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柴田よしき

タイトル評価一言メモ
RIKO〜女神の永遠〜うな正史的なミステリー。
ふたたびの虹うなうさんくささ全開
単行本未収録作品等





  RIKO〜女神の永遠〜  うな

RIKO―女神(ヴィーナス)の永遠 (角川文庫)
柴田 よしき
角川書店





ネタバレしてるよ。
長編ミステリーの刑事物。横溝正史賞受賞作品。
よく考えれば横溝正史賞の作品は一冊も読んだことがなかったが、事実とても横溝正史的な作品だと思った。全体的な通俗性とか、ダイナミックで粗の目立つストーリー展開とか、とても正史的。
審査員のなんちゃらが「あまりにも通俗的すぎる」と否定的な態度をとったそうだが、おまえ、だったら正史はどうなんだと激しく問い詰めたい。正史は通俗、そこがいいんじゃねえか。ご高尚な作品が好きな奴はすっこんでろ。

ストーリーは、主人公の警部補・リコは警視庁のエリートだったが、かつて上司と不倫関係にあり、それが最悪のかたちで露見したために現場組に左遷され、かつ逆恨みから同僚にレイプされ、職場ではあしざまにあることないこと罵られ、不倫相手には裏切られ、そうした様々なことから性的に倒錯し、年下の部下と肉体関係を結びながら同僚のバイセクシャルとも関係をもつ女性。

男性が輪姦されるレイプビデオの実態を追ううちに、事件は連続誘拐事件から連続殺人事件へとおよぶ。警視庁との合同捜査となり、かつての上司、同僚と再会するリコは、彼らとの憎愛と性愛を経て、新たな関係と昇華しつつあったが、事件の魔の手はリコ自身にも及んでいき、やがて犯人は意外なところから現れる……

という、なんというかとてもわかりやすくけれん味のある話ですな。
結局、犯人が主人公の関係者であるあたりに、とても正史的なご都合主義を感じた。

ことに正史的だと思ったのは、犯人の最終的な動機が「警察組織に対する復讐」であり「弱者である女として、強者である男性への復讐」であったあたりかな。
「隔離社会の澱み歪みの底に棲む個人が、怨嗟のうめきをあげて襲い来る」というのがぼくの正史小説の犯人像であって、かれらの叫ぶ泥臭いねばっこい「何故なんだ何故俺が苦しまねばならんのだ」というヘドロのような叫びと錆びついた鉈の鈍い輝きは適度ににがい読後感を残してくださりマス。

まあ、そこまではいっていないが、ともかく犯人の逆切れ的な過剰防衛による復讐はもう基本ですよ。
いったいなにをいってるんだかわからなくなってきたが、まあ、そこそこ面白かった。
めんどくさいからそれでいいではないか。






  ふたたびの虹  うな

ふたたびの虹 (祥伝社文庫)
柴田 よしき
祥伝社





恋愛&ヒューマンミステリーだそうで。
丸の内の片隅にあるちょっと小粋な小料理屋「ばんざい屋」
売りは京風でありながら庶民的な味の女将の料理。
そんな暖かいばんざい屋には、今日も色々な事情を抱えたお客がやって来る……

早くテレビドラマ化するといいね、としか云いようがない。
ちょっと謎を秘めた上品だけど庶民的な四十前の独身女将、というキャラクターに中年女性なら憧れ、中年男性なら萌えるのかもしれないが、あまりにもその狙いがあざとすぎて「おれまだそんな歳じゃねえから知るか」と本を放り投げたくなる。

そもそも、柴田よしきは基本的にやることがあざとすぎる。デビュー作で代表作のROKOシリーズ自体が、警察の男性社会で孤立奮闘する女性刑事が性的にも奔放でハッスルハッスルな感じの話なんだが、そのついていけない奔放な感じが「どうです?奔放でしょ?」という感じでわかりやすすぎる。
まあ、横溝正史賞の人なんだから、あざといのは宿命というか必然というかだからしょうがないんだが。

今作もまた、中年の素敵な上品ドリームかなえちゃうよ?という感じが鼻について鼻について。
料理上手で客のことを大事にしていて安いけど品のいいアンティーク小物が好きで休みの日にはフリーマーケットを回ったり山に入って料理の材料を取ってきたり行き着けの骨董品屋と淡いデートしてみたりみんなの人生相談を受けたりこっそり人助けしたり、お前は完璧超人かと。いかがわしいよ、その完璧な人格が。
なんつうか、中年向けギャルゲーがあるとしたら、メインヒロインとして用意されたキャラみたいな感じ(いま思ったんだが、そろそろ中年向けギャルゲーが出てきてもいい頃合だと思うぜ。エロゲーじゃなくてギャルゲーで。店の女将とか独身のお局様とか近所の未亡人ととしっとりいい仲になっていくようなゲーム。企画立てようぜ、ゲーム屋の人)

まあ、実際細かいところまで意匠に気を配っているし、上品かつ庶民的な料理は実に現実的に美味そうではあるし、全体的にはいい話ではあるんだが、作者が「よーし、いい話書くぞー」と気合入れたような匂いの漂う作品に「いい話だなー」という感想をもつのは難しい。ぼくはまだ中二病にかかったままだからだ。
心の素直な中年の人にはお薦め。
でもまあ、ミステリ要素がおまけ程度で、でもいちおうミステリという体裁をとっているから一話完結も出来て、べつになにをすれば終わりというわけでもないからだらだら続けられるし、中年同士の淡い恋を描いていればそれなりに指示もされるだろうし、テレビドラマ化すれば人気の出そうな設定・ストーリーではあると思うので、昼ドラマ化すればいいと思う。
ヒマをもてあました三十代中盤の主婦が普通に見ると思うので。

(08/7/4)







  単行本未収録作品等


夕焼け小焼け(『血の12幻想』収録)
血の12幻想 (講談社文庫)
津原 泰水
講談社



だりだおまいは? 柴田。だりだ。
と思いながらなんとなく読んだわけだが、おや、なかなかいい。

女の金で会社を興して、友人に金を持ち逃げされて倒産して、勢いで東京に出てやくざの経営するカジノでディーラーをやって、ちょっと金回りが良くなって調子に乗ってるダメ男。
その男から離れることが出来ず、水商売をしながらボロアパートに住み、別のヤクザにべた惚れしてるダメ女。
結局、抗争に巻き込まれて二人とも殺されて、というだけの話なんだが、これはなかなかにポイント高い。

栗本薫の初期短編『探偵 悲しきチェイサー』や『イミテーションゴールド』とかを思い出した。都会の闇におぼれるようにしか生きられない、ダメな男や女。かれらの発する、田舎じみた泥臭さ。そんな感じ。
機会があれば、この人の長編も読んでみるか。



顔(『憑き者』収録)  うな
憑き者 (A‐NOVELS)

アスキー



関係ないが、柴田よしきって名前、どこかで聞いたことがあると思ったら『魔人タクシー』『ジャイアンツ』で有名な(嘘)チャンピオン漫画家、柴田芳樹と漢字ちがいの同姓同名なんだね。ジャイガンスティック!

で、この作品は、またなかなか良かった。
微妙なブスがひょんなことから化粧品にはまっていき、やがて……という話で、ちょっと展開が性急に過ぎるきらいもあるが、文章の読みやすさであまり気にさせない。
とりたててうまい文章はなく、中身が薄いわけでないのに、するりするりと読みくだせるのが面白い。
オチはフレドリック・ブラウン『後ろを向くな』を思わせる、というかわりとそのもののあれで、このオチ自体は好きだが、この話につけたす必要があったのかどうか。
あと、あのフレブラの時代なら、そりゃ購入場所、経路は限られてるし、このオチにもドキッとさせられて、そのあとで笑えると思うんだが、いまの時代ではちょっと…… 少なくとも、アンソロ本に寄稿するようなオチじゃないな。









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