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野尻抱介

タイトル評価一言メモ
ヴェイスの盲点 クレギオン1うなスペオペ自体がどうでもいいという悲劇
太陽の簒奪者うなぎ正統派「未知との遭遇」





  ヴェイスの盲点 クレギオン1  うな

ヴェイスの盲点―クレギオン〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)
野尻 抱介
早川書房





長編SFシリーズ。

社長と社員一人の零細運送会社ミリガン運輸。
ある日たどりついた星系にある惑星ヴェイスは、過去の大戦時に設置された六千四百万の機雷群のため、容易に出入りすることができず、通信も不可能になっており、孤立した状況になっていた。
出入りする方法はたった一つ、そのために育成されたナビゲーターの支持の下、機雷原を突っ切るしかない。
この状況に冒険と儲けの匂いを感じ取った社長は、喜んでヴェイス行きの仕事を請け負い、ナビゲーターを雇ったのだが、やってきたのはまだ十六歳の少女だった……

あー、なんつうかこう、SFだね。あとがきによると「英雄不在のスペースオペラ」らしいが、うん、まあ、そうだね、実際、そんな感じだ。
近年になってハードSF作家として評価されてきた著者の、昔のラノベ時代の復刊なわけだが、デビュー作だけあって、文章は色々と拙いるこれでも手直ししたらしいけど。

うーん、つまらなくはない。読みやすくはある。ところどころちゃんとSFしてる。希望がある。
でも敢えて続きを読みたいかっていうと、どっちでもいいって感じ。
すぺおぺ好きならって感じ。
おれ、SF好きでもスペオペはどうしても恥ずかしく感じちゃうんだよなあ

(07/12/30)







  太陽の簒奪者  うなぎ

太陽の簒奪者 (ハヤカワJA)
野尻 抱介
早川書房





長編ハードSF。
2006年、なにものかのよって送り込まれてきたナノマシン群が水星に工場を作り、太陽の周囲にリングを作った。
リングは惑星規模で考えれば細いものであったが、その影響によって地球の環境は激変。十年の間に数億の人間が死ぬ大惨事を引き起こす。
人類の危機を救うため、太陽の簒奪者を破壊するためのチームが送られることとなったのだが、それは異星人とのファーストコンタクトの序章にすぎなかった……
SF永遠のテーマの一つ、ファースト・コンタクトを真っ向から描いた作品。

数年前、これを図書館から借りて最初の数ページ読んで「うへー、難しくて眠い」と感じて読まないまま返して、最近文庫を安く買って、でもやっぱり読まずに放置してあって、昨日の朝、急いで出かける前にパッと手にとったのがこれだったので、仕方なく電車の中で読んでいたのですが……

あれ?難しくない?
いや、難しいよ、難しいんだけど、記憶にあるのと全然違う。難しいけど読みやすい。
あれー、おれがあの時読んでいたのはなんだったんだ?確かハヤカワJコレクションだったのは間違いないはずだったんだが、はて、なんだったんだろう、あれは? おかげで長年、無意味に敬遠してしまったではないか。

ともあれ、近年のハードSFとしては有名なこの作品、噂にたがわぬ良作だった。 実際は、はじめ「たるいなー」と思っていて、なんとなくあとがきを先に読んだんですよ。
そしたら、そのあとがきがいかにもSF作家って感じでね。こう、SF作家の人たちってのは、やっぱり文系的な人間じゃないのか、小説以外のことを書くと、やたら短くまとめるうえに、妙に生真面目でつまらないし、ある意味可愛いんだよね。 で、この作品のあとがきはやっぱり短いんだけど、人類がさっさと宇宙に進出すればいいという願いを書き、そうなれば「本書のような空想小説も用済みとなるだろう」と〆ている。
この最後の一文になぜかちょっとキュンとしてしまって、そこからは一気に読んだ(一気にって云っても二回に分けたけどな、ホントは)

あとがきでの作者の言のとおり、ばからしいほど実直に、丁寧にファースト・コンタクトを描いている。ファースト・コンタクトだけを描いている。
太陽が異変をきたすという、わかりやすくひきこまれる冒頭。
一部のラストで示唆される二部以降の壮大さ。
コンタクトの困難さ、組織内外の軋轢、宇宙人への憧憬と恐怖。
およそ想像しうるファース・トコンタクトのすべてを描いている。
それらの仔細な説明を、いかにもSFらしい修辞の少ない率直な文で描かれているのが、SFっぽくて良い。文系じゃない人間が書いているって感じがむしろ良い。 その実直さは、前半や中盤での伏線が、丁寧に回収されていることからもうかがえる。

とにかく、誠実さがあるんだ。この物語に対して、作者が誠実なんだよね。
天才的な着想ってわけでもない。ところどころ新しい部分もあるが、基本的には普通のファースト・コンタクトものだ(異星人の思考形態に関しては、なるほど、そういうのもあるのかと唸ったが)
しかし、それをぐいぐいと読ませるのは、とにかく作者の誠実さだ。
文章が誠実であり、展開が誠実であり、伏線の回収が誠実であり、ラストが誠実であり、あとがきまで誠実だ。
女性研究者を主人公に、彼女の半生を追う形になっているのに、まるで色気とか女性ならではの面白みとかがないことすら妙に誠実だ。
きっとこの人は面白くない人なんだろう。だからこそこの話が書けた、そんな気がする。

ありえないような状況を、アホみたいに真面目にシミュレートする。まさにSFの王道だ。
テーマが普遍的であるだけに、文句なしで国内SFの殿堂入りだろう。
惜しむらくは、作者の名前。
「野尻抱介」という名前のすべてがダサいとしか言いようがない。「野」も「尻」も「抱」も「介」も全っ然SFって感じじゃないんだぜ。まあね本名かもしれませんから名前にケチつけるのはあれですが、でもその名前はねーよと云いたい。云い伝えたい。

(08/6/19)










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