タイトル | 評価 | 一言メモ |
ジョゼと虎と魚たち | うな | 聖子さんはいろいろすごい。顔とか。 |
オムライスはお好き? | うなぎ | 聖子さんはつらつら読めてうまい |
現代ものの、恋愛とかのこと書いた短編集。 ページをひらいてまず目につくのは、インパクトの強い先生のご尊顔。 やっぱり女流作家の顔はこうでなくちゃ! おら、なんだかワクワクしてきたぞ! ★『お茶が熱くてのめません』 ドラマ作家として多忙な日々を過ごすあぐりのもとに、七年ぶりに昔の恋人が訪ねてきたのだが…… 昔の恋人が、終始「あー、だめな男だなあ」という感じで、しかしいやな奴ではなく、妙にリアリティがある。ずけずけと借金頼まれたほうがよかったという、主人公の気持ちがなんとなくわかる。 そしてオチはない。 ★『うすうす知ってた』 実家暮らしのOL・梢は、ある日とつぜん、妹に告げられる。 「あたしなあ、結婚するわ」 それから梢の毎日はパニックさ。みたいな話。 いやあ、わかるなあ、その気持ち。 そりゃ空中に向かって「シャー!」とか叫びながら切りつけたくなるちゅうねん。 終始、主人公があわあわ云いながら日々を過ごしているだけで、そしてオチはない。 ★『恋の棺』 気になるあいつはわりと歳の近い甥っ子。 なんだかんだと理由をつけてあたしの部屋にいりびたるあいつを、旅行のときに、思い切って誘惑しちゃったのだ☆みたいな話、とか云ったら、怒られるのだろうか。 慣れぬ女の匂いをさりげなく観察している男を、気づかぬふりして観察している女。 さりげないふりして、男をうろつかせて観察しているオトナの女なのです。 うしろ姿とか、ものをまたぐ姿とかをぬらぬらとした目で見る大人なのです。 エロイ。エロイよ。こんなの詠美ちゃんに見せたら濡れちゃうよ。早く隠して! でも、一度やったら捨てちゃうもんね。一度だからこういうのはいいんだからね、 とオトナの女は怖いことを思っているのです。 ★『それだけのこと』 仕事の虫の主人とは相棒として仲良くやってて、それとは別に、仕事先で出会った青年とピクニックにいったりなんかしちゃったりして、そんなお互いの距離感をはかりながら、面白おかしく過ごした一日でしたのら☆みたいな話。 浮気じゃなくて、女として楽しんでるだけよ、みたいな、軽さがあるのは、肉体に固執していないからであろうか。 「いや、それただの浮気じゃん」とか責めたてる気になれない軽やかさがある。 でもオチはない。 ★『荷造りはもうすませて』 前妻との間に子どものいる男と結婚したえり子。 不定期に子どもの様子を見に実家に帰る夫の姿に、ある日ふと思う。 「なんだかあたし、妾みたい」 夫とは一緒に住んでてラブラブで、子どももいなくてしがらみがなくて、そこが気楽で素敵な夫婦だけれど、ちょっとしがらみが欲しくなったりもすることもある。 どっちがいいとは云えなくて、ぼんやり一人でふぐ鍋パーティーだ! アダルトだね、アダルト! オトナの世界ですよ! ムハッ! オチもないのが大人のたしなみ。 ★『いけどられて』 勝手に浮気して勝手に子どもをつくって、勝手に出て行くことになった旦那。 そのくせ、出て行くときには弁当をねだり、おまけに一人で食べるのは淋しいとダダをこねるのであった。 冷静に考えると「殴れ!いいから殴れ!」と云いたくなる旦那だが、主人公の方が「ぼんやりしていてバカで、そこがある意味魅力っちゃ魅力よね」とさばさばしているので、こっちもさばさばしてきます。 オチとかって、興味ないッスね。 ★『ジョゼと虎と魚たち』 車椅子生活を送るクミは、自分のことをジョゼと呼び、恋人のことを「管理人」と呼ぶ変な女の子。 そんなジョゼと恋人が、動物園に行ったり水族館にいったり、ちょっと破滅の匂いを漂わせながら、今日を幸福に過ごしたのでした、みたいな話。 いや、これは綺麗な話ですね。 ジョゼがツンデレ。超ツンデレ。 「二度と来るな」と云いながら、次の瞬間には「帰ったらいやや」とか、もうどんなエロゲーのキャラですか。超・萌ゆる。 おれもこんなに子の車椅子、押して歩きたいっつうの。 しかし、これだけの設定なら、JUNE属性の作家(昔の栗本薫とか昔の吉田秋生とか)なら間違いなくお涙頂戴の悲恋の話にするし、萩尾望都とか山岸涼子なら、もっと張り詰めた話にするだろうし、少年漫画とかエロゲーなら、それこそ二人は幸せになりました、にするところを、こういう二人がこういう風に一日を過ごしました、で終わらせるあたり、アダルトだな。大人の作家の匂いを感じるよ。 憎いね。つまりオチがないよ。 そういや、これ二、三年前に映画化しているけど、こんなちっさい話を二時間も撮るなよ。うっとうしい。 これは短編だからいいんだよ。わかれよそれくらい。だから邦画はキモイんだよ。 どうせおまえらのことだから悲恋のお涙頂戴にしちゃったんだろ? ああん? と、勝手に予想して切れていますが、出来のいい映画だったらゴメンナサイ。 ★『男たちはマフィンが嫌い』 二人で過ごそうと決めた別荘で、ミミは恋人を待っている。 「仕事が忙しくてなかなかいけない」といい、じゃあ帰るというと「待っててよ」と云う恋人を待っている。 どうせ恋人は、自分を待たせていることで仕事にはりが出て楽しんでいるのだ。 ごめん、そろそろ飽きてきた。 だってオチがないんだもの。 いや、いいんじゃない? いいと思うよ。 もうどうでもいいと思うよ。 ★『雪の降るまで』 地味な中年女のひそやかな楽しみに満ちた毎日。 それだけなのです。 いやあ、いいんじゃないかな。 飽きてないですよ? おれを飽きさせたら、たいしたもんだよ。 おまけ「詠美ちゃんの解説」 いや、うんうん、解説はいいよ。問題ないよ。 つうか、やっぱりエロシーンが多いほどお気に入り指数がアップするんだな、詠美は。 単純だよ詠美。わかりやすいよ詠美。おまえなんなんだよ詠美。面白いよ詠美。 あと後半のおまえの思い出話は、まるで関係ないんじゃないか詠美。 ページ数を埋めたかったのか詠美。なんなんだ詠美。すごいよ詠美さん。 さて、全体的に、出来はいいね。すこぶる良い。 女の日常を、さくっとスプーンですくいとったような、そんなさりげない作品。 一言で云うと「だからどうした」に満ち溢れています。 ある程度、歳のいった女の人が、寝る前に一編だけ読んで「わかるわー」とか呟いて、灯りを消すのが正しい読み方なんじゃないかな。 ほめてるのかほめてないのかと云うと、出来はいいけどさあ、おれまだ二十代だし男だし、くだらなくても派手な話が好きなんだよー、という素直な気持ちがあふれ出てきて、こんな夜は、涙が止まらない。 (06/2/21)
現代物。短編集。 文学……ってほどのもんではないけど、なんだろ。 人生のちょっとした機微みたいなものを書いてます。 意外なことに、これが面白かった。 ★『かたつむり』 都築は住道楽の男である。 食にも女にもこだわらない。ただ家にこだわりたい。 そんな都築がついに念願のマイホームを建てた。 喜んだのもつかの間、次々の来客、妻の親族、さまざまな妨害が、彼とマイホームの蜜月の邪魔をする…… 住道楽、という概念が、なんとも面白く、すこし悲しい。 ★『結婚しない男』 前妻がいつの間にか今の妻と友達になっていた。 気が付けば家に入り浸り、まるでどちらが妻かわからない状態。 しかし、妻はそれをいやがらず、むしろ歓迎するばかり。 二人の女の間で夫はただ困惑するばかり。 不得要領の大家である主人公が、なんともおかしく、奇妙な状況がまるて自然であるかのように思えてしまう。 セックスのことまでじきさいに書いてあるのに、ちっとも下品にうつらないのは作者の人格か。 ★『わすれ貝』 ある日、突然予感した自分の浮気。それが実際に成就するまでの数年間。 日々に忙殺されていくさまが、なんともリアルで、しかし重苦しくはない。 全体、この本にはリアルな日常のままならなさが描かれているのに、ちっとも重苦しくない。 無論、あこがれたりはしないのだが、さりとてそれが嫌だ、とは思わない、不思議な空気が漂っている。 「歳を取らないことにした」という三流タレントもふくめて、なかなかいい。 ★『のこぎり足』 家ですらくつろげない相沢が唯一くつろげるのは、古びて流行らないバー「とんぼ」だけ。 美人でもないデブのママさんと話すときだけが、相沢が饒舌になれるときだった。 そんなある日、そのママさんと浮気をしそうになるのだが…… 隠れ家のような自分の居場所、そこにまで侵食してくる家庭の存在。 こんなんなったら心底うんざりしそうなものの、どうにでもなれという主人公の態度が、そこはかとなくおかしく、後味はわるくない。 日常というのは、なかなかうまく物語にはならないものだ。 ★『渡り鳥おやじ』 単身赴任の吉沢は、帰るたびに家がよそよそしくなっていくのを感じる。 というだけの話だが、やはりリアリティはある。 特に思ったのは、子供がだんだんと顔を合わさなくなっていくくだり。 単に疎ましく思っているわけではなく、あまりにも会わないので、どういう態度で接すればいいのか、子供の方でもわからなくなっているのだろう。 そういう機微が、書かれていないところまで想像できる。 ★『種貸しさん』 子供のできない里枝は、それを気に病んでいたのだが…… 簡単に云えば、浮気の話なんだが、それが嫌な気持ちをまったく生まないのは、不思議なものだ。 普通に太った普通の主婦、というものが、ちゃんと描写できている。 ★『オムライスはお好き?』 定年を間近に閑職へ飛ばされた滝沢は、しかし落ち込むこともなく、むしろ生き生きとしていた。 仕事で忙殺されていた人生に、ようやく余裕が生まれ、人生を楽しむことができるようになったのだ。 彼の楽しみ、それは自ら作る卵料理であった。 表題にもなっているが、確かにこの本でも白眉である。 閑職、という、敗残のイメージをくつがえす明るさがまず良い。 やっと生まれた楽しみが卵料理というのもいい。 安くてもいい、自分の好きなものを、自分の手で好きなだけつくり、好きなだけ食べる。 なんとも魅力的なことだ。 なんてことない卵料理が、ひどくうまそうに見える。 妻の願望もまた、可愛げがあっていい。 なんかこう、いい歳したおっさんやおばさんが、寝る前に一編だけ読んだりするのに最適ですね。 ということは、ぼくもかなりおっさん化が進んでいるってことですね。 めでたしめでたし。 (06/6/20) |