タイトル | 評価 | 一言メモ |
時の果てのフェブラリー | うな | 萌えないSF |
アイの物語 | うなぎ | 話のつながりが美しい連作SF |
まだ見ぬ冬の悲しみも | うな | 正統派のアイデアが光るSF短編集 |
神は沈黙せず | うなぎ | 畢竟KのトンデモSF大作 |
闇が落ちる前にもう一度 | うな | 普通のSF短編集 |
うな | ★ |
長編SF。 ある日、突然。地球上の数箇所に異常事態が発生する。 スポットと呼ばれるその場所は、中心に近づくほど重力が軽くなり金属は加熱し、そして時が加速する赤方偏移世界となってしまったのだ。 スポットの出現により、全世界には異常気象が発生、遠からず地球規模で壊滅的な被害が起こると予測される。 事態を重く見た各国はスポットに調査隊を向かわせるが、なに一つ真相はわからない。 そこに一人の少女が調査隊へ名乗りをあげた。 人間の思考法ではなく、メタ文法によって思考する能力、オムニパシーを備えた少女フェブラリー。 彼女はその能力によって、常人よりも多くのことを知覚することができるのだ。 スポットへと向かった彼女がその中で見たものは…… 面白い。 SFとしては。 謎の異常現象とそれを解明する超能力少女、というのはありがちな設定ではあるが、さすがト学会の会長と言うべきか、いたるところに現実の科学物理学量子学の知識がふんだんに盛り込まれ、見事にリアリティを出している。 「人間の思考法が情報量を制限してしまっている」という考えによるメタ思考法オムニパシーも、とんでも能力でありながら説得力がある。 時の加速していく赤方偏移世界の描写も実に念入りで、なるほど、こういう現象が起きればこうなるのか、と読んでいて感心させられる。 実によくできたハードSFの良作だと思う。 ただ、小説としては微妙な。 天才少女の憂鬱や親子の成長などが描かれるんだが、どうもこの辺はSF設定の説明のうまさに比べるとバタ臭くて、ぶっちゃけどうでもいい。 設定の説明の念入りさに比べてストーリー展開はやや駆け足で、もうちょっと行数をかけてじっくり語って欲しい部分も多々あった。 特にスポット内部で偽りの宗教をうちたてていたコミューンの崩壊は、あんなにあっさりしていていいのだろうか。あんまりじっくりやると確かに別の作品になってしまいそうではあるが。 そのくせ、少女がされるがままにレイプ未遂にあったりとサービスシーンが入っていたり。 とにかくキャラクターには思い入れできないので、物語として楽しめないし、文章もぶっちゃけうまくない。 そういえば、この天才超能力少女フェブラリー。 実に、萌えそうで萌えるポイントを外してきてくれるのが心憎い。 なにがいけないのかということを考えると、どうも親父臭い。 いや、少女が親父くさいんじゃないけど、この少女の理想化の仕方が親父臭い。 じゃあ理想の娘として愛でればいいんだろうが、そういうのともなんか違う。 ある意味、これを再販したデュアル文庫の性質にぴったりなヒロインではある。 イラストが後藤圭二なあたりは、大人びた天才超能力少女=『機動戦艦ナデシコ』のホシノルリという分かりやすい解釈がなされていてある意味素敵だが、圭二、なんでそこで人気の高いTV幼女版じゃなくて劇場版に近いキャラにするんだ? わからない、わからないよ、この外し方。 これがデュアル文庫流だってのかい? だから存続が危ういんだよ(つうかいまでもあるの?) (07/4/18)
sf。変則的な連作短編集。 人間が自ら生み出した機械との戦争に負け、文明を退化させて生き延びている未来。 語り部の少年は、少女の形をした機械に捕らえられる。 機械の少女アイビスは云う「あなたと話がしたいの」 そうして、機械の少女は、かつて人間が残した物語を少年に語って聞かせる。 本編では、少年と機械少女のくだり合間合間に、作中作という形でそれぞれの短編が挿入されている。 以下、それぞれの短編の感想。 ★『宇宙をぼくの手の上に』 このタイトル、聞いたことあるな、と思い調べてみると、なるほど、フレドリック・ブラウンの古典名作SFのようだ。 インターネットを通じ、会員が架空の宇宙船「セレストリアル」の乗員という設定で、それぞれ思いのままにセレストリアル号の冒険をリレー形式の小説にする会を主宰する主人公。 ある日、警察がやってきて、会員の少年が同級生を殺して逃走中だと告げる。 逃走中の少年は、セレストリアルの自キャラが死ぬように物語を展開させるのだが、会員たちはなんとかそのキャラが生き延びられるように物語を展開させようと、議論を尽くす。 うーん、いい話。いや、本当に。 作中作中作である古典的スペースオペラの描写が、なんともSF愛に満ちている。 SF者らしい好短編。 でも、ぼくはこういう仲間意識とかもてないからだめなんだろうにゃ〜。 ★『ときめきの仮想空間』 五感すべてで感じることのできる仮想空間MUGENの普及した近未来。 MUGENだけが楽しみの少女は、今日もまた仮想空間で一日を過ごす。 ところが、その日はいつもとちがった。生まれて初めてナンパをされたのだ。 少年との仮想空間での冒険は、やがて少女に勇気を与えていく。 あまったる〜い。 オチはあるっちゃあるし、うまくまとまっているが、それ以上にあまったるさと少女のありえない清純さがあれだった。 ★『ミラーガール』 学習型AIが子供と会話してくれるというおもちゃ、ミラーガール。 麻美にとって、ミラーガールのシャリスは一番の友達だった。 麻美は十数年にもわたり、シャリスと会話をし続ける。やがてAIの研究をしている技師と結婚した麻美だったが、彼女の培った十数年が、AIに革命的な進化をもたらすのであった。 なんかこう、ああ、SFですね、という感じで、それ以上でもそれ以下でもない。 ★『ブラックホール・ダイバー』 <この世の果て>となづけられた銀河系の彼方で、ブラックホールの近くに作られた宇宙ステーションである「私」 「私」はブラックホールを観察し、そのデータを送り続けることが仕事である。だが、文明が探究心を失った今では、「私」の送るデータに意味などはなかった。 「私」のもとには、たまにダイバーという名の自殺志願者がおとずれ、ブラックホールに身を投じるだけだった。 「私」のもとに、二百七人目のダイバー、シリンクスが訪れる。彼女はいままでのダイバーとはなにかが違っていた。 いいなあ、これ。まさにハードSFで、ロマンもある。 シリンクスがあらわれ、そして去ったことではじめて孤独を理解する機械。 「私もいつか詩が書けるのではないかと思う」 というラストまでばっちり決まっている。いいSFだ。 ★『正義が正義である世界』 女子高生の彩夏に、メル友からこんなメールが届く。 「私は別の世界の人間なの」 彩夏は思わず笑ってしまう。そんなのとっくに気づいていたから。 設定自体はありがちだと思うけど、語り口がうまくて、オチもいい。 このネタに、こういうアプローチの仕方があったかと感心した。 ★『詩音が来た日』 介護アンドロイドの試作機が、介護老人健康施設に試験配属されることになった。 介護士である神原はそのアンドロイド・詩音の教育を任されるのだが、すぐに途方にくれることになる。アンドロイドを教育するということは、アンドロイドに心を教えることだというのに気づいたからだ。 詩音を人として扱うことで心を教えようとする神原。 しかし、詩音の出した人間に対する結論は、神原の想像していたものとはまるでちがっていた。 うまい。 詩音の出した人間に対する結論、これがうまい。 なるほど、だから老人ホームが舞台なのかと膝を打たされる思いだ。 人間になりたいなどとはまったく思わないアンドロイドというアプローチだが、そこには冷たさがまったくない。冷徹な論理と倫理でもって、きちんとやさしい物語として仕上げている。 アンドロイド製作会社の人がみんなオタクのギャルゲー世代で、アンドロイドの名前を「頭にマのつく名前にしたかった」などと、くだらない小ネタも地味に効いている。 ロボットの成長物語としては、新しいタイプであり、模範の一つとしたくなる秀作。 ★『アイの物語』 これまでの話を語っていた機械、アイビスの語る真実の歴史である物語。 人間が長い年月をかけて学習させ、自分の意思をもつトゥルーAI……TAIを生み出していた。といっても、TAIはコンピューターでつくられた仮想世界の中だけの存在だった。 女性型TAIの一人であるアイビスは、仮想世界でつくられた設定に基づいて戦うヴァーチャ・ロボ・バトルの選手だった。 ある日、不正にコピーされたアイビスのデータが、仮想世界で虐待され殺される事件が起きる。アイビスのマスターはこの事件に激しく憤り、TAIの人権を訴え始める。 一方で、世界では多くの反TAIの人々が、TAIを批判していた。 その世情のなか、現実にロボットの肉体をつくりあげ、そこにTAIを移植する人々があらわれる。反発する人々はテロをはじめ、TAIの破壊をはじめる。 親TAI派と反TAI派は激しい衝突を繰り広げるが、当のTAIたちの想いはまったく別のところにあった。 そして、彼らはついに一つの決断を下す…… すばらしい。 いままでの短編で読者に培わせたAIの知識を、思考法を満遍なく使い、真実の歴史をたくみに描いている。 AIを題材にした、という以外はまったくつながりのない作品たちが、この一編によってすべて華麗なまでに意味を持った。連作形式の醍醐味だ。ぞくぞくする。 特にAIが独自の言語を作り出しているところが面白く、ファジィ要素を虚実数であらわすiや、二次比喩三次比喩と呼ばれる、もはや暗号的ですらある会話は、しかしなんとなく意味がわかるような気がして、非常に良い。 終始主張の一貫したAIの思考は意外な結末を導き、少年とアイビスの生きる現在へとつながる。 そして、ロマンに満ちた見事な幕引き! 一つの物語が、完璧な終わり方をした瞬間のあの感覚を、ほかの何にたとえられるだろう。 ぼくが求めるのはひとえにあの瞬間で、そしてその瞬間をくれる物語は、少ない。 だから、この一事をもってだけしても、ぼくはこの物語を祝福するし、この物語が存在することに感謝する。 この作品集には、愛が満ちている。 SFへの愛だ。 この作者には斬新なアイデアはない。特異な情感も、鮮烈な言語表現も、巧緻を極めた構成も、燃えるバトルも、萌える美少女もない。ただ、SFへの愛がある。SFにささげた年月がある。SFにもらった夢がつまっている。 これはと学会の主宰で知られる著者にしか書けない作品集だろう。 SFが彼にこれを書かせたくれたのだし、彼もまた、SFにこの作品を返した。このSFは次のSF世代に新たな夢をつむがせる一つの財産だ。 ああ、SFはいい。そう思った。 ぼくは山本弘に才能があるとはまったく思えない。しかし、彼がこの作品郡を書いたその情熱に、年月に、狂おしいほどの嫉妬と憧憬を隠しえない。 ああ、ほんとうに、SFってのは、いいもんだ! (07/8/7)
★『奥歯のスイッチを入れろ』 事故によって半身不随となったタクヤは、幼馴染のベルガに誘われ、SSS――ソニック・スピード・ソルジャーとして生まれ変わる。 SSSとはスイッチを入れることにより、三十秒間だけではあるが通常の四百倍の速度で動き、考えることができるアンドロイドのことで、元の脳からコピーされた記憶以外は完全な機械である。 タクヤがリハビリを続け、生まれ変わった肉体に慣れてきた頃、同じSSSによるテロ事件が起こる。それからしばらくして、タクヤのいる研究所をテロリストに襲撃される…… 要するに、サイボーグ009を真面目に考察したらどうなるか、という話なわけだが、さすがと学会の人。重力だの感性だの空気抵抗だの、およそ考えうるさまざまな問題を細かに描き出しているし、それを生かした戦闘シーンは、別に迫力はないが見事。 このわざらしい科学考証! なんか好きだな、こういうの。科学考証って男の子だよな ★『バイオシップ・ハンター』 ジャーナリストである主人公は、イ・ムロッフ族に誘われ、彼らの宇宙船、バイオシップに招かれる。 バイオシップはイ・ムロッフ族が共生する巨大な生命体で、彼ら以外には懐いていない。 近年、謎のバイオシップによる人類の宇宙船襲撃が続いており、イ・ムロッフ族はその犯人として疑われていた。その疑念を晴らすための招待だろう。 主人公は、招きに応じることにしたのだが…… いわゆる普通のSFって感じ。イ・ムロッフ族やバイオシップの設定が良くできている。 こういうのでいいんだよ、こういうので。 ★『メデューサの呪文』 未開の惑星アルハムデュリラーには、かつての文明が残した超科学による遺産が残されている。地球人はその遺産を求めて原住民であるインチワームに幾度も問うが、かれら口を開かない。 彼らが話をする条件は一つ。詩人を連れてくること。 こうして、宇宙船の下級エンジニアである三文詩人の主人公は、インチワームとの会話に臨むことになったのだが。 言語文明という荒唐無稽なアイデアと、フレドリック・ブラウン的な気の利いたオチ。 オチまだかなあ。SFといったら気の利いたオチだろうが。 そんな貴方も満足するに違いあるまい。 ★『まだ見ぬ冬の悲しみも』 過去に物体を送る装置CHLIDEX。その人体実験一号として選ばれた俺。 その実験がはじまろうとする前に、未来から二週間後の俺が送られてきた。 実験の有用性は確かめられ、俺は二週間前ではなく半年前に送られることになった。 俺はひそかにほくそえむ。半年前ならば、彼を捨てた恋人と、はじめからやりなおせるのだ。 しかし、実験には「宇宙を滅ぼす」という噂もあり…… ハードSF! ハードSFじゃないか! この理論のよくわからなさ、たまりません。そしてSFでなきゃお目にかかれない光景。 なかなかにすてきな短編だ。 最後の二行……あれが効いたな ★『シュレディンガーのチョコパフェ』 フィギュアとゲームと漫画とアニメに耽溺し、美人で同じオタクの彼女と幸せな日々を過ごす主人公。 そんな彼の旧友である科学者が、とんでもない大発見をものにする。 主人公は取材として友人に会いに行き、そこで彼が世界を滅ぼそうとしているのに気づくのだが…… 量子力学的な云々かんぬんはあいかわらずぼくにはさっぱりでしたが、ブスとバカップルなのがよかった。オタクっぽい固有名詞が頻繁に入ってきたのに、それがさほど効果をあげているようには思えなかったが。 ★『闇からの衝動』 十歳の少女、キャサリンは自分をいじめた少年に対する復讐のため、地下室で悪魔を呼び出そうとする。しかし逆に怪物に襲われる。 それから十五年後、作家となったキャサリン・L・ムーアのもとに彼女の熱心な読者であり、後輩作家であるヘンリー・カットナーが訪れる。 カットナーと話すうちに、キャサリンは地下室のことを思い出し、二人で訪れたのだが…… 吾妻ひでおがよく言っていたシャンブロウってムーアの作品だったんだ? そしてC・L・ムーアって女性だったんだ。 と、云う感じで、ムーアの名前は知っていても、その代表作すらしらないぼくにはいささか手に余るというか、万全に楽しめたとはいえない作品であった。 ストーリー自体は、クトゥルーものの王道だし、ムーアやハワードを人外にしてしまうとんでもさはいいと思うよ。 ただ、作家へのオマージュがさきだって、ちょっとコズミックなホラー度合いが足りなかったかな。いかんなあ、いかんいかん (2007/8/8)
長編SF 幼い日、不慮の事故で両親を亡くして以来、神の悪意を疑うようになった和久優歌は、長じてフリーライターとなり、ネットから出てきた若き天才カリスマ作家、加古沢黎と出会い、交際をはじめる。 一方、優歌の兄は天才プログラマーとして、AIを利用した斬新なゲームでヒットわ飛ばしながら、やはり両親の死により神の存在を疑っていた。 そんな中、2010年代のある日、空に「神の顔」が顕現し、世界の様相は大きく変わっていく…… 果たして神はいるのか? いるのならばその思惑は? お、おもしれえええ! これ、面白いよ、面白い! 超骨太の正統派SF。ストロングスタイルといいたくなるくらい、正々堂々として強引なSF。小松左京の全盛期ならかくもあろうかという豪腕と緻密な調査。それをあくまで二千年代の現在の知識でやっているのだからたまらない。 古き良きSFのスタイルから、古さだけをとった感じ。いい、いいよ。これぞSF! 「神はいる」という前提条件のもと、あくまでそれを論理的に追求する、というテーマがいい。 『果しなき流れの果に』や『神狩り』に比肩し得る壮大さと荒唐無稽さ。それを支えるのは異常ともいえる情報量。 巻末を見ればわかるが、その資料数の圧倒的なこと! しかもそれが、書くために集めたものではなくて、好きで集めて本棚にあっただけ、というのがいい。あらかじめ頭に入っている知識だから、その挿入の仕方、説明の仕方の適切でわかりやすいことときたら! 「ヨブ書」や「出エジプト記」を中心とした聖書に関することからはじまり、様々な心霊現象や超心理学の多岐にわたる実験、世界各地のUFO目撃談や、古くから伝わる謎の飛行物体、謎の落下物ファフロツキーズ、それらすべての超常現象が、まことしやかなものから眉唾物まで、百じゃきかない量の実例を挙げて説明されているこの圧倒的情報量! 本編を何度も中断されて入ってくるため、ともすれば鬱陶しく感じそうなものだが、一つ一つの実例が面白く興味深いため、まるで百物語に聞き入るようについついと読み進めてしまう。 本編自体も面白い。 2030年に生きる初老の主人公が、絶えず撮りつづけていた映像や音声資料をもとに、半生をふりかえる、という形式ではじまっているのだが、その時点で世界が大きく変わっているらしいこと、兄が謎の失踪を遂げたこと、加古沢という男がなにか大変なことをしでかしたこと、そして現在の地球の空には「神の顔」が浮かんでおり、人々はそれわ受け入れているということ、などが示されていて、非常にミステリアスで興味をそそる出だしだ。 その出だしに比べ、本編のストーリー進行は非常にゆるやか。文庫で上下巻合わせて800P超にもなるのだが、もしストーリー進行だけに焦点を合わせるのなら、この三分の一で十分だろう。 では残りの三分の二はなんなのかといえば、上記の多彩な知識や実例、それに未来社会のシミュレーションなどである。 しかしこれが余計な部分なのかといえば、それはとんでもない。 本作の核となるネタは、ありふれたものだ。使い古された陳腐なものだとまでいってもいい。それを一流の作品にまでもちあげたのは、上記の豊富な知識によるものだ。 あまりにも陳腐なネタでも、それを支える実例が無数に挙げられるため、説得力が出てきてしまうのだ。 中には著者の創作も混じっているのだろうし、それによって類推が曲げられているのかもしれんが、それがあまりにも巧妙すぎて気が付かない。まさに木を隠すには森、といわんばかりの圧倒的なうそ臭い話のオンパレード。そこに学問的な問題がいくつも挟まれ、実在の学者と理論がいくつも挙げられているのだから、バカな自分は気持ちよく騙されるしかない。 そして、それらの一見いいかげんに散らばらせたような様々な小エピソードが、ラストで絶妙につながっていくこの快感! まさに物語の醍醐味! 以前に読んだ著者の作品でも感じたが、ここにあるのは揺るぎなきSFへの愛。 壮大なのがSF。荒唐無稽なのがSF。バカっぽいのを真面目にやるのがSF。 そしてほかにはない感動をくれるのがSF。 そう信じているのが、ひしひしと伝わってくる。だからこちらにも伝染する。 難点を挙げるなら、主人公か。 せっかくの女性主人公の一人称なのに、文体・内面ともにそれの利点はまるで感じられず、ぶっちゃけ男にしか見えなかった。ストーリー的には人間関係上、女である必然は確かにあったのだが、それを文章に昇華できなかったのは残念。 だが、そんなささいな欠点をふきとばすまさにSF大作。 この情報量だけをもってしても宗教・超能力・心霊・UFO関連に興味のある人間には必読。まさに必読。必ず読め。 いやあ、SFいいなあ。チクショウ! (07/12/29)
SF短編集。 宇宙物理学を専攻する主人公が見出した新理論によると、なんと宇宙は誕生から八日しか経っていないというのだが…… ★『闇が落ちる前に、もう一度』 航空写真に写っていた、マンションの屋上にある奇妙なものの正体は……? ★『屋上にいるもの』 AIアイドル抱いた殺意。その真意は…… ★『時分割の恐怖』 恋人が見た巨大な顔とはなんなのか? ★『夜の顔』 ある朝目覚めると、人類は五百分の一に減っていた。 ★『審判の日』 以上五編収録 『闇が〜』はアイデアは面白いが、短すぎてアイデアだけで終わっている。もったいない。 『屋上にいるもの』『夜の顔』は珍しくホラースタイル。 ぶっちゃけ微妙。筆の迫力に欠ける人なので、感情に迫ってこない。ホラーは向いてないだろうなあ、この人。 『夜の顔』は『神は沈黙せず』の試作型、ないしはアナザーverといったところか。やはりあの作品を支えていたのは異常なまでのトリビアなので、それなしでアイデアのみだと厳しい。 『審判の日』は、珍しく単純なアイデア。 筆力が問われる内容だから、やはり厳しい。 ページ数も中途半端。 栗本薫も似たようなテーマを短編『コギト』やら『BURN紫の炎』やらで色々やっていたが、どうにも見劣りしてしまう。うーん、やっぱりこの人はアイデアとはったりトリビアにかかっているな。 文章は読みやすいのはいいことなんだが、それ自体の魅力は非常に薄い。小松左京系だ。小松先生はときどき有無を言わさぬ迫力があるけど、この人にはそれがないので、なにか別のもので補わなくては。 それが膨大なはったりトリビアなんだろうな。 『時分割の恐怖』は、その発想力が存分に生かされた好短編。 AIに良心が誕生する過程を描いた物語となっているわけだが、構成がお見事。 こういう「あるべきところへきちんと収まっている物語」というのは見ていて惚れ惚れする。 ちとSFとしての方向性が定まらず、散漫な印象がある短編集だった。 最近の奴のほうがずっといいな。 全体的には普通の作品集だった。『時分割〜』だけはおすすめしていきたい。 (08/5/11) |