ALC ビル 塗装 田中哲也
インデックス読書感想文 目次>田中哲也


田中哲也

タイトル評価一言メモ
大久保町の決闘うな∈(゚◎゚)∋主人公に好感の持てるコメディ
ミッションスクールうなくだらないコメディ短編集
大久保町は燃えているかうな設定だけで終わってしまった感が強し





  大久保町の決闘  うな∈(゚◎゚)∋

大久保町の決闘―COLLECTOR’S EDITION (ハヤカワ文庫JA)
田中 哲弥
早川書房





長編コメディ。

大久保町は、兵庫県明石市にある田舎町。
なぜか荒野が広がっていてなぜか住民が銃を携帯していてなぜか決闘の文化が生き残っている以外は、どこにでもあるのどかな町だ。
高校生の笠置光則は、夏休みを利用して祖母の家がある大久保町へ、町のことをよく知らないままに訪れて、よくしらないままに保安官と悪者の戦いに巻き込まれ、よくわからないままに腕利きのガンマンと勘違いされ、よくわからないままに命を狙われ、よくわからないままに一目ぼれした女の子が誘拐され、よくわからないままに一大決闘にまきこまれ、よくわからないうちにいろいろあってすべてがよくなったのであった。

くだんらないなあ〜。でも憎めないなあ〜。
とにかく、主人公の愛嬌が異常。
バカでお調子者で小心者でちょっとスケベで適度に正義漢で運が悪いけど悪運は強くて、と設定だけ聞けば少年漫画によくあるそれなんだが、その按配が絶妙。
間の抜け方が妙にかわいいので、なにをやっても何が起きても「このバカなら仕方ないかなあ」と許せてしまう。この空気を作った時点で、コメディとしてはまず勝利。

それを補佐するように、大久保町の住人がまた牧歌的なんだ。悪人までふくめて、非常に小市民的。西部劇の雰囲気とその小市民さが見事なハーモニーでにやけた笑いを誘発してくれる。
殺すのが大好きだから普段はゴキブリを養殖して殺している悪党の親玉とか、カップメンと魔法瓶にはうるさいその秘書とか、とにかくくだらない生活感が横溢していてたまらない。ドイツ製だから12メートルの高さから落ちても壊れませんじゃねえよ、なんだよその妙に細かい数字は。弟がいるのに名前が末男でうっかりもう一人できちゃったんだろうな、とか実にくだらない。でもありそう。この生活感。思わず笑ってしまう。

客観的に考えると、個々のギャグレベルはさして高いとも思わない。でも笑えてしまう。これは空気作りが統制されていてうまいからだな。全体の空気を乱すものがなにひとつない。だから笑いが許されている。
実際、笑うときに必要なのは、ネタのレベルの高さじゃない。その場に笑いが許されているかどうかだ。例えば、欽ちゃんなんかは昔っからギャグはつまらなかったが、あの空気の作り方は天才的だった。それは、万人の笑顔を許しているからだ。 人は、ことに日本人はだれかに許されなくては、なにひとつ行動をおこすことができない。そういう生き物だ。

だれもがどこかで心を閉ざしている。だれもがどこかで心の解放を願っている。 そこに「笑ってもいいんだよ」という許しを与えてくれる存在、それこそが、人をひきつけるのだ。極論をすれば、面白いから笑うんじゃない。笑ってもいいから笑うのだ。人は笑いたいのだ。その許可が欲しいのだ。だが許可を与えてくれる才能は稀有なのだ。それは許しの才能なのだ。
人を許すには、まず自分を許さなくてはいけない。自分を許せぬものに、人を許せるはずがないのだ。だから、まず、自分を肯定するべきだ。そこに、人はひきつけられる。きっとそうなのだ。

さておき、そういう意味で、今作は非常に良い空気をつくっている。
ヒロインなんかも正統派の美少女で、普通だったらうさんくさいくらいなんだが、主人公がストレートに「カワイイ」と思っているのが読み手に伝わるので、なんか可愛い。萌えとかそういうんじゃなくて、可愛い。

田中哲弥と云えば、W田中(啓文と哲弥)の毒のない方、という認識しかなかったが、いやいやなかなかこれは拾い物だった。
経歴を見ると吉本の台本作家だったりコピーライターだったりで、道理で台詞の噛み方とかタイミングとかが妙に細かいと思ったら、そういうことか。やっぱり脚本やってた人は、台詞の微妙なニュアンスでの臨場感の違いがわかっているよなあ。 人にしゃべらせて不自然な台詞を書かない。
当たりまえっちゃ当たり前なんだが、これを実行するのが、どれほど難しいことか。

大久保町シリーズは三部作らしいし、一通り読んでみるかな。

(08/5/21)







  ミッションスクール  うな

ミッションスクール (ハヤカワ文庫JA)
田中 哲弥
早川書房





コメディ連作短編集。
一見平和な学園に、いま激しい諜報戦が巻き起こり超大きなロボットが立ち、そしてこける! ★『ミッションスクール』
みんなが恥ずかしいことを叫んでその衝撃でみんな死んだ ★『ポルターガイスト』
文房具を買いに購買に行ったら、六年越しの冒険がはじまった ★『ステイショナリィ・スクール』
なんかもうとにかくすごい超人少女と普通の変態 ★『フォクシーガール』
145階建ての学校が沈み始めて、みんなが主人公を愛した ★『スクーリング・インフェルノ』

最初の二話がつきぬけて頭が悪い。
そもそもキリスト教系学校を指すミッションスクールのミッションインポッシブル的に解釈し、やけくそのようにスパイ映画お約束の展開をこれでもかと並べたて、それが絶妙にその手の映画を知悉した人間ならではのおちょくりになってて笑わせてくれる。
特に3メートルの体育教師田川が面白い。作者の体育教師への偏見が。

 いくら対象年齢四歳以上の本とはいえ文字で書かれているのだ。高校の体育教師に読めるはずがなかった。

この断定ぶりは感嘆に値するね。

『ポルターガイスト』も、エクソシスト的なお約束を連発でやりつつ下ネタぶっ放しつづけで、すべてのオチを放棄していい加減に終わらせているのが潔い。
こちらの教師もキャラが凄い。外見とあだ名がサンダーバード。サンダーバードってあんたw 肌の質感までそっくりじゃねえだろ、人間じゃねえよそれw

と、二話まで突き抜けて面白かったのだが、三話と五話はごちゃごちゃしすぎてなにが起こっているのかわかりづらく、あまり面白くなかった。四話は、まあ普通。 もともと電撃hpで三話まで連載されて超絶不評だったらしいが、納得できない。 やっぱぬるいラブコメ的笑いじゃないとティーン受けは悪いですか?

(08/6/3)







  大久保町は燃えているか  うな

大久保町は燃えているか (ハヤカワ文庫 JA (892))
田中 哲弥
早川書房





道間違いで兵庫県明石市大久保町に迷い込んでしまった新大学生・堀田幸平。
しかし大久保町は井上ナチスが支配する独裁村落であった。
レジスタンスの工作員とまちがわれた幸平はナチスに捕まってしまうのだが……

なぜか日本にナチスの支配地があるという馬鹿馬鹿しい設定に一本とられる。
田舎のせせこましい馬鹿馬鹿しさと厳格なナチス支配のちぐはぐさが滑稽だし、前作同様の憎めないバカが主人公のため、なんとも憎めない作品になっている。
が、あまりにも同じすぎる気がして興醒めな部分はあるし、話もナチス支配という根本的な部分はなにも解決しないままうやむやに終わってしまった感があるため、どうにも歯切れが悪い。
設定をつくったまではよかったんだが、終わり方まで考えてなかったという感じだろうか? 各キャラが立っているわりにはエピソード不足でどうにも収まりがわるい。
ちょっと残念かな、という感じだ。

(08/11/5)









読書感想文 目次に戻る

inserted by FC2 system