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P・K・ディック

タイトル 評価 一言メモ
マイノリティ・リポート うな ディックにしてはけっこう読みやすい短編集





  マイノリティ・リポート  うな

マイノリティ・リポート―ディック作品集 (ハヤカワ文庫SF)
フィリップ・K. ディック
早川書房


 



SF短編集。
予知能力者によって犯罪が未然に防がれる未来。次の殺人犯として予測されたのは犯罪予防組織の長官であった ★『マイノリティ・リポート』
ロボットが人間を使役する社会で、ただ一人、政治の中枢にのぼりつめた人間 ★『ジェイムズ・P・クロウ』
太陽系内に知的生命体を発見できなかった人類は、ミニチュア惑星をつくることに熱中し、そして破壊しまくった ★『世界をわが手に』
目前に迫った危機を回避するため、未来人は1950年代の予知能力者を連れてくることにしたのだが…… ★『水蜘蛛計画』
ごめん、意味がわからなかった。処女作 ★『安定社会』
火星の都市が三人のテロリストによってあとかたもなく破壊された ★『火星潜入』
潜入捜査官にあこがれる凡夫が、記憶を改変してくれるリコール社を訪れた結果、驚くべき事実が次々とあらわに…… ★『追憶売ります』

あれ、ディックってこんなに読みやすかったっけ?
『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』(映画『ブレードランナー』の原作)や『ユービック』を昔に読んで、面白いしアイデアは凄いんだけど、読みづらくてかなわんとそれきり投げ出していたのだが、この短編集は普通に読めた。
短編だからなのか?ディックにもいろいろあるのか?自分が変わっただけか?どれもあたっているような気がする。

どうもディックは中期の作品の方が遊びがあって読みやすいらしい。
本作では『水蜘蛛計画』と『追憶売ります』がそういう点で良かった。
未来社会では、SF作家の書いたことが次々と実現されていて、結果としてSF作家を予知能力者だと思い込んでいるという設定の『水蜘蛛計画』は痛快だし、ありえないような記憶を植え付けようとしたら、どれもこれも封じられていた本当の記憶だったという『追憶売ります』の突き抜けたユーモアは意外な発見。ディックもせっぱつまった疑心暗鬼だけの人じゃないんだなあ。
一方でロボットが人間をつくったということを、ロボットも人間も信じている世界観や、見も知らぬ人間を殺すことになる予知能力の悲喜劇は、実にディックらしい皮肉に満ちている。

SFの王道はアシモフやハインラインだが、気がついたらディックはかれらの牙城をすら切り崩し、古典SF作家では随一といっていい人気作家になっているのも皮肉な話だ。
これは『ブレードランナー』の影響なども強いのだろうが、ディックが数多いる王道の大家とは違って、ただ一人で外道・邪道を極めたのが大きいのだろう。ディックみたいな話を読みたければ、ディックを読むしかないのだから。
SF界において、アシモフを温厚なグランドファーザーとするなら、ハインラインは厳格な父であり、アーサー・C・クラークは実直な長男、ブラッドベリは変わり者の遠縁の叔父さん、そしてディックは奇矯な次男といったところだろう。 そのディックのはみ出た個性が現代にフィットしているのだろう。古びていないというよりは、ちょっとディックは先取りしすぎていただけだ。
その彼の現代的な個性を感じ取るのに十分な一冊であった。ディック初心者におすすめ。

映画『マイノリティ・リポート』や『トータルリコール』(原題『追憶売ります』)と比べてみて、その大胆な改変振りを楽しむのもありだ。ディック原作の映画って基本アイデア以外はまるまる変えてくるあたりが潔くていいね。だからこそ逆に違和感なく観ることが出来る。

(08/7/3)










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