タイトル | 評価 | 一言メモ |
さらば、わが青春の『少年ジャンプ』 | うな | 往年のジャンプ好き必読 |
幻冬舎より出版。 ノンフィクションのエッセイというか、そんな感じの。 『週刊少年ジャンプ』の創刊に携わり、1978〜86年にかけて、八年間編集長を務め、およそ三十年を集英社で過ごした著者による回顧録。 平成6年に飛鳥新社より出版されたものに加筆をして、平成9年に再出版されたもの。 ジャンプがどのような経緯で生まれ、その裏ではどんな編集がいて、どんな人間模様があったのかを克明に描いている。 傲慢だが果断で行動力とカリスマに満ちた初代編集長、長野。 神経質で気が利くが権力志向の二代目編集長、中野。 フリーで雇われ、労働者組合の委員長を務め、のちに『アストロ球団』原作者に転じた遠崎。 メディア展開にこだわり、鳥山明を二年かけて育て上げたインテリ鳥嶋。 集英社の内部統一化を望み、大胆な人事を繰り返しジャンプ神話崩壊のきっかけとなった三代目社長若菜。 彼らの人間模様によって、なぜジャンプが創刊されたのか? 創刊時のメンバーは? どのように部数を伸ばしていったのか? 専属契約制の発端は? アンケート偏重主義はどのように形成されていったのか? 新人発掘に力を入れたのは何故か? などの、今日のジャンプにつながる色々な仕組みがわかるのが面白い。 が、やはり興味をひかれるのは、ベテラン作家たちの若かりし頃の話や、消えていった漫画家たちの話だ。 特に、この著者は本宮ひろ志を発掘した人なので、やたら本宮ひろ志のことが書かれているんだが、実に漫画どおりの人間で笑える。 薄汚い格好と下駄で持ち込みに来たとか、競馬で生活費を稼いでいるとか、金が無くなって工場を転々としながら四ヶ月かけて読みきりを一本描いて来たとか、飯と女のことしか考えて無かったとか、姿が見えないと思ったらソープに行ってたりとか、代原頼まれたら「じゃあ明日までにネーム仕上げます」と一日で90pのネームを切ったりとか、カラーイラストが苦手で、生原稿にマジックで色塗って「書き直せないからずらかります」と書き置きを残して消えたりとか、実に漫画そのまんまだ。本宮漫画にはまったく興味がないのに、そのハングリーな男らしさに惚れそうになってしまうよ。 その本宮に憧れて、学生服と下駄で持ち込みにきた車田正美とか、実に初期のジャンプは体育会系だ。 そうした作家の話の折々で、当時なんの漫画が人気あったのか語られるのが、とても面白く興味深い。 が、肝心の自身の編集長時代に関しては、面映いのかやたらと軽く流してしまっているのが残念。ぼくは86年からおよそ十年間、ジャンプを読んで育ってきたわけだが、その時代のことがちょうど描かれていないから、がっかり。 基本的に漫画のことに興味が向いているので、途中長々と説明されていた社内の派閥争いや労働組合とのトラブル、人事的な問題は、ちと退屈であった。まあ、内部の人間にとっては大問題なんだろうけどね。 ともあれ、昔年のジャンプになんらかの想いがある人間にとっては、非常に興味深い一冊。 (07/12/8) |