タイトル | 評価 | 一言メモ |
鱗姫 | うな | 漢女ホラー |
デウスの棄て児 | うな∈(゚◎゚)∋ | 漢女の鬼気迫る情感と不幸展開が素晴らしい逸品 |
どんな叱責を受けても日傘を手放さず、屋外での体育には絶対に参加しないほど肌の美しさにこだわる美貌の少女・楼子。 しかし彼女には誰にも云えない秘密があった。 生理がはじまった日から、彼女の性器のまわりには鱗が生えはじめ、それは日に日に肌を侵食していっているのだ…… 冒頭で敢えて楳図かずお の『おろち』のタイトルを出していることからもわかる通り、本作のストーリー自体はまったくもって古臭い少女漫画ホラーそのもの。そのまんま。なんのひねりもない。 ストーリーの広がりもオチもなにも意外なところはなく、ホラーとしても別に目新しいイマジネーションが繰り広げられているわけでもない。 ただひとえに主人公の、ひいては作者の個性のみによって、珍妙な味わいになっている作品。 美しさに異常にこだわり、貴族的に生きる現代の少女を、その世間からの浮きっぷりまでもあますことなく、過剰としか云いようがない少女趣味で書き尽くしている。 ストーリー自体はホラーでありながら、そして実際に主人公は恐怖していながら、物語を体感している主人公の視線自体が少女の戯言めいているため、その恐怖も恋愛もすべて浮ついていて、なんともいえない空間を作り出している。 例えるなら、上映しているのは普通のホラー映画なのに、スクリーンの周りはリボンとフリルであますところなくデコレーションされている、といった感じか。 それが単に作者の未熟さゆえであるなら、ある意味まだ救いはあるのだが、この作者の場合はどう考えてもそれを自覚的に「これでどうじゃい!」「わしにはこれしかないんじゃい!」と云わんばかりに、凄みすら感じる勢いでデコレーションされている。 作者は男性らしいのだが、オカマが往々にして普通の女性より女らしさにこだわるように、この作者は乙女よりもはるかに高い次元で乙女たらんとしている。 そして、その自体がひきおこすおかしさも考慮して、作品を構築している。 結果として「嘲笑ってもいい。おれの少女趣味を堪能しろ!」といわれているようで、失笑が乾いた笑いになり、最終的に息をごくりと飲んでしまうような、怖いほどの乙女時空が発生している。 だから多分、この作者はただのド変態。 変態小説好きにオススメ。 (09/4/19)
夫に売られポルトガル人の愛人となり阿片中毒となった母と、身勝手な信仰を堂々と掲げる卑劣なポルトガル商人の間に生まれ、その容姿と生い立ちから周囲にいじめられつづけ、神父に幼い肉体を弄ばれて育った主人公・四郎。 異端のグノーシス派に学び、やがて神を憎むにいたった四郎は、周囲の身勝手により戻された日本で、あらゆる者への憎しみから一揆の扇動をはじめるのであった。 「島原の乱」を少女漫画的に超解釈した意欲作。 つうか、「日処天」ですよね、これ。 聖徳太子を美貌の野心家にして超能力者として描いた山岸涼子の『日出処の天子』 その超能力者的解釈を天草四郎にあてはめて作ったものですよね? さすが乙女生まれ乙女育ちの生粋の漢女・野ばらちゃん。かつて少女漫画の示した広大なる可能性を、そのまま少女漫画に落とし込まんとする技量と意欲には頭が下がる思いです。 美少年・四郎がとにかく不幸。 ありえないほどの密度と速度で展開される不幸っぷりはギャグすれすれで、そのたびに怒りと憎しみを募らせていき化け物と化していく姿は、まさに山岸涼子の往年の漫画を見るようで、最近のへたれた山岸先生とは雲泥だ。 特に我欲と保身を忌み嫌い、ダメな味方を謀殺していく姿は鬼気迫るものがあった。 一方で、死の間際にしてようやく心の平穏を得る姿は切なく、ラストシーンの過剰に乙女チックな美しさにはうっとりとしてしまう。 自ら汚名を着た参謀の山田右衛門作をボッコボコに殴りながら「お前のからだは大きいな、分厚いな」と独白するシーンはあまりの切なさと乙女っぷりに感動しながら噴出さざるを得なかった。 まったく、野ばらちゃんは本当に変態淑女♂やでぇ! しかし語り急ぎすぎてもったいないなあ。 文庫で200P弱しかないけど、これ、三倍はあってよかったよー。 ポルトガル篇で一冊。蜂起篇で一冊、篭城篇で一冊、それぞれあっもてよかったと思うなー。 急ぎすぎていて、原城にこもってからの四郎の変化と救いがちょっと唐突に感じられちゃったなー。もったいない。 往年の少女漫画の大胆で多彩な表現方法をそのまま小説におとしこもうとする野ばらちゃんの方向性はどんどん支持していきたい。 不幸展開大好きな人や、憎しみに燃える美少年や美少女が好きな人はとりあえず読んでおくべきだと思うな! (09/6/7) |