タイトル | 評価 | 一言メモ |
玩具修理者 | うなぎ∈(゚◎゚)∋ | ホラー。戦慄すべき思考回路 |
人獣細工 | うな∈(゚◎゚)∋ | やはり邪悪な短編集 |
密室・殺人 | うな | ちょっとすっころんだミステリー |
肉食屋敷 | うな | 多彩な魅力のホラー短編集 |
ΑΩ | うな∈(゚◎゚)∋ | ゲテグロリアルウルトラマン |
海を見る人 | うなぎ | ハードSF短編集 |
家に棲むもの | うな | 邪悪で滑稽な短編集 |
目を擦る女 | うな | 短編集。ホラーなのか、SFなのか…… |
ネフィリム 超吸血幻想譚 | う | これはよくないB級ホラーアクション |
脳髄工場 | うな∈(゚◎゚)∋ | 相変わらずの鮮やかな構成とグロさ |
忌憶 | うなぎ∈(゚◎゚)∋ | 記憶に関するホラー短編。傑作。 |
モザイク事件帖 | 未読 | |
天体の回転について | 未読 | |
単行本未収録作品等 |
長編SF。 宇宙から流れついた精神生命体が、敵と戦うために人間に寄生するのだが…… ウルトラマンをリアルにSF考察して書いたらグロくなった、という感じの作品。 傑作。 グロとSFがうまく融合した、作者の集大成といった感じ。 難解に書かれすぎている嫌いはあるが、うまくいっていると思う。 小ネタも効いているし、わき役までうまく書かれている。生殺与奪がうまい。 ただ、主役が魅力に欠ける一面はぬぐえない。しかしキャラクター小説でないのでいたしかたないか。 最後の一ページに、ほかでは味わいがたいSF的ロマンを感じた。
ホラー短編集。 ★『家に棲む者』 お、良作。 この人にはいいかげん飽きてきたかと思ったが、今回は毛色を変えてきてよかった。 絶壁にたつ違法建築の屋敷。異常に高い天井が作る暗闇。そこに潜むもの。 気持ち悪いがちょっとホノボノとしたオチに「え?それでいいの?」と突っ込みたくなった。いい意味で ★『食性』 菜食主義者は超キモイ。マジ嫌いです。そういう話。まあまあかな。 ★『五人目の告白』 わりと良かった。 『肉』 ホラーというか、変な話だった。変態教授が良かった。 ★『森の中の少女』 狼少女の話。オチが最初の2ページくらいで読めるのはどうか? ★『魔女の家』 うーん、普通。 ★『お祖父ちゃんの絵』 い、いやな話だなあ。一昔前の山岸涼子みたいな話だな。天人唐草あたりの。 ネタバレで要約すると嫁き遅れの電波ちゃんが目をつけた美少年を拉致監禁するだけの話ですが、電波ちゃんの妄想ワールドがごっつ嫌。超きもいです。
佳作といったところか。 短い枚数でよくまとめているなあ。 蚊って、妊娠中しか血を吸わないんだあ、と豆知識に感心していたら、そこがオチにもつながっていて感心。 普通に蚊と恋に落ちる主人公がなんともいえない。 爪でバッテンをつけるのと、吸血鬼と十字架に応用したオチも見事。 ちょっと駆け足すぎた気もするが、なんとも見事な短編だった。 こいつ、うめえなあ。
えーと、ジャンルは……ま、どうでもいっか。 歴史の陰に潜み、太古より人々を貪り喰らっていた吸血鬼たちが、近年謎の大増殖をしているという。 それに対抗するために組織された特殊組織コンソーシアムでは、日々吸血鬼退治の研究が進められ、着実な成果をあげてはいたが、あまりにも強力な吸血鬼の力は依然として大きな脅威であった。 しかしそんな折、最強と恐れられた吸血鬼カーミラが殺される。犯人は自らをストーカーと呼び、Jと名乗る。 全人類と吸血鬼を家畜と呼ぶJを巡り、コンソーシアム最強の戦士ランドルフと、カーミラをも上回る力をもつ最強の吸血鬼ヨブがいま立ち上がる。 ああ、人の世にこれほどの悲劇があろうとは。 ぼくは小林泰三を才能ある作家だと思っている。 奇想をもって唸らせる叙述テク。狂気をはらむ粘着質な文章。大衆を嘲り笑う諧謔性。想像の遥か上を行く異形の超生物。大胆にして緻密なSF設定。それらの底に滲む人間性と、血まみれのリリシズム。 いずれもが無二のものであると思っている。 なのに、なんでこんな駄作が出来上がってしまったのだろう。 ほめるところがない。一切ない。 いい加減な設定。なげやりな文章。へなちょこなアクション。適当な展開。ひねりのないグロ。投げっぱなしの伏線。魅力のないキャラ。わかりにくい説明。根本的に魅力のないストーリー。ため息しか出ないラスト。 どこをとっても、ひどいとしか言いようがない。 いったいなにがどうしてこんな作品ができたのか、まるで理解できない。 失敗作だというのはわかるんだが、ではこれの完成形とはどんなものであるのか、まるで想像もつかない。材料も調理法も出来上がりもすべてが最悪という、手直しのできない料理だ。ゴミ箱に行くしかない。読めば読むほど、失笑をも超えた虚無感が全身を蝕んでいき、とどまるところを知らない。 なんなんだろう? いまさらデビルマンにでもはまったか?それともヘルシング?覚悟のススメ? 悪い意味で漫画的でありながら、全方位的に漫画以下という、ある意味偉業とすらいいたくなる作品だよ、これ。 もうね、切ない。 こんなものに、無限ではない自分の時間を費やしてしまったことも切ないし、才能ある作家がこんな作品に多大な時間と労力を割いたということがたまらなく切ない。 ああ、ほんとになんでこんなことになったんだが。 元々、B級作品だってのはタイトルから窺えて、この作者が長編はいまいちだということも知ってて覚悟きめてたのに、これほどダメージがでかいなんて、まったく予想できなかったよ。 とにかくひどい。 ぼくにはもう、それ以外の言葉は吐き出せないですだ。 それで勘弁して下せえ。
ホラー短編集。 雑誌やアンソロに載せたきりだった作品を集めて収録。 読めなかった短編やショートショートが、やっと読める。 雑誌は古本屋とかでも滅多にみつからないだけに、実にうれしい短編集。 ただ、そのせいで読んだ事ある作品も多かったのは痛し痒し。 全体的に、安定して面白い。 ショートショートでは『停留所まで』が特に良かった。怪談話の好例。 短編では、以前に読んだのだが、やはり『C市』が出色の出来。 和製クトゥルーものでは最高レベルだと思う。 現代ものならではのSF設定が光るし、そのうえでちゃんとコズミックホラーしてる。もっとクトゥルーものを書いて欲しいものだ。 ★『脳髄工場』 書き下ろしの中篇。これがまた良い。 ぞくぞくするほどいやな世界だ。現実を揺さぶる手腕はさすがの一言。 特に理髪店で脳髄を埋められる描写は、理髪師の手際の悪さやいいかげんさが妙にリアルで、きもこわい。 ただ、出だしがちょっとたるく、終盤も話を広げすぎかな、と思った。 ★『友達』 惜しい。出だしの10ページはとてもいがった。ダメ人間で。文章的にも凝ってたし。 ただ、ストーリーの進め方が性急すぎた。 倍の文量でちょうどいいくらいちゃう? ★『タルトはいかが?』 普通の作品だった。 叙述トリックで最後にどんでん返すという、デビュー作以来のこの作者の伝統技能でつくられた作品なんだが、惜しい。むしろその技能はいらなかった。 必要以上に凝ると肝心なことが伝わらなくなるという見本かもしれません。そうじゃないのかもしれません。 血を混ぜてつくるお菓子を、いかに不気味かつうまそうに見せるかが勝負の作品であったので、余計な構成テクは見せずに、筆力で勝負した方がよかったのではないか? なんて思ったり思ったり。 久しぶりに新刊を読んだが、やはりこの人はおれの「あー、ほんとにやだ」というポイントを実にうまく突いてくれる。 今後も期待。 (06/8/12)
ホラー。連作短編集。 ★『奇憶』 人生がなにもかもうまくいかない男が、追憶に浸る中で、自分の記憶の異変に気づく 以前、別の出版社から単品で出ていたものの再録。 ほか二編は、連作というよりは「奇憶」の登場人物を再利用したサイドストーリーというかスピンアウト物というか。連作としての楽しみはほとんどない。 素晴らしい。 以前読んだときも思ったが、とにかくダメ人間の鬱屈した描写が素晴らしく、汚い部屋にこもっているみじめったらしさのリアリティときたら、素晴らしいものがある。とても嫌です。こんなの。 自らの記憶の異変に気づき、また現実に押しつぶされ、少しづつ正気を失っていく描写も見事で、オチもうまく決まっている。クトウルー物として意識しなくても面白いし、してもなお面白い。傑作ホラーだ。 ★『器憶』 恋人を喜ばせるために腹話術を学ぶ主人公は奇妙な人形を手に入れたが…… 『奇憶』に比べると薄味で、ちと一発ネタだったかな?という気がする。 しかし、人間とは?意識とは?自我とは?というものを曖昧にさせる、邪悪な話法は健在で、特に意識をPCのCPUに例えるあたりの話法が鮮やか。 ★『脆憶』 前向性健忘症にかかった男の、自らの残したノートに書かれていた秘密とは…… また、書き口がうまい。 おもわせぶりなノートの箇条書きからはじまる出だしは興味をそそられるし、前向性健忘症の人間の曖昧な意識を、ループの多い混濁した一人称でうまく表現している。 それにしても映画『メメント』の時は思わなかったが、前向性健忘症というのはなんとも恐ろしい。 暮らしにくくなるのはもちろんだが、ストーリーが追えないから映画もドラマも小説も楽しめない、というのは、かなりぞっとする。 それに、なにを学んでもリセットされるので、結局なにもできないというのは、これは毎回殺されているのと同義なんじゃないかとすら思われる。 そういったことを読み手にしっかりと思わせるいやらしい書き方が、実に小林泰三らしい。すっかりしてやられた感じだ。 なぜ自分が、どうやって殺したのかもわからぬ死体を、自分の残したノートを頼りに処分していく様子はなんと絶望的だ。 ただ、後半少し駆け足というか、強引に物語が進み、曖昧に終わってしまったのが残念。もう少し長く書いて欲しい作品だった。 自己の記憶、ひいては自我のあり方というものを揺さぶる作品群であり、その点において凡百なホラー作品とは一線を画している見事な作品集だった。
★『攫われて』(『殺人鬼の放課後』収録)
出だしてオチがわかる、取るに足らない話。 が、文章的には見所あり。むなくそ悪くなる。 特に、誘拐犯がさらった少女たち(小学生)に、性的虐待をほどこしたのかどうかが、それっぽく書いておきながら、確信犯的にぼやかしていて、とても胸糞が悪い。ここはぜひとも見習いたい。 ぼかすことによって、それを深読みしてしまった(させられた)自分が嫌になるという、相手の想像力を利用した胸糞悪さ。実にレベルが高い。 もっとも、作品自体はどうでもいい話だったわけだが。 この作者の、文章的には安定しておきながら、時々ストーリーでポカをやるくせはなんとかならんものか。まあ、ならんのですがね。 |