タイトル | 評価 | 一言メモ |
阿修羅ガール | うな∈(゚◎゚)∋ | 現代という混沌を文体だけで見事に描いた問題作 |
土か煙か食い物 | うな∈(゚◎゚)∋ | 激しすぎるデビュー作 |
暗闇の中で子供 | うな∈(゚◎゚)∋ | 切実すぎるが意味不明すぎる |
好き好き大好き超愛してる | うな∈(゚◎゚)∋ | 色んな意味で痛すぎる |
みんな元気。 | うな | みんな元気だった |
九十九十九 | うなぎ∈(゚◎゚)∋ | 最強すぎる黙示録 |
スクールアタックシンドローム | うな∈(゚◎゚)∋ | 意味わかんないけど気持ちは伝わる舞城ワールド |
めくるめく | うな | ラリってるとしか思えない |
山ん中の獅見朋成雄 | うな | まったく意味がわからないけど良かった |
なんかジャンルはよくわからんけど、長編で、三島由紀夫賞受賞作品です。 あらすじ 好きでもない男とやっちゃって最悪な気持ちになってたら、翌朝にはその男が行方不明になって、そんなことより自分は片想いの相手が気になってるし、街ではグルグル魔人なるシリアルキラーが話題になってるし、グルグル魔人に子供を殺された若夫婦は昼間から泣きながら公園でセックスしてるし、同級生には焼きいれられそうになるし、逆にボコルし、天の声(要するに2ch)では祭りが起こって中学生狩りがはじまっているし、なんかもうとにかく街は現代はカオスですよ、みたいな感じ。 第一部はすげー面白い。 文章がまず面白い。思わず笑っちゃうと同時に、実にうまく現代をとらえていて、ここまで乱雑な言葉遣いなのにちゃんと主人公が女の子してるのが凄い。まさしく現代という感じ。 なんか急に感想を書くのがだるくなってきたな…… とにかく、話はあっちこっちに転がるし、いちいち文章は面白いし、いったいこの物語はどこにいくつもりなんだよw とその滅茶苦茶さが痛快極まりなく、けたたましいのにちょっと切なさや寂しさを感じてしまうのが本当にもう、現代。 三島由紀夫賞って、今はしらんが筒井康隆が選考委員やってた賞だよね? それじゃ、これ受賞させるわなー。 どたばたぶりが実に筒井康隆的だもの。松尾スズキと同じラインだね。 なので、とにかく一部は傑作なんだが。 二部以降はどうにも。 いや、十分に面白いんだが、ちと内容が薄いし、観念的でどうにもすきじゃない。 グルグル魔人の内面も、主人公のもつ混沌に比べるとどうも普通にわかりやすいシリアルキラーで。二十代後半のひきこもりニートでドメスティックバイオレンスで幼児虐殺って、どうもひねりがなくていまい面白みに欠ける。 まあ、なんまいダイブが面白かったから、いいか。 まあ、面白い作品でした。 ただ、一部で「この話はどこまでいっちゃうつもりなの?」とかなりワクワクしたのに、けっこう小さくまとまってしまったのが残念だ。 (07/6/23)
長編ミステリー?なの?メフィスト賞受賞作 サンディエゴのERで腕利き外科医として暮らす奈津川四郎の元に、故郷の福井から凶報が届く。福井で起きている連続主婦殴打事件に、四郎の母が巻き込まれたというのだ。 あわてて福井に舞い戻った四郎は、犯人への復讐のため、警視庁勤務の友人を脅し、独自に調査を開始する。 しかし、事件には行方不明の奈津川家次男、奈津川二郎の影が見え隠れする。 奈津川家にはかつて、壮絶な親子の確執があったのだ。 面白い。 まったくもって全然どこもミステリーじゃないところが面白い。 動機もめちゃくちゃ伏線も唐突で、展開はいいかげん。出てきた意味のわからない登場人物も多く、無駄な描写や過剰なアクション、ご都合主義に、推理になってない直感による捜査と、根拠のない犯人当て、浮いているほど適当な描写の犯人。 およそあらゆるセオリーを無視した問題作だが、しかし面白い。 これは主人公の救済の物語だからだ。 セックスと暴力に彩られた人生を送る男が、愛を求め放浪し放蕩し咆哮し、その果てに家に帰って安らかな眠りを得るまでの物語だ。 ゆえに、結局事件とはほとんど関係なかったんじゃないかと思える奈津川家の事情が物語の大半を占めていてもいいし、名探偵が突然出てきて、影の薄いままに殺されててもいい。 地元の名家、奈津川家。 異人の血を引き、一族の誰もが百八十センチを越す長身と、優れた身体能力を持つ。 政治家として大成するが自殺した祖父、大丸。 父の丸雄は祖父の跡を継ぎ政治家となり大臣を歴任。一方で家庭を暴力で支配する暴君。 長男の一郎は父の後を継ぐ優等生の政治家。実はマーシャルアーツの達人。 次男、二郎は元いじめられっこで、キレて復讐してからは地元の暴君。 芸術的ですらある暴力で周辺一帯の不良を征圧し、どんな女も落としてセックス漬けの毎日。 実は一目見たものを一瞬で暗記する頭脳を持ち、ニーチェやチャンドラーを一字一句たがわず暗誦することができる天才。 父と顔をあわせるたびに顔が変形するほどに殴られ、祖父の自殺した蔵に閉じ込められ、ある日その密室の蔵から消える。 三男三郎。地元で文学を描きながら、変名でベストセラーミステリーも書く作家。 そして主人公の四郎。医療の神を自称する腕利き外科医で、セミプロレベルのボクシングの腕前を持ち、自分でもわからない数の女性と同時に付き合い、文学映画音楽に通じ、優れた知能と傍若無人な態度を併せ持つ男。 この一族の設定が、もうどこの中学生が考えたんだってくらい超人で、しかしそれがぴったりはまってるんだから面白い。きっと、作者がマジだし、ちゃんとそう見えるように描写されているからだろう。 文体は口語体で改行が少なくスラングに満ちており、すべてが合わさって異様な疾走感を作り出している。この文体なくしてこの物語はありえないし、普通の文体だったら目も当てられない作品だったろう。 この文体だからこそ、四郎の語る兄弟愛には説得力が生まれ、この文体だからこそ、うそ臭いほどの暴力に真剣味がある。 個人的には、JUNEだと思って読んだ。 しかし、この作者はなんで最低の兄がこんなに好きなんだろう。 ※追記 ふと思いついて「阿修羅ガール」が受賞した第十六回三島由紀夫賞の評を見てみる 案の定、真っ先に推しているのは筒井康隆で「ファンタジイ、実験、笑いというわし自身が勝手に設定した現代文学の三つの条件をクリアしている」とのこと。ふむ。だから筒井文学と共通点が見受けられるのか。 「難のひとつはあまり面白くないことで」とかも書いてあり、相変わらず筒井康隆の言いたい放題かつ説得力のある評にはほれぼれとする。 逆に宮本輝が超絶大反対してて「そりゃ輝りんがこいつの作品ほめてたらなんかやだもんなあ」とひどく納得した (07/7/27)
長編……ミステリー? あらすじ 連続主婦殴打生き埋め事件(前作『土か煙か食い物』)ははじまりに過ぎなかった。 奈津川兄弟の価値なし男、三郎を襲う様々な出来事。 事件の延長線上にで起こる奇妙な出来事。 埋められたマネキン。自殺を繰り返す十三歳の少女。目覚めない母親。次々と起こる連続殺人。現場に残る「殺ジャクワトラ神」というメモ。 ありとあらゆる最悪が襲う中で、三郎が得たものは…… めちゃくちゃだ。 およそ物語の体を為していない。 なんだこの小説は? 巻き起こる事件はどこまでもグロテスクで、目を覆うばかりの暴力が次々と繰り広げられ、悪夢じみた世界はどんどんと現実味を失い、なにひとつ解決のしない後味の悪いラストには眩暈すら覚える。 『土か煙か食い物』もかなりきわどい、作品として成り立っているかどうか怪しい代物であったが、今作は完全にそれを飛び越えてしまっている。これは小説ではなくただの悪夢だ。一人の青年が味わっている悪夢の世界をそのまま描いたものだ。物語としての完成度など、まったくない。 だからこそ、ここに描かれているのは確かな叫びであり、愛であり、人間である。 所々、脳裏に焼きつくような鮮烈なシーンがあり、台詞があり、人間がいて、読んでいる間はそれらについて語ろうかとも思っていたのだが、怒涛の終盤を読み終えた今では、すべてが虚しい。 作品としての完成度はかなり低い。 あまりにも迷走をつづけ、まとまりがないストーリーだし、意味不明だし、余韻はおよそ最悪だろう。しかしこの作品をもって、俺は舞城王太郎という存在を全面的に肯定することにした。ここまでシニカルに愛と絶望を叫べる人間を認めないわけにはいかない。 とにかく読んで、この「最悪」を感じるしかない。語ることも虚しい、そういう作品だ、これは。 (07/12/10)
ジャンルはわからん。文学なの?中篇二つ。 さまざまな恋人の死を描いた表題作 ★『好き好き大好き超愛してる』 頭にプラスドライバーを突きたてられて死にかけた俺がみた、頭の内側にあるもう一つの世界 ★『ドリルホール・イン・マイブレイン』 なんかもう、すごい。 今現在、この日本で舞城王太郎ほど激しく切実に、愛とその痛みについて書いている人間がほかにいるだろうか? 描く情景の一つ一つがグロテスクで、痛くて、笑えて、なのに切なく胸に突き刺さる。いや、突き刺さるなんて生易しく表現できるものじゃないな。それこそ心臓をわしづかみにされてそのまま市中引き回しの刑にでもされたようなほど、心をぐりぐりと容赦なく痛めつけてくる。手加減なんてしてくれやしない。 ★『好き好き大好き超愛してる』 さまざまな恋人の死を描いた〜なんて書くとありふれているんだけど、その様々具合がしゃれんならないくらいに様々だ。 内臓を喰らう虫ASMAに寄生され、生きながら虫の巣となった恋人。 神と戦う戦士イヴとなってアダムの指示のもと戦う恋人。 夢の中で出会って恋をしたけど、とっくの昔に殺されて埋められていた少女。 半年前に死んだ恋人のことをいろんな形で書きつづける小説家。 現実離れした話とリアルな話とが交互に語られ、しかしそこにある心の痛みと欠落はリアリズムと関係なく等価だ。この爆発するように読者に叩きつけ暴走するイマジネーションと、しかしどんな世界を書いてもまったく軸のぶれない感情の描き方は天才を通り越してただの変態の域。どう考えても頭がおかしい。 ★『ドリルホール・イン・マイブレイン』 この作品もぶっ飛びまくってSFと哲学の領域にある。あるいは二つとも飛び越している。 母の浮気相手にプラスドライバーを頭に突きたてられて死にかけた俺は、幻覚を見るようになり、プラスドライバーによって開いた頭の中にもぐっていく。するとそこには外側とおなじように世界が広がっており、頭の内側では俺は世界を守るために調布市で戦う正義のヒーロー村木誠で、頭には穴が開いていて性感帯だった。俺は自分が外の世界同様福井の西暁にいるのどうかを確認するため福井に向かったが、その間に福井は敵に襲われ世界はあと三十分で終わることになってしまったのであった…… ダメだ、あらすじだけでも強烈過ぎてどう説明すればいいのかちんぷんかんぷんだ。 しかしこの強烈なイマジネーションの数々と、ドライブ感のある文章はやはりただごとじゃない。 はっきり云ってどうやっても俺には舞城作品を説明することすら出来ない。まったく理解できない。 理解できないのに、これらの作品が独自のルールのもとに書かれており、そのルールに基づけば完璧に近い仕上がりであるのもわかる。 読まなきゃ百万言を費やしても無駄だし、読めば絶対に一瞬でわかる。舞城王太郎はそういう類の作家だ。 村上春樹の時代は終わったね。あれはもう現代的じゃないよ。春樹ワールド自体が幻想化されてしまっていて、上質の読み物でしかなくなっている。 いま、現代という時代を感じたいなら舞城を読むべきだ。複雑怪奇で理解不能な物語世界が、しかし凶悪な勢いでこちらの感情に喰らいついてくるのはもうどうしようもなく現代的。この凶暴にして善良な混沌を抱えたまま素直に生きているのが現代人ですよねー。 だからうなぎの感想なんて読む前に、なんでもいいから舞城作品を読むべきだと思うよ? あと間に作者自身によるイラストギャラリーがあるけど、やたら上手いうえにセンスの異常さが小説とまったく同じ。自我という混沌を表現する方法が二つもあるなんて憎い。 でも完全にかなわない領域で作品を書かれるともはや嫉妬すら起こらない。 とにかく現代人なら一冊くらいは舞城を読んでおくべきだと思う (08/5/30)
★『みんな元気。』 夜中にふと目が覚めたら姉が浮いていて、そしたら妹も浮いていることがわかって、そんな妹を空飛ぶ一家杉山家が迎えに来て代わりに別の子を置いていくんだけど納得いかないから竜巻に乗って空飛ぶ杉山家に乗り込んだけど結局妹は杉山家に残ってそれが原因で父親は無気力なダメ人間になったけどそれはそれとしてだれとつきあっても「こいつはいつか姉ともセックスするんじゃないか」と気になってしまう私は十九歳でセックスレスになったのであった。 舞城作品ほどあらすじが説明できない作品はない。 筒井康隆の文学作品はたいがい説明しにくいが、それでも舞城には全然かなわない。なにせあまりにも物語が混沌としすぎて「それ、テーマを分けて三つくらいの短編にしろよ」と云いたくもなるのだが、しかし読み終わって冷静に考えるとなんかこう言葉にしづらいところでたしかにすべての物語がきちんとつながっていたような気がしてくるから不思議であることよ。 全体的に舞城節全開だが、今作はわざと時間軸が曖昧になるように物語の過去と未来がいったりきたりと混在しているところが面白かった。さらに後半、三つの可能性未来の混在する家に跳んでしまい、あり得るかもしれない3パターンの未来の家族と同時に暮らすシーンは、なんか凄い。 しかし全体としては素直にこう云いたい。 意味がわからない。 ★『Dead for Good』 バイト先の友人が狂的サディストで薬を盛られて散々いたぶられてから身体が不自由で時折奇声を発するようになった主人公は、まともな仕事につくことが出来ずに職を転々とするが老人ホームで働くようになってなんとかなった。サディストの友人は海外でテロリストを捕まえていたぶり殺したり変態に売りさばいたりしてそれをいちいち手紙で報告してくるので「早く死ね」といつも返事を送るのだが、それでも主人公はかれを友達だと思っているのであった。 意味がわからない。意味がわからないが惹かれる。舞城はいたいなにがしたいのか云いたいのか。 ★『矢を止める五羽の梔子鳥』 もはや適当なあらすじすら書けない。 作中でなにが起こっているのかまるでわからない。 『煙か土か食い物』で見られた、言葉の連想ゲームがそのままストーリーになっているような物語の転がり方は白昼夢としか思えない。かぎりなくドラッグに近く、しかしドラッグではないなにかを日常的にキメているとしか思えない。 全体的に今日も舞城全開ですねという感じだった。 さすがについていけないです。 でも読み終わって感じたことは、たしかに「みんな元気」だった。 (08/5/30)
なんかすごくすごい。 生まれたその瞬間から、その瞳を見た人間を確実に失神させてしまう完全な美を備えた「僕」は、生まれた瞬間に医者を失神させ母親を失神させ看護婦を失神させその異常性から殺されそうになったところを別の子供の母親に誘拐され失神させ看護婦の鈴木くんに誘拐され、そのままサングラスをつけられ育てられたが、鈴木くんの怪物的愛情によって目をほじくり出され、治療したもののそれ以来、目玉が自在に取り出せるようになってしまった。 「僕」はそのまましばらく鈴木くんとその恋人である加藤くんに育てられたが、鈴木くんは「僕」への怪物的愛情によっておかしくなり、警察につかまって、「僕」は加藤くんの養子となって加藤九十九十九と名づけられた。 あまりに危険な美貌のため加藤家の地下室から一歩も出ることなく育てられたぼくは、加藤くんの甥姪であるところの美貌の双子セシルとセリカに怪生物ガジョブンとしてずだ袋をかぶったペットとして扱われ、思春期になると二人にアナルセックスをしたりされたりして暮らしていたが、おおむね幸せだった。 しかし、ある日、近隣で起きた事件によって「ぼく」は外の世界に出ることを決意するのだが…… という、あまりにも濃厚で頭のくらくらするストーリーが出だしのわずか3、40ページであり、600ページを越える全編がこの濃度で突き進んでいくという異常さにほんとにもう頭が痛くて割れそうだ! が、神がかった傑作である。 世の中には天地人すべてがその瞬間にそろっていなくては現出しえなかったであろう作品がいくつかあるが、この作品はその類のものだ。つまり数年に一度の傑作だ。まさか『虚無への供物』や『ドグラマグラ』に匹敵するアンチミステリが、メタ小説がいまになって登場するとは、いやいやまったく思わなかった。 中には竹本健治の『函の中の失楽』をも『虚無への供物』『黒死館殺人事件』『ドグラマグラ』のアンチミステリ三部作に次ぐ、ないしは並ぶ作品として評するものもいるが、なに、あれは所詮、中井英男のフォロワーの域を出ない若書きの佳作でしかない。 読み物としては十分以上に面白いが、中井英男や夢野久作に比肩しうるような作品ではないよ。あの作品には、アンチミステリ三部作が持つほどの強烈に凝り固まった世界観が存在しない。 それに比して、この『九十九十九』 三部作と趣をまったく異にしていながら、それに並ぶほどの強烈な世界観をもっている。 ではどんな世界観なのかというと、まあいつもの舞城的グロテスクな愛と暴力を中心に、メタにメタを重ねた説明しがたいものになっている。 いや、ホント、さっきからなんとか説明しようと書いては消してをくり返しているんだが、ダメだ、どう説明しようとしても錯綜しすぎて意味がわからない。説明できない。 とにかく読んでいると、なにが現実なのかまったくわからなくなる。 九十九十九というのはもともとトンデモ本で有名な清涼院流水のつくったキャラであり、目が合うと誰でも失神してしまうというのもその設定に準じたものだ。 しかし、ただのスピンアウト作品などでは断じてなく、作中に清涼院流水自身やかれの小説『彩門家事件』の舞台がそのまま登場し、果ては清涼院作品で探偵神と呼ばれる九十九十九が「僕」とは別に登場しはじめるまでやりだし、そのうえ前章の「僕」と次章の「僕」が出会い、世界は聖書に見立てられ流転し、同じ人物は章が変わるたびにちがう人生を送りそして死に、まったくもってなにがなにやらわからないトンデモ理論の連続ではあるが、しかしその端々で「僕」の放つ心の痛みとすべての者への愛惜とが、痛烈に心を揺さぶってくる。 グロテスクな描写、不可解な設定、斬新な構成、それらすべてが異常な濃度でもってこちらを襲ってかきみだす。 間違いなく、現在もっとも極北に存在するミステリーだ。 それにしても、ストーリーも良さもまったく他人に伝えられないような作品を書くのはやめてもらえないだろうか? 結局感想としては「なんかよくわからないけど凄かった」にしかならないんですけど。 (08/6/4)
★スクールアタックシンドローム ある中学生グループが計画的に全校生徒と教師たちを惨殺し消えうせてから、全国的に学校襲撃が流行っていた。 主人公は精神が病んでソファーから起き上がることのないまま半年ほどひきこもって暮らしていたが、謎の人間に襲撃されたので思わず相手の耳を食べたら、それが原因で他人が死んで友人が人殺しになってしまった。 そうこうしているうちに15の時につくった息子が学校襲撃計画をノートに書いていたと聞き、久しぶりに外に出たのだが、息子との関係はややこしはいことになっていたのだった。 ★我が家のトトロ 売れっ子コピーライターだった主人公は28にして唐突に天啓を得て脳外科医を目指し、ひきこもって真面目に勉強しているのだがなかなか医大には合格できず、娘は父親が原因でいじめられたりしたみたいだが、妻は夫を深く愛しているし、娘と遊ぶことがなによりも楽しく、飼っている猫は完璧なまでに美しく、娘が云うには正体はトトロらしかった。 ★ソマリア、サッチ・ア・スイートハート 何故かソマリア民主共和国から名前をつけられた少女・杣里亜は、父が早くに死に母に疎まれ、スカトロマニアカニバリストの叔父に異常な虐待を受けつづけ、異様な態度で学校中で嫌われていたのだが、主人公の彼女は激しく杣里亜をいじめており、ある日勢いで首を回して殺してしまったのだが、主人公と彼女がセックスしているうちに、病院で死亡確認された四分前に学校の教室で蘇っていた。 以上三篇収録。 強烈。 相変わらず強烈過ぎる。 劇薬にして珍味。 明らかに病人か変態か天才しか書けない作品であり、ありていにいって舞城は病人と変態と天才全部だとしか云いようがない。 毎回あらすじが意味不明になるし、もちろん読んでいても意味不明だし、支離滅裂で荒唐無稽でおよそ物語の態を為しているとは云いがたい。つうか云えない。 にも関わらず、舞城のすごいところは、そんな作品の数々が、まるで私小説であるかのように精神的リアリズムに満ちているところだ。実際に体験したことをそのまま書いているとしか思えない臨場感なのだ。 どこが面白いとか、どこが上手いとか、本当に舞城作品の前では無意味も無意味。 そもそも説明してわかるようなものは作品にする意味がないのだ、ということを、舞城作品は叩きつけてくる。 だからまあ、いつも通りに「読め」としか云いようがない。 読めばわかる人にはわかる。 わからない人はわからないでいい。 きっとその方が人生は楽しい。 (09/2/12)
ファウスト2005年6月号に載っていた短編。 高校生男子である僕は、アルバイトとして魔女をやっていて、少年たちのところへ派遣されて魔法を使っていたのだが、今回の派遣先は少女のところでその少女・恵はすごい美少女で、その少女の父は思いつめ母はあちこちで浮気し叔父は母と浮気し姉は別の魔女とエロイ関係で弟は三年前まで犬として生活していた。 そうこうしているうちに、僕は前に告白されてなんとなく断る感じになってしまった女の子となんとなくエロい関係になりかけるんだけど相手にはすでに彼氏がいて、そのころ恵の家では叔父が死に幽霊になってうろつき母が行方不明になっていて弟の部屋では人体に潜む達磨作りの人があらわれて、憎しみの虫を部屋に封印していた。 ……なんでこの人は、それ一つだけでも濃厚な作品になりそうなアイデアを、三つも四つも同じ作品につぎこんで、しかも短編にしてしまうんだろう……わからない……わからないよ。 はじまった瞬間からトップギアが入りッばなしで、アクロバティックな設定と登場人物にとまどう間もなくあっというまにひきずりこまれるのはいつもの舞城。 エロと暴力が過剰で意味不明でなのに変な希望に満ちているのもいつもの舞城。 要するにいつもの舞城だったんだが、作者自身によるイラストも含めて完全に病気としかいいようがない仕上がりだった。 でもいつもの舞城なのですごいし面白いとは思う。 (09/4/17)
男子になぜか鬣のごとき立派な背中毛が生える獅見朋家に生まれた成雄は、中学生になる頃には背中どころか胸にまで毛が生えはじめ、その鬣を見られることを気に病んで陸上のオリンピック候補生となることを拒み、山の中で知り合いの書家・杉美圃モヒ寛のところで書を習いながら、相撲をとったりしていた。 そんなある日、山の中で馬に遭遇した成雄が馬の後を追うと、そこには死にかけたモヒ寛がいた。 その日から、成雄はもう一度馬に会うために山の中を探し回っていたのだが、気がつくと変な場所にたどりついていたのであった…… ごめん、もう本当に意味わからん。 なんなのこの小説?ていうか小説なの? むしろだれか教えてよ…… (09/4/27) |