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筒井康隆

タイトル評価一言メモ
愛のひだりがわうな最近の筒井先生は善良すぎて怖い
おれの血は他人の血うな長編ピカレスク。いつも通りにしっちゃかめっちゃか
驚愕の荒野うな∈(゚◎゚)∋自選ホラー短編集。
ウイークエンド・シャッフルうないつも通りのドタバタ短編集。
イリヤムウロメツうなロシア人がわからない!
旅のラゴスうなぎ∈(゚◎゚)∋国産ファンタジーの最高傑作
うな





  愛のひだりがわ  うな

愛のひだりがわ (新潮文庫)
筒井 康隆
新潮社





SFっぽ。
良作……だが、ちょとさびしい。
『旅のラゴス』『馬の首風雲録』系列の物語と『時をかける少女』とかのジュブナイル系の中間にあるような話。
出稼ぎに出たまま行方しれずの父を探して旅に出る少女・愛が、その旅の途上で出会ういい人たちと、ろくでなしたちの話。

探していた父が、すれちがいで家にもどってきているあたりは、「幸せの青い鳥」を踏襲した展開なんだろうが、借金をこさえて人生の敗北者になって最低の人間になった父親に絶縁を叩きつけて終わるので、あんまり幸せではないかもね!
随所に出てくるろくでなしの描写は、さすが筒井先生、リアリティがあってとてもアレでよい。全体的に、できはいい。

ただ……アレだ。なんか最後にロマンがないんだよなあ。その辺がマイナスポイント。
一言で云うと、筒井先生も老いたのだなあ。良くも悪くも。
老いのロールプレイしてる可能性もあるから厄介だけど。






  おれの血は他人の血  うな

おれの血は他人の血 (新潮文庫 つ 4-8)
筒井 康隆
新潮社





なんかよくわからないけどピカレスクな感じの長編。
現代版座頭市って感じで、あとは筒井先生の定番で、こう、いつも通りにしっちゃかめっちゃかに。
ハードボイルド風のタイトな文章は小気味よく、ヤクザどもに漂うどことない惨めさは筒井康隆独特のもので、まあ、いつも通りに面白かったかな、と。






  驚愕の荒野  うな∈(゚◎゚)∋

驚愕の曠野―自選ホラー傑作集〈2〉 (新潮文庫)
筒井 康隆
新潮社





ホラー短編集。
表題作以外は以前に読んだことある奴ばかりだったのでパス。


★『驚愕の荒野』
面白い。
どこかゲームじみた和風ファンタジーの世界は、それだけで特異で興味深く、そのうえにメタ的なマトリョーシカ構造になっているあたりがいかにもいかにも。
ただ、オチはあるけどない。






  ウィークエンドシャッフル  うな

ウィークエンド シャッフル (講談社文庫)
筒井 康隆
講談社





短編集。
筒井康隆のドタバタですよ。
それ以上でもそれ以下でもないですよ。
面白かったけど、べつにいまさら内容云々を語る必要もないと思いますよ。






  イリヤムウロメツ  うな

イリヤ・ムウロメツ (講談社文庫)
筒井 康隆
講談社





ロシアの口伝叙事詩を筒井康隆がまとめて手塚治虫がイラストをつけたもの。
史実をベースにした架空の英雄イリヤの一生を描いた話。

一言で云うと、ロシア人はおかしい。
英雄イリヤがどう考えてもろくな奴じゃない。
まず生まれて三十年間ヒキコモリだし(身体障害者だったからだけど)旅立って最初にやったことは他人の寝床で勝手に寝て、人妻に誘惑されて一発ハメることだし、パーティーに呼ばれなかったというだけの理由で謀反を起こしたりする。
こんなイリヤさんですが、ロシヤ正教の守護者として大人気だそうです。日本でいう桃太郎のごとき人気者だそうです。やはりロシアの感覚は侮れない!

筒井康隆の個性を消して、伝承の雰囲気を伝えることに徹した文章は、体言止めの多用や短い言い回しによりリズミカル。技巧派筒井の実力が見れる。
にしても、本当にこいつが英雄でいいのか?ロシア。
なんか話が面白いというよりロシアの感覚が垣間見れて面白い。

(08/10/25)







  旅のラゴス  うなぎ∈(゚◎゚)∋

旅のラゴス (新潮文庫)
筒井 康隆
新潮社




昔に読んだ好きな作品について、うな的殿堂コレクションみたいな感じでちょくちょく書いていこうかな、と以前から思っていたのだが、好きな作品であればあるほど語ることが難しく、なかなか書き出せずにいたのだが、最上を求めてはキリがない。
とりあえず下手なりにこつこつ書いていこうかな、ということで。
まずはうな式作家ランキングで唯二の神ランクでありながら、ほとんど語っていない筒井康隆の名作『旅のラゴス』について語ろうかな、と。
でも筒井康隆に関しては、素晴らしい解説や評論がたくさん残ってるから、すんげー書きづらいんだよね……
まあいいや。


『グイン・サーガ』がここまで凋落しつつもなぜかくも買いつづけられているのかという理由は、むろん基本は惰性と意地ではあるが、やはり初期『グイン・サーガ』に匹敵・凌駕するクオリティの国産ファンタジーが、いまだほとんど生まれていないというのがあると思う。
初期にしても今から見れば瑕瑾はあるし、矛盾にも誤魔化しにも満ちてはいるのだが、それらをはるかに凌駕する勢いがあり浪漫があり雰囲気があった。要するに、すんげー面白かった。
実際、あの頃のグイン並に面白い国産ファンタジーがあるというなら、真面目に読みたいからどんどん教えて欲しい。
自分の知っている範囲で初期グインを凌駕する国産ファンタジーは一冊しかない。 その一冊こそが本作『旅のラゴス』だ。

本作はどことなくシルクロードを思わせるファンタジー世界で、長い旅路を行く青年ラゴスの半生を描いた作品だ。
それぞれの章が短編のようにうまくまとまった全12章で構成され、長さは文庫本で一冊、200P余しかない。が、物語の濃さはページ数と比例しないということを、実にしみじみと感じさせてくれる。
このわずか一冊の中には、若き青年が老人となっていく肉体的精神的過程が、すべて丁寧に描かれており、読み終わった瞬間、まさに一人の人生を追体験したような感慨を味わえるのだ。

物語のはじめ、ラゴス青年は南を目指して旅をしている。その最中で様々な町に立ち寄り、不思議な出来事に遭遇していく。
それは例えばテレポーテーションで集団移民する村落であったり、壁を突き抜けて移動する男であったりだ。多少メルヘンチックとすら云えるはじまりとなっている。

このあたりは少女のような幻想性に、男性的な力強い文体の合わさった筒井康隆らしい好編だ。いずれもわずか十数ページだが、落ち着いた文体で無駄なく的確に描写されているため、一つ一つの町が心に残り、世界の広さ・多様さを感じさせ、旅をしているのだという感じを味わわせてくれる。
そう、旅とは異文化との出会い、異世界との遭遇、価値観の変革を求められるものだ。
その異文化がまさに「異」文化であることを短くも的確に表現する技量には驚嘆せざるを得ない。

なにがすごいって、読者にとって異文化を感じさせるだけならともかく、主人公ラゴスがまず読者にとっては異文化の人間であり、そのラゴスにとっても異文化であると感じさせなくてはいけない。
つまり、読者の文化、ラゴスの文化、立ち寄る町の文化、すべてが異なるということを、読者に自然に理解させなくていけないのだ。あくまでも自然に、だ。
このさりげなさの中にこそ、普段はなりをひそめている語り部・筒井の真骨頂がある。

だが、このあたりの段はまだ「溜め」だ。
オーソドックスな展開によって、まず読者にこの作品の世界を認識させる。
そして読者がまさに世界に馴染むころ、物語は猛然と読者に襲いかかってくるのだ。

鉱山での数年に及ぶ過酷な労働。
たどりついた目的地での15年に渡る文化的活動。
非情な奴隷生活。
故郷への帰還。
そして新たなる旅立ち。

いずれもがそれだけで一冊の本になりうる、いや、下手したら数冊の本にもなりうるエピソードが、惜しげもなく投与されていく。
中でもやはり圧巻なのは、目的地での15年だ。

ラゴスの旅の目的は、過去の文明が残した書物を読み解くことだ。
そのために、巨大な図書館が残されている南の村を目指して旅をしていたのだ。
たどりついたラゴスは、数年にわたる、図書館のドームにこもって、ひたすら本を読みつづける。
この学問探究のくだりは、読んでいて眩暈を感じる。
膨大な学問を、冷静に順序だてて読み解いていく、その快感。そこで語られる学問を修める適切な順序もまた面白く、なによりも小説を読みはじめる段の興奮は素晴らしい。
耽溺することを恐れて敢えて遠ざけていた小説たちについに着手し、やはり麻薬のように毒されていく様は、世の読者家の似姿であり憧れでもある。

ラゴスはそうしてひたすらに本を読みつづけるだけなのだが、その最中で村人の相談にたまに応えるだけで、気が付けば王様と呼ばれる存在となっており、かれの助言によって村は繁栄を極め、いつしか王国となっていく。
この過程の緻密さと巧妙さにはただ夢中で読みすすめてしまうし、考えるにつけ舌を巻いてしまう。
文化・文明のもつ力というものを、ここまで巧みに描いた作品が他にあるだろうか。
そんな文明の力、ひいてはその文明を己のうちに修めていく自身の存在の大きさに、ラゴス本人だけが気づかない。なにせずっとひきこもっていて、外に出たことすらないから。
この展開の妙。
王国が別の国と大戦争をし、そのラゴスの読み解いた近代的火器で大勝利を収めたころ、自身は助手と一緒に電気実験に夢中でなにも気づかなかったくだりなどは、思わず微笑ましくなってしまう。と、同時に主人公のマッドサイエンティストっぷりと、学問の果てのなさに眩暈を感じる。

次の奴隷生活のくだりで、そうして得た多数の学問を記したノートが、無惨にも散ってしまった時の絶望感と云ったらなかった。
主人公自体は強靭な意思の力で次のページには立ち直っていたのだが、読んでいる自分の方が打ちのめされてしまった。だって、これは辛いよ、あんまりだよ……。

紆余曲折の末、ついに数十年ぶりに故郷へと戻ったラゴスは、すでに噂によって伝説的英雄にされてしまっている。そしてラゴスの知識によって故郷の街はより栄えていく。
英雄として受ける人々の善意と、善意と同じかそれ以上の悪意を、落ち着いた文体で冷静に描ききっているところがまた恐ろしい。
同時に、この大きな長い物語の終盤になって「家族」というもっとも原初的な集団について語られるのも興味深い。人の生は「家族」からはじまり、最後の問題もまた「家族」にある、といったところだろうか。

この物語では、常に個人のミクロな問題と、社会や文明というマクロな問題が、密接な関係をもって同時に語られる。個人と社会は密接な関係にあるのだから当たり前といえば当たり前だが、これを自然にこなす力量はやはり計り知れない。本当に、あまりにも自然に二つのことが語られるのだ。

このくだりでは、王国で助手をしていた少年のちの宰相が、もういい歳になってやることがなくなったのでラゴスを慕ってやって来るくだりが素晴らしい。いい歳をした老人が、ただ会いたいというだけで純朴さと恥じらいがいとおしい。
こういった美しさが、物語を際立てている。しかも、この来訪が有機的にストーリーに絡んでくるんだから油断がならない。

故郷での様々な軋轢の果て、老境を迎えたラゴスが単身新たなる旅路に出たところで、この物語は終わる。
ラスト数ページは、何度読み返して思い出しても目頭にを熱くさせる。
この物語の根底にあるテーマは、ラストで語られるありふれた言葉に集約されている。

旅の目的はなんであってもよかったのかもしれない。たとえ死であってもだ。人生と同じようにね

旅。
個人としての旅。
人生という旅。
文明を発展させつづける人類の旅。
「旅」という言葉のもつすべて。
それがこの物語には収められている。
その喜び、その困難、その虚しさ、その果てしなさ、その浪漫……そのすべて。
だからこそ、この物語は稀代の美しさをもって、完璧なまでに完成している。

筒井康隆は皮肉な文学家あり、過激なマッドサイエンティストであり、孤独なロマンティストだ。それらはすべて、同じ根をもってつながっている。この美しい物語の中にもまた、文学があり狂的実験があり、しかしそのすべてを浪漫が包み込んでくれている。
最高のひねくれ者が作り出した最高の浪漫。
筒井作品の中ではともすれば埋もれてしまいがちな本作だが、ロマンティストの生み出した傑作の一つとして、また国産ファンタジーにおける稀有なる名作として、語り継がれるべき作品であると思う。

「物語がいったい何をしてくれる?」
時にそう思うことがある。
そんな時、自分はこの作品を思い出す。
そして何度でも思い直すのだ。
「物語は、美しい。それだけで十分に意味がある」と。

(09/3/25)






 










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