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機本伸司

タイトル評価一言メモ
神様のパズルうなぎ議論だけなのにSF。これは新しい





  神様のパズル  うなぎ

神様のパズル (ハルキ文庫)
機本 伸司
角川春樹事務所





大学四年生の僕は、教授に頼まれて不登校の天才少女にゼミに来るように誘う。
にべもなく断る天才少女・穂瑞だったが、僕がひょんなことから挑戦的に発した疑問「宇宙は作れるのか」を受け、彼女はゼミに参加することに。
ゼミのテーマまで「宇宙は作れるのか」となってしまい、他の人間全てがつくれないと主張する中、僕は孤立無援の彼女を支援する立場に。
果たして神様のパズルは解くことが出来るのか?

これは実にSF。
宇宙の作り方という壮大すぎるテーマのもと、冴えない大学生がバイトや恋愛や就活や恋愛に右往左往される姿は、これこそ実にSF。
SFは、若さゆえのものだ。若さとは、無駄なことを考え、無駄なことに時間と情熱をかけてしまうことだ。地にありて空をゆくすべをしらぬままに星をこの手にしようとする営為こそがSFだ。
目の前にある様々な現実に押し流されながら、なお宇宙という手に負えないものを追い求めてしまう本作はまさしく若さであり、ゆえにSFだ。

本作のほとんどは宇宙はつくれるのか、という疑問に対する物理学的なディベートで展開される。いってしまえば、地味だ。物理学なんていう、専門の人間以外にはさっぱりな分野で、多彩な専門用語を駆使しているのも一般人寄せ付けない……なんてことはない。
いや、難しい。おれは物理学なんて本当にからっきしなので、なにいってるのかさっぱりわからない。主人公はすこしバカに設定されていて、彼のおかげで様々な専門知識が噛み砕いて説明されているのもわかる。しかしそれでもなお、ちんぷんかんぷんだ。
にも関わらず、すらすら読める。知的興奮すら味わえる。
なんだこれは? としか云いようがない。専門知識の説明が巧妙すぎるとしかいいようがない。

キャラクターもいい。凡庸でお人よしで本当にどこにいでもいる感じの主人公もいいし、うまれけついての天才少女穂瑞もいい。
特に穂瑞の無愛想な天才ぶりは実にツンデレで、というかツンツンツンツンツンデレくらいで、本当に主人公にデレないままで信頼関係を作っていったのがいい。 周囲のキャラクターも、際立った特長はないが、実に軽薄でお人よしでそれなりに勉強もしてて、大学生らしい。

宇宙の作り方を求め、なぜか新米を食べることで完結するのも、美しい。
作中で主人公はこれをもって「閉じた」と感じているが、実にそうだ。
稀有壮大な世界に対して挑み、そして結局は目の前の小さく暖かい現実に落ちてくる。
それはなんの意味もない一周にも見えるが、そうじゃない。その無意味な一周こそが、生きる意味で、青春で、SFなんだ。
遅咲きの新人らしい、若さと円熟とをともに感じさせてくれるいいラストだ。

難を云えば、おれがバカなせいで穂瑞の示した宇宙の作り方の結論が、よくわからなかったことか。まあ、読者の方でレベルをあげるしかあるまい。
なぜかアニメ調の表紙や巨乳を主張する映画に騙されそうになるが、騙されて読むといいと思う。騙される価値のある作品だ

(08/11/1)










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