タイトル | 評価 | 一言メモ |
スラムオンライン | うな | うなぎは嫉妬などしていない! |
All You Need Is Kill | うなぎ | 悔しい……けど読んじゃう……! |
なんか青春小説みたいなのだった。 あらすじ 世の中になんとなく虚無的な感覚を覚える主人公は格闘ネットゲーム「バーサスタウン」に熱中していた。 バーサスタウンはネットに構成された街でストリートファイトを楽しむゲームだ。 そのバーサスタウンに、最近謎の辻斬りがあらわれ、次々と強者を倒しているという。 主人公は辻斬りに興味を覚え、調べ始めるが、同時にその頃、大学で知り合った女の子とひょんなことから仲良くなり始めるのであった。 はじめに本編と関係のない話をするが。 ぼくは随分前に某ライトノベルの新人賞に投稿して、そこそこのところまで審査に残ったことがある。 が、結局最終審査前に落ちて、いちおう編集さんに呼ばれて話をしたりして、その話は要約すると「もっと金になるもの、具体的に言うと萌え小説を書け」だったのだが、もっぱらぼくのやる気がないせいで、その辺はうやむやになった。 返す返すも自分の無駄なプライドとやる気のなさがうらめしい。 それはさておき。 この作者は、そのぼくが落ちた最終審査に残って(受賞はしなかったが)デビューした人で、その時点ですでに嫉妬している上に、その後、ぼくにとっての憧れの大地であるSFマガジンやらに短編載っけたり、早川からこの単行本を出したりで、要するにSFとして評価されていて、はっきりいって非常に悔しい。 ので、感想は厳しくいきたい。 で、感想。 たぶん、村上春樹あたりからはじまり西尾維新のムーブメントがあって、この辺につながるんだろうが。 だからどこのギャルゲーだよ。 いや、はっきりとギャルゲーしてるならいいんだ。それもまた道だ。本当はよくないんだけど。 たださあ、このやる気のない若者がぬぼらーっと皮肉げな態度をとっていたらなんか周りに女の子が寄ってきて人嫌いのはずの主人公だけどなんとなく仲良くなっちゃう、みたいなノリ。 ギャルゲー・エロゲーでもそうだけど、好きになれないんだよね。このノリ。 もてる主人公はもてるキャラでいて欲しい。 もてるだけの理由を内面か外見に備えていて欲しい。 春樹の小説みたいに相手のことも自分のこともよくわからないけど、セックスの相手には事欠きません、みたいなの、気持ち悪いんですよ。 春樹みたいな人はいる、いますよ。うん、いるよ。 でももてないんだよ、そのキャラクターは。 そんな人がもてるのがドリームなんだろうが、キモイ、キモイんだ春樹世代。 村上春樹の小説は面白いんだけど、はっきりいってそこがキモイんですよ。 なぜか春樹批判になっている気がするが、まあ、要するにそんなところで、この作品にしても、一番肝心のヒロインと主人公の出会いがご都合主義で、主人公の感情の変化も流れとしていい加減でよくない。 現実世界とネットゲーム世界のつながり弱くて、そのつながりの弱さが文学でもしようとしているみたいでむずむずしてむずむずして。 ゲーム内用語の説明もひどくおざなりで、ぼくはまあ、オタクですからわかりますが、どうにも説明不足のまま地の文で格ゲー用語連発されるのがいただけない。 また「バーサスタウン」というゲームが、現行のネットゲームよりは明らかに進歩しすぎているのが気になるし妙に通信系の知識が豊富なのとあいまってイライラした。 ついでに主人公の住所がぼくの住んでるところの二駅先だというのもイライラした。 なんだ、作者はこの辺に住んでるのか? 「死ね!死んでしまえ!おれなんか死んでしまえ!」 と酩酊して風呂場で荒れた。 ホントは酔っていないし風呂に入ってすっきりしました。 でもまあ。 多分、この作品の売りであると思われる主人公の独白は、いまどきのオタク世代って感じで読みやすく面白いし、ヒロインも「オタクの妄想する理想のメガネっ娘」って感じで魅力的だった。 でもストーリーが。悪いというかないというか。 だからこの本は窓から投げ捨てるね。 (07/4/18)
SFでライトノベルで。 あらすじ。 宇宙からあらわれた謎の敵ギタイと全面戦争を続ける近未来の地球。 トーキョーのはるか南方コトイウシ島で、新兵キリヤ・ケイジは初陣で戦死した。 ところが、気がつくとケイジは出陣前日に戻っていた。 繰り返される初陣と、逃れられない死。 幾度かの繰り返しののち、ケイジは決意する。 最強の戦闘技術を身に付けて、この初陣を生き抜いてみせる、と。 く、悔しい…… お、面白い…… ちゃんとSFだし、そのうえでライトノベルでもある…… 時間ループものはそれだけでけっこう面白かったりするんだが、それを戦闘経験にあてはめ、最強の兵士を作る土壌にするとは。 あとがきにもある通り、これはテレビゲームから着想を得たのだろう。 確かにプレイヤーにとっては何百回目の挑戦でも、ゲーム内世界では一発で成功した物として受け取られ、功績をたたえられる。凡人でも何回も挑戦しつづければ、伝説の傭兵にだってなれる。 悔しい。ゲーム好きとして、SF読みとして、この組み合わせが自分に浮かばなかったことが悔しいし、それを見事に昇華していることが悔しい。 また、そのワンアイデアで終わってしまっていないところも悔しいほどうまい。 自分の死からはじまる冒頭からひきつけるし、戦争の状況の説明もうまい。脇役も実にさりげなく効果的に配している。特に先輩であるヨナバルの扱いは最初から最後までを通じて実にうまい。いやなところも含めて人間味にあふれている。こいつがいるといないとで作品自体がまるで別物になっていただろうな。 要所要所でのシーンのカットの仕方は効果的で、かつわかりやすく、繰り返しのたびに古強者となっていく主人公の描写はお見事の一言。 文章は読みやすく、軍隊の様子を的確に表現しているし、専門用語の使い方も、雰囲気は出すが素人を置いてけぼりにしないギリギリのバランスで保たれている。アクションシーンもスピーディーで迫力がある。ライトノベルとしても十分に楽しめる。 SFとしても、ギタイの設定にまず唸らされる。 異星のテラフォーミング用ナノマシンというのは、なるほど、確かに意思の疎通などできようもないし、そこにだれの悪意もないからこそ、救いがない。SFだ。なんともSFだ。その救いのなさがSFだ。 時間が繰り返す理由も納得いくし、それに追随して序盤の展開にちゃんと理由があったことにも驚かされる。 ヒロインと主人公の結びつきも、あまりにも自然で必然であり、ご都合主義を感じさせない。だからこそラストが際立つ。 たった一冊なのに、読んだ時間はたった二時間あまりなのに、ひどく長い作品を読み終えたような充実感があった。 とにかくこの作品は、ジグソーパズルのピースが完全にかっちりと合ってできあがったような作品だ。細かい伏線も人物配置も感情の動きも、これ以外にないという形でぴったりとおさまっている。こういう作品は、優れた作家でも滅多に書けないだろう。 実力とひらめきと偶然と、すべてが噛み合ってできる類の作品じゃなかろうか。多分、この作者はこれ以上の作品は書けない。少なくとも十年は。 要するに、桜坂洋なんて嫌い!死んでしまえばいいのよ! (07/6/23) |