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佐々木偵子

タイトル評価一言メモ
野菜畑で会うならばうなJUNE。センシティブな感じが実にJUNEだが、それだけ
くくり姫うなオチないホラー
裏切りのディスタンスうなわかりやすいやおい





  野菜畑で会うならば  うな

野菜畑で会うならば (JUNEノベルズ)
佐々木 禎子
マガジンマガジン





どうでもいい話からはじめるけど、この人の佐々木禎子って名前、本名かペンネームか知らないけど、有名な原爆被爆者の名前なんだね。原爆記念公園に像があるらしい。いま検索して知った。へー。変なところからペンネームをつけるなあ。
初手から閑話休題。

さて、これですが、JUNEに載った作品の短編集。
だからまあ、やおいなんだろうけど、やおいなのかなあ、これ?
まあ、やおいなんだろうね。


★『野菜畑で会うならば』
自分以外の人間の顔が野菜か果物にしか見えない少年の物語


★『雪だるまの休日』
『野菜畑〜』の続編


★『歩く花』
七十三歳の祖父の突然の告白。わしはどうやらホモらしい。


★『UFO銀座で逢いましょう』
殺人鬼を夢見ながらなにも出来ぬ青年


なんつーか、評価のしにくい作品だな、これ。
ありていにいって、これ、小説じゃないだろ。
ポエムの類だ。自分の精神状態の圧迫感を散文的に書いただけの文章だ。
じゃあ好きか嫌いかっていうと……うーん、非常にむずがゆい。
好きな方向だ、間違いなく。この弱さも残酷さも共感も好感ももてる代物だ。
ただ、これは他人に読ませるものなのかっていうと、いや、やっぱり違うだろう。
ぼくは佐々木さん本人でもなければ、佐々木さんの友達でもない。だから、これらの作品を読んでも「佐々木禎子という人はえらく屈託があるらしい」という感じで、妙に、なんというのだろう、他人事……でもないんだが……よくできた日記を読んでいるような、作者と作品の近すぎる距離感に対する違和感というか、読者に対する理解の求めていなさというか……
ああ、もう! とにかくむずがゆいんだよ! この作品群は!

もちろん、ここに描かれている感情の弱々しさ、子供っぽさ、陶酔感や偽悪感、そういったものが「若書きよのぅ(苦笑)」という感じでむずがゆいというのもあるんだが、なまじそこに共感できる部分が多いため「もっとなんとかできるだろう? ねぇできるでしょう?」と思いっきり肩を揺さぶりたくなるような、そんなもどかしさがある。

簡単に言えば、構成が下手ってことなんだろうけどさ。
唐突なんだよね。それとテーマというか、本心を垂れ流しすぎ。
例えば「野菜畑で会うならば」だと、最後、なんで母親を刺さなきゃいけなかったのか、わからない。いや、わかるよ、わかるけどさ、わからないだろう、これは。 前半か直前にワンバウンド伏線めいたもの置いとけばさ、それだけでずいぶん違うのに、それをしてくれない。
自己嫌悪も激しく露出しすぎて、鬱陶しい。主人公の本心など、ラスト二行だけで十分だ。なくても十分すぎるほど伝わる。この勘の悪さにイライラするやらもったいないと思うやら。

「雪だるまの休日」まで通して読んでも、肝心の阿坂くんとやらがよくわからないし。まあ、これは栗本薫にとっての今西良と同じで、すべてが正しい者の象徴なんだろうけどさ。相手の人格なんて関係無しで、輝けるものの象徴としての存在なんだろうけどさ。ここでの相手の人格無視が、絶妙にイラッとする。ちがうだろう、そこはなんというか、もっと……こうだよ、こう! などと頭の悪い不満をぶつけたくなる感じで。

個人的には「歩く花」が一番小説めいていると思ったが、

 あふれかえる愛の多さにあたしたちは窒息しそうだ。
 愛されたい。愛したい。そんな言葉を雑誌があおっている。その言葉に想いはのっているのだろうか。
 チンプな愛だよ。
 パンチコ台でさえ愛を語る時代だ。大安売りだよ。バーゲンセールなみの人込みのなかでみんなでとりあっている安っぽい愛はどんな形をしているんだろう。流行りの形があるのかい? もっていないと話題にのりおくれちゃうのかい?
 たったひとりのふつうのジジイでさえ幸福にできねーようなブラボーな愛だよ。


と、リズムよく読ませながら

そんなもの欲しかねー。

と言わずもがなのことを云ってリズムを狂わせたりする。
こういう、なんだろうな、足りない部分が足りず、微妙な部分が余っている、このもどかしさ。
そのくせ肝心かなめの主要人物二人が心を通わす部分がいつも唐突で。
「だって分かり合えるから」とでもいいたげな唐突さで。
なんでまだ数度しか会った事ない小学生のガキンチョに「殺してやろうか」なんて云って相手が受け入れたりするのか。

たしかに極論してしまえば、相手の傷を弱さを醜さを理解するのに必要なのは、時間でも愛でもなく、同病相憐れむものの直感ではあるのだけれど、ほんの一つのもっともらしい理由を用意してくれれば、もっとずっと入り込みやすいのに。

なんだかぐにゃぐにゃしてなに云ってんだか自分でもよくわからんな。
要するに、この人はプロの作家じゃねーしプロの作家にもなれねーと思う(いや、プロの作家やってるんだけどさ)
ふくやまけいこのイラストもいけない。好き嫌いじゃなくて、この作品にふくやまけいこの善性あふれるイラストは「いけない」の。これはもう、どうしてもダメ。

なんかこう、おれも若くないのかも知らんなあ、としみじみ思う。
作品のクオリティとかなんて、考えるの嫌いなんだけどな
全部の作品が設定説明し終わった時点で終わっちゃっててさ、これからだろ、みたいな。
ストーリーとばしてエンディングにいくんじゃねえ、みたいな。
しかしそれで「UFO銀座〜」を長編用に改稿したら、やっぱり肝心なところが説明不足な「くくり姫」になるわけで、あー、だからプロになれないんだよ、おまえは!(プロですけど)

とにかく、無性にむずがゆく無駄にいらつきました。
感動できるはずなんだけどねー
自分のツボの3ミリ隣を羽毛でくすぐられているようなイライラ感。
ぬーん、どうしたものか。

(07/1/25)






  くくり姫

くくり姫 (ハルキ・ホラー文庫)
佐々木 禎子
角川春樹事務所





ホラー長編。
くくり姫ってのは「菊理媛」と書き「首括り姫」って意味なんだってさ。
そして、てるてるぼうずの歌は「明日晴れにしてくれよ。そしたら色々いい目見せてやるから。でも晴れにならなかったら首切るからな?」という歌なんだって。
つまり、まあ、そういう話。

なにを考えているのかわからず、行き当たりばったりに人を殺してはてるてるぼうずのような格好にして首を吊らせるシリアルキラー・シンジのキャラ造形は、わりかしベタ気味ではあるが、うまい。
時々とても優しかったり冷静だったり無邪気だったり、そしてそういうところが怖いのは、うまくやっていると思う。
ところどころにうまいシーン、ホラーらしいキモイシーンもある。

が、どうも小さくまとまってしまっている感がある。で、凡作くさい。
まあ、ホラーってのはシーンごとのきもさこわさがあればいいような気もしないでもないので、これでもいいのかもな。
っていうか、おれ、ホラーに対する理解が薄いねん。

なんかさ、ホラーって、オチがさ、2、3パターンしかないよね。
恐怖の根源(敵、悪魔、怪物、狂気、外在するものでも内在するものでもなんでもいいが)との対峙がホラーの基本で、そこでどんな恐怖(仮にこれを吉川的に闇と総称しよう)を描き出すか、というのが、ともかくホラー作家の考えることであり、すべてである。
『リング』はそれをビデオテープに求めたし、『パラサイト・イブ』はミトコンドリアに求めて成功した。
闇のバリエーションは無数にあって、だからホラーのネタは尽きない。いつまでも愛好される。
わけなんだが、そのパターン自体は少ない。ボキャ天の採点表のように、X軸とY軸で分類できる。すなわち「外在する闇、内在する闇」と「世の理のうちにある闇、ない闇」……
ごめん、言っている途中で混乱して自分の説が激しく揺らいだのでパス。


と、ともかく、ストーリーは忍び寄る闇との出会いから戦い(あるいは逃走)を経て、エンドを迎えるわけだが、オチをパターン分けすると、
1・闇を打ち倒し(逃走成功し)日常へもどる(ないし、倒したと思ったら生きていた)
2・追い詰められ、とうとう闇に殺される。
3・闇を倒した、と思ったら、闇に取り込まれていた(ないし、自分こそが闇であった)

ま、近年の基本は3ですかね。2はひねりがなさすぎだし(ゆえに短編とかはこういうの多いね)1は普通すぎる。
3は、ジェイソンを殺したらジェイソンになっちゃった、呪いのビデオをばらまくハメになっちゃったとか。シリアルキラーを追っていたら自分がシリアルキラーになっちゃった的な話とかも3か。デビルマンにおける飛鳥了というか、シックスセンスというか、あと悲しみの時計少女とか、ま、そういうのもありだな。
まあ、実際、3が一番が納得いく形になるわけだが。

で、あとは
4・よくわからないけど、なにもかもが不明瞭なままに勝手に終わる

こういうのもあって、これはただぼくの理解力が足りないのか作者がオチを考えていなかったのか、永遠にわからないことではあります。
ただ、うまくいくと最高にあとあじのわるい、冷めない悪夢のような話にもなるよね。
つまり、あらゆる道理を拒否するわけであるから(恐怖とは道理の外にあるもの。しかし、あまくまで離れすぎず、ギリギリ外にあるものが望ましい)
ドグラ・マグラなんかは4な気分。でも、失敗すると、もにょるよね。とってももにょるよ。

で、なにが云いたいかというと、この小説は4でした。
いい意味でか悪い意味でかは、君に任せる






  裏切りのディスタンス  うな

裏切りのディスタンス (シャレード文庫)
佐々木 禎子
二見書房





やおい
久々に笑った
憎しみがいつの間にか愛に変わっていったのが昔のJUNEなんだよな
今のBLはラブラブだから困る(AA略

あらすじ
父を死に追いやった仇に一矢報いるために、裏社会に身を投じる主人公でしたが、陰険美形にもてあそばれ狸親父たちの慰み者にされ、いろんな穴が大変なことになっていた時、助けてくれたのは復讐相手でした。
それで愛憎もつれあって、いろいろあってラブラブになりました。
めでたしめでたし。

いや、バカにしているみたいだけど、実際バカにしているんだけど、面白いよ、これ。
なんつうのかなあ〜古きよきJUNEのかほりというか……
どこからどうみても栗本薫の小説というか……
この「恥ずかしい」としか表現の出来ないベタな設定、ストーリーをなんの恥じらいもなく全力でやりぬく。しかもなんか変にうまい部分がある。
とても21世紀に出た本とは思えない。素敵。

「馬鹿だな……いまなら殺されてやってもよかったのに」
あらすじに書いてある決め台詞がすでに終わっている。素敵。
挿絵が石原理ってあたりも素敵。悪い意味で。

なんかこう、ひさしぶりにがつんとJUNEを読んだ気がしたね。
いつだって全力疾走だったよ、JUNEは。
なんかあまりにもストーリーが栗本薫チックだったし、文章も、まあ小説道場の門弟なんだから当たり前ではあるが、栗本薫っぽい感じがあるし、全盛時の栗本薫よりは落ちるが、いまの栗本薫よりは全然いい文章だし、なんか父さん、ちょっと佐々木先生のJUNEを読みあさりたくなってきたよ。
なんかこう、読んでて脳細胞が死んでいく感じ……
あれはあれで、素敵な体験でした。

(06/11/2)










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