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奈須きのこ

タイトル評価一言メモ
空の境界 上うな厨二伝説開幕
空の境界 下うなそして伝説へ……
うな
うな





  空の境界 上  うな

空の境界 上 (講談社ノベルス)
奈須 きのこ
講談社




伝説的な売上を為した同人ゲーム『月姫』の前身に当たる同人小説を商業出版したもの。
どんな生物でも無生物でも、この世に存在するものなら何でも「殺す」ことのできる「直死の魔眼」をもつ少女・両儀式の戦いを描いた新伝奇小説。
誰が言い出したのか知らんが、いわゆる厨二設定満載をさして「新伝奇」とは、よくつけたものだなあw

キング・オブ・厨二病は奈須先生のもとにあるな、と再認識したね。
「男と女の二重人格をもつ少女で、男の人格は殺人鬼」とか「無痛症でレイプされてたけど身体の痛みに気づかなかった少女」とか、細かくあげていくとキリがないほどあらゆる設定が中二的な被害者意識と選民思想に占有されている。
だけならばよくいるタイプのラノベ作家なのだが。
奈須先生のすごいところはその「言い訳力」にある。

リアル中二ってのは言い訳が出来ない。語彙もなく知識もない。だから黙ってふてくされるだけだ。
厨二にクラスチェンジすると一味違う。言い訳が出来る。その幅がどんどん広がる。
言い訳に対して突っ込みが入ると、それに対する言い訳がはじまる。エンドレス言い訳。どこまでも留まることのない、虚構にまみれた言い訳の空間。なにひとつ真実のない砂上の楼閣をどこまで築くことの出来るかという能力、それこそが厨二のレベルを分ける決め手だ。
そしてこの言い訳力において、奈須先生は現在でも間違いなくトップを走っている。

この『空の境界』からはじまって『月姫』『Fate』とすべての作品世界をリンクさせ、ぼろぼろと破綻しまくった世界観や矛盾点のうえにものすごい勢いで言い訳をぬりこめて、こちらの突っ込みの三倍の勢いで言い訳するのでうかつに突っ込めないという、ある意味で完璧な空間を作り上げてしまった。
この言い訳力に満ち満ちた文章空間は、言い訳がそういうものであるように、無駄に長いし、話がよく脇道にそれる。その文の中身自体に意味はないのだ。
そこにあるのは「おれは突拍子もないことを云ってるけど信じてよね」という作者の主張だけであり、衒学趣味ですらありえない。言い訳をするのは単に読者を信じてないからだ、とすら云える。

タイプムーンが、奈須きのこがヒットしたのは、キャラ萌えだのバトル要素だのもあるが、やはり他の作家・作品と一線を画しているのはこの言い訳力に尽きる。
この淀むことなく永遠に続く言い訳力こそが、読者の共感と憧れを生んでいるのだ。
やはり奈須先生は一味ちがった。

しかし……
ゲームだとほとんど気にしないくせに小説になった途端にこういうこというのもなんだけど……
文章下手だなあ……

無駄に長い文や無意味に使用されている難解文字は、言い訳力を構築するのに一役も二役も買っているから仕方がないとして、キャラの会話のリズム感のなさがひでえなw
特にエロゲーの主人公としかいいようがない黒桐くん(コクトーと読むw 実に素晴らしい厨二センス!)の会話は一言一言がイラッと来る仕様。まあ作者の性格がアレな場合、性格のいいキャラを書こうとするとたいてい失敗しますよねw
つうか、黒桐くんのコンパチキャラである『月姫』の主人公・志貴くんもたいがいいらつく性格だったので、しょうがないのか。
しかしエロゲーの主人公ならそれもしょうがないとは思うが、脇キャラにこういうのがいると実にむかつくものだな!

また、第一章は純粋に文章がひどい。
読みにくいし、なにより状況が全然わからない。
視点がコロコロ変わるのもそうだし、キャラの書き分けが出来てないのに作者の一人合点でどんどん進むのもそうだし、設定の説明もまったくしないまま進むのでかなりイラッとする。
単に書きなれていなかっただけなのか、二章以降からだんだんと読みやすくなってはいくが、この一章のひどさは商業作品にしてはいけないレベルだろ。

ストーリー自体は、キャラが逐一うざい以外は、バトルものラノベとして楽しめるんじゃないかな。萌えもあると思うし。
時々意味もなくミステリーっぽくなるが、まったくミステリーになってないのは、これはなんかのギャグなのかな?
でもまあ、メフィストはそういう傾向があるし、奈須先生はそっちの看板でもあるから、それでいいのか。

ともあれ、みんなも奈須先生の卓越した言い訳力にウットリするといいと思うね。






  空の境界 下  うな

空の境界 下 (講談社ノベルス)
奈須 きのこ
講談社




厨二伝奇小説の完結篇。
元・二重人格で、あらゆる物体・現象を殺すことの出来る少女・両儀式と、お人好しすぎるその恋人・黒桐幹也の出会う猟奇的事件と特殊能力者の物語。

変態魔術師・荒耶との決着を描く『矛盾螺旋』
伝統ある女子高で起こった、記憶を奪う妖精事件『忘却録音』
そもそもの始まりとなった式にまつわる連続殺人を紐解く『殺人考察』
エピローグとなる『空の境界』
以上を収録。

ちょっ、ちょっと厨二力が高すぎるかな……
なんの実体もない言葉遊びにしか見えない議論が数十ページにまたがって繰り広げられる様は、圧巻といえば圧巻なのだが、もう三十路を迎えたおれには鬱陶しさの方が先に立ってしまうのですよ……十代の頃に読んでたらまた違ったかもしれんがなー。
しかし解説の笠井潔が同レベルの寝言理論を並べ立てているので、これでいいのかもしれない。

全編通して、全キャラが「人と違って生まれて可哀想な自分」というのをやっているだけと云えばそれだけで、しかしそれだったらもうちょっとおれが感情移移入してもよさそうな気もするんだが、なんで入りこめないんだろうとむしろ疑問に思ってしまう。
これは『月姫』でも『Fate』でもまったく同じで、それぞれ面白いしけっこう好きではあるんだが、おそらく一番肝心な部分である「このキャラ可哀想」的な部分にはまったく感情が動かないんだなー。
屁理屈こねまくってるのがいけないのかしら?

でも一番いけないのは、なぜかハーレム状態になる男主人公が、いつも単なるいい人で、まったく魅力がないことなんだろうなー。
特に今作の幹也は、まったくもって無味無臭で、本当にまったく魅力を感じない。 でもまあ、奇矯で物騒な人間が、凡庸極まりない人間に依存する、という形にしてくれればわかるんだが、なぜか「普通に見えてけっこう大変でおかしいキャラなんだよ」的なエクスキューズが入り、しかしそれにまったく説得力がないので余計に魅力がなく見えるという負の連鎖が起こっている。
まあ、ハーレム型主人公にケチつけたって始まらないんだから、そういうものだと認めるしかないんだけど。

『月姫』『Fate』につながる世界観の原点として、ファンなら読む価値があるとは思うけど、やっぱり奈須先生はエロゲーライターしてる時の方がいろいろ輝いてると思うなあ。
日本語としてはいろいろまずい部分や、明らかにもったいつけてるだけの冗長という意味しかもたない長文が、エロゲーだと輝くもんなあ。
だから、とりあえずエロゲー作ればいいと思うよ、うん。
エロゲー業界では実力も売上もトップクラスなのは間違いないんだから。






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