タイトル | 評価 | 一言メモ |
遺産の方舟 | うな | シミュレーション小説の佳作。もったいない |
あらすじ 大災害ののち、文明が崩壊してしまった未来の地球。 人類はほとんどが死滅し、世界各地に作られたテラリウムでわずかな人々が生き残るだけとなっていた。 巨大戦艦アレキサンドリアはそのどれからも独立し、「遺産の守護者」を任じ、優れた芸術作品を保護する役目を自らに課していた。 軍部に所属するニコル少尉はある日、上層部に命じられて日本にあるテラリウムへ、モネの睡蓮を取りに行くことになったのだが…… SFの中でもシミュレーション小説の部類だろうか。 「このような事態が起きればまわりはどうなるか?」というのを、いかに論理的にリアリティをもって描けるか、というような作品で、代表的なのはやはり小松左京の「日本沈没」や「首都消失」だろうか。 今作は短いながらも、五十四日間の大災害とそれに続く世界の崩壊をうまく簡潔に表現しているし、崩壊後の世界もの描写にもなかなか眼を見張るものがある。なるほど、そうなるのか、と素直に感心してしまう。 同様に、そんな世界で芸術品の保護だけのために存在する巨大艦という設定も面白いし、その内部で一般人、学芸員、軍部とで格差ができてしまっているのも面白い。特に植物自体が自らの繁殖の限界を悟る不稔症の設定には唸らされた ただ、短い。 世界崩壊の説明から睡蓮を保護するミッション、そこに端を発するアレキサンドリアの崩壊と、わずか170Pにおさめるにはいささか早足に過ぎて、物足りないしもったいない。もっとこの世界を見せてくれればいいのに、と思ってしまう。 もっと面白いのも書けそうな人だと思うので、ほかの作品も読んでみるかな。 (07/5/9) |