りの作品を読んでおいてなんだが、こんなにストーリーが理解できたのははじめてだ。まるで普通の娯楽SFアクションのよう。
なるほど、これが新生『敵は海賊』か。良くも悪くもキャラクター小説のていをみせている。
ここにあるのは往年のように読者の現実を揺さぶるような作品ではない。
だからこそ、単純な娯楽作品として作品世界を楽しめる。

今作の感想を一言でいうなら「物足りない」に尽きる。
ラウル&アプ&ラジェンドラの海賊課チームの出番は少なく、?冥サイドにいたってはラック・ジュビリーすら出てこない。基本的に新登場の一般人達の視点によって物語が進行していくので、仕方がないのか。超人達の視点で持って超人の世界を描くのではなく、一般人の視点で超人の世界を垣間見るような感じに変質している。モーチャイとの対決もあっけなく終わったし、どうにも肩透かしの感は否めない。

しかし、やはり?冥は冒頭からして魅力的だし、新登場のリジー・レジナもクーデレな感じでなかなか良い。
この一作自体に高い評価を与えることはできないが、このテンポと読みやすさでもって今後シリーズが続くというのなら、歓迎しまくりだ。それを期待させる形式であり、雰囲気であった。
せめて一年に一作新刊が出ますように、と空に祈りたい。

(07/11/4)







  タイトル










 

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