タイトル | 評価 | 一言メモ |
お見世出し | うな | 短編集。一編だけ良い |
京都に出張いったらそこの舞妓さんが幽霊話しはじめた ★『お見世出し』 同じく京都で芸者がうんちゃらかんちゃら ★『お化け』 日露戦争時に職人が作った恐怖の呪具 ★『呪扇』 第十一回日本ホラー大賞短編賞受賞作を含む三篇を収録。 「お、この表紙、なかなかホラーしちゃってんじゃないの」 となかば表紙買いしてきたのだが、よみはじめてすぐにものすごい勢いで後悔しはじめた。 舞妓さんの京言葉一人称でホラー、という時点で「ああ『ぼっけえ、きょうてえ』の京都版ね」と思ってしまうし(選評でもぼっけぇとの類似に触れているしね。フォローしてるけど)、現にそこから一歩も抜け出せていない。 そのうえで岡山弁からにじみ出るぬっとりとした田舎の空気感みたいな特色もなく、ただ単に京言葉なだけで、なんにも怖くも楽しくもない。ストーリー自体もただの霊話で、光景にも一つたりともオリジナリティを感じるものがない。 最初と最後だけ視点が主人公にうつるのも、同じくホラー大賞短編賞の『玩具修理者』を意識しているようにしか思えないうえに、あの作品のような叙述トリックもない。 とにかく過去の受賞作の表層だけ真似たような手垢のつきまくった凡作。まるでベテラン作家が頼まれ仕事でやっつけたような安定感とつまらなさ。 これに賞をあげるのは、どうかと思うよ? 二作目の『お化け』もまったく同工異曲といった態で、正直読んでて投げ捨てようかと思った。それくらいどうでもよかった。 が『呪扇』 これは良かった。すごくえげつない。 生娘九人を使って作り上げる国家を滅ぼす呪いの扇、というのがいかにも日本的呪術的残酷さで、それをつくりあげるにいたる日本帝国軍の横暴迷走も時代背景と合っている。 ちょっと描写や説明にわかりにくいところもあるが、職人のもつ残酷さというものがよく描けていて、これは怖い。 『お見世出し』で失敗していた視点の移動も今回はうまく決まっていた。この作品だけまるで別人のように良作。この作品だけお薦め。 (08/12/6) |