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吉岡平

タイトル評価一言メモ
火星の土方歳三うな∈(゚◎゚)∋荒唐無稽ながら浪漫あふれる新撰組ものの逸品
金星のZ旗二番煎じ、かつ趣味に走りすぎ
にんげん、はじめましたどうでもいいとしか云いようがない





  火星の土方歳三  うな∈(゚◎゚)∋

火星の土方歳三 (ソノラマ文庫)
吉岡 平
朝日ソノラマ





長編SF。
あの土方歳三が死んで火星に転生。
そこで数々の怪異をくぐりぬけ、ついに火星に新撰組を築きあげ、現代もそこで矍鑠としておられますよ、という、義経=チンギスハン説をはるかにトンデモにしたようなお話。

ポイントは、ここでいう火星とは現実のそれではなく、バローズ描くところの、あの火星シリーズの火星であるということ。
要するにパロディ小説なのだが、いやしかしこれが良かった。
土方が火星につくなりド下手糞な俳句を読むところから、すっかり引き込まれてしまった。そうそう、土方ってこんなやつだった。
それからはぐいぐいと。

行く先々で怪異と豪傑たちに出会い、また別れ、動乱のヘリウムでついに豪傑たちが集い、浪士隊を組むくだりは、ご都合主義の塊であるものの、やはりよい。
異常にはやいテンポで話が進んで小気味良いのもあるが、やはり作者が土方と火星シリーズを好きなのが伝わってくるのがいい。
そしてまた、おれも安易にどっちも好きなのだった。

土方さんは男にも女にももてまくりで強すぎでご都合主義このうえなく、普通だったら白けるところなのだが、土方さんなのでよい。許す。だって土方さんだもの。
火星の描写もでたらめがいいところだが、でもいい。だってバローズだもの。
だから、おれはあまりこの作品を冷静に評価できていない気がするが、しゃあない。

難を云うなら、物語の終わりどころがわからなかったのか、最後がちょっといいかげんだった。
でもまあ、いいではないか。
今日もまた、土方歳三は火星で戦いつづけている。そんな浪漫があったっていい。

(06/9/8)







  金星のZ旗  う

金星のZ旗 (ソノラマ文庫)
吉岡 平
朝日ソノラマ





SF。「火星の土方歳三」の続編。

あらすじ
土方に呼ばれ、火星に蘇った秋山真之。
が、嫉妬ぶかい土方におわれるようにして金星へ。
そこでいろいろあって艦隊を指揮し、大勝利を飾るのでした。

こりゃーねえなー、と思った。
まず題材選びが有り得ない。
Z旗? なにそれ? 秋山真之? だれそれ?
それが忌憚のない率直な第一印象である。

秋山真之というのは、日露戦争のとき、日本海海戦でT字戦法を考案し、日本海軍を大勝利に導いた立役者だとかで、なにやら松山出身の有名人で、正岡子規の親友だとか。
いや、松山出身ですが知りませんでした。軍人に興味ないもので。

まあ、ざっと調べてみると、日本海海戦以降は、戦意高揚のために名参謀に祭り上げられた人だったみたいね。
で、司馬遼太郎の長編「坂の上の雲」で主役にとりあげられ、一躍有名人に。
ははあ、今度読んでみます。松山人だった者の端くれとして。

で、おれが知らないだけで有名人なのかも知れんから、秋山真之を主役にもってきたのは、まあいいとしよう。
だが展開がよくない。
「土方に招かれた」と設定してしまったために、序盤が土方との絡みになっているのだが、これがよくない。
圧倒的存在感をもった前作主人公と、まだ登場して間もない新主人公とでは、どうしたって前作主人公に目が行く。
おまけに土方は前線で戦う剣士、秋山は参謀である。
ただでさえ目立ちにくい役回りの人間を余計に地味に感じさせる。

この序盤において、土方という人間の陰を描写するのには成功していたが、秋山という主人公に対して「頼りねえおっさんだなあ」という印象を与えてしまっている。
そんな序盤が100ページもつづいて、ようやく本編の金星にいくわけだが、そもそもだ、あとがきで作者自身も書いているが、金星シリーズって、しらんがな、そんなの。
バロウズが晩年に書いた火星シリーズの続編らしいが、まあ、いいかげんな作品らしくて、火星に比べて知名度も評判も芳しくない。

土方歳三と火星シリーズ
という組み合わせに対して
秋山真之と金星シリーズ
まったくワクワクしない。
どうかしているんじゃないかしら。

で、その金星に着いてからだが、これもよくない。
そもそもカーターの孫がなんかしらんか秋山に惚れてついてきているんだが、これもまったくよくわからない。
若くて色男で女好きで剣の腕も立つ土方がモテモテだったのは納得がいくがおっさんでひげづらで喧嘩はからっきしで女好きでもなく口もうまくない秋山真之が、 なんでモテモテになるのか?
作者の手癖なんだろうが、ちっとも納得がいかない。
後半になると妻が二人いるようにまでなって、なんとも釈然としない気持ちになる。

本編のストーリーの方も、北朝鮮みたい国に囚われたり日本みたいな国に身を寄せたり、その国で首相に「感動した」とか言われたり、なんとも直接的なやすっぽーい政治批判が鼻につき、肝心の「異星で成り上がっていく立身出世もの」の魅力がまったくもってない。
本当に「火星の土方歳三」と同じ作者か? と疑いたくなるほど、展開が下手。
このむらっ気が、この作者がこの知名度・売上・存在感でとどまっている理由なんだろうなあ。

オチも「はあ、そうですか」といいたくなる具合で、どうもこの作品は見なかったことにしてあげた方がいいんじゃないかな?

(06/11/15)







  にんげん、はじめました  う

にんげんはじめました (ソノラマ文庫)
吉岡 平




ラノベ。全二巻らしい。

何者かによって突如として巨大な結界の中に隔離されてしまった群馬県I市。
フリーライターの陽一は、知り合ったタクシードライバー佐伯とともに脱出を試みるがどうしてもうまくいかない。その最中、二人はエリンという名の少女と出会い、三人で暮らすことになる。
指揮系統の麻痺した警察、自衛隊は混乱する住民を抑えることはできず、その状況下で市長はなにかを企みはじめる。
そして街には異形の化け物が現われた。
I市を隔離したのは、何者かに呼び出された十三体の悪魔だったのだ。
悪魔の前に立ちふさがるエリン。彼女は悪魔達の同類であり、彼らを罰する異端審問官だったのだ。
彼女の望みはただ一つ、すべての悪魔を罰し、人間になることなのだ……

という、さして複雑でもない設定を理解したのは読み終わったころだった。
隔離された都市、という唐突な設定からはじまるのは、なかなかミステリアスでよかったのだが(首都消失みたいだし)結局その理由が「悪魔かよ!」という感じで、非常に萎えた。
とにかく説明をしてくれないのがイライラする。
おまけに場面転換をコロコロするし、だれが主役でなにを目的としているのか、まっくたもってよくわからん。おまけにところどころに寒いギャグが入ってくるし、いかにもラノベですという風に戦闘がはじまったと思えばあっという間に終わったり、とにかくチグハグなつくり。
描写のせいか会話文のせいか説明不足のせいか、逼迫しているはずの住人の事情もまったく伝わってこず、自衛隊の身動きのにぶさと内面事情の説明だけがリアルで「ああ、作者は軍事オタなんだな」というのがわかっただけだった。

なんか作者がなにをしたいのかまるでわからなかった。やたら丁寧にあとがきで次回を煽っていたのもなんか寒々しかったし。全二巻らしいが、下巻を読みたいという気がまったくしない。

『火星の土方歳三』が面白かったのでいままで何冊か読んでみたが、結局、あれが面白かったのは色々な要素が奇跡的にうまくいった結果であって、基本的にこの作者は面白くないようだ。残念な話である。

(08/5/20)










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