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栗本薫 2006年


  第六の大罪 伊集院大介の飽食  う  

第六の大罪―伊集院大介の飽食 (講談社文庫)
栗本 薫
講談社





ミステリー?短編集。


★『グルメ恐怖症』
「私は殺される」
伊集院大介事務所を訪れた190?の巨漢は告げる。
グルメライターとして名を馳せた彼は、親友にして編集長である男に長期計画で肥え太らされ、それによって殺されようとしているのだと云う……

まて、まてまてまて。
出オチ?つうか話の出だしで云ってたことがそのまま真相ってどうなの?
いや、いちおう心理的なよくわからない言い訳がついてたけど、とにかくそれってどうなの?
つうか大介ちゃんと働けよ。


★『食べたい貴方』
「夕食になにを食べたい」「貴方」
五十八歳のチンピラ、佐藤はあせっていた。
組長に命令され、接待をしている得体の知れないガイジンがけったいなことを言い出したからだ。
ホモにしたってまさか自分のような不細工のおっさんを望むわけもあるまいし、しかしそれでは「食べたい」とはどういう意味なのか……

まて、まてまてまてまて。
だから最初の数行がそのままオチになってるってどうなの?
つうかヘッタクソ。ヘッタクソ。構成がヘッタクソ。
まあ、いいよ、このネタで一本書いても。

しかしだね、薫君。まずホラーで行くのかミステリーで行くのか、それを最初に決めなくちゃ。一つの食材があったとして、普通はそれを中華風フレンチ懐石料理になんてできないのだよ。いや、超絶テクニックをもったシェフならできるのかもしれんがね(笑)君はちがうでしょ?
だったら、和風なのか、中華なのか、フレンチなのかイタリアンなのか、それを最初に決めなくちゃダメなのだよ。そしてほかの料理をきっぱりあきらめる。で、大まかな方針を決めたら、次にどの料理にして、どういう感じに仕上げるか決める。さっぱりなのかこってりなのか、そういう大雑把なのでいいから、とにかく決める。

作り始めるのは、それからなのだよ。食材が手に入ったからって、なにも考えずに鍋にぶちこんでたらキミ、闇鍋にしかならんよ(笑)ま、闇鍋がうまくなることもあるがね、それはいわゆる料理の腕じゃないでしょ? 偶然とか奇跡とか呼ばれる代物だ。
薫君も当道場に来たからには、手に入れたいのは偶然ではなく、確かな腕前、でしょう? だったら、勘に任せたいいかげんな闇鍋調理を即刻やめたまえ。いや、食べるのがキミだけならば良いのだよ? それは個人の自由だ。
しかしいみじくも人に食べさせよう、読ませようと思ったのなら、確かな知識と経験によって作られた一品料理でなくてはならぬよ。我々創作家は読者の金をいただき、時間をいただき、なにより期待と夢を背負っているのだ。

後半のくだり、これは枚数稼ぎだね。こういうのもやめたまえ。読者には伝わるよ、こういうの。枚数を稼ぎたければ無駄なシーンを長くするのではなく、必要な事件を一つ起こしたまえ。
そもそも小生だったらこのネタで書こうとすら思わないね。「人を食った男」が本当に人を食っていた。こんなネタが面白くなると思ったのかね? 本当に。では「夢見がちな人」が本当に夢を見ていたら面白いのか? 「(話が)いつもすべる男」が本当に地面をすべってたら面白いのかね? 「冷たい男」が死んで冷たくなったら面白いのかね? 「熱い男」が本当に燃えて死んだら面白いのかね?
ちと面白い気もするな(笑)

ともかく、安易さは敵だ。ひねれひねれ。ひねってひねってひねりきったと思っても、そこは読者の想定内だ。そのままねじりきってやっと読者の裏をかける。そういうものなのだ。
それとね、きみ、薫君。きみはなかなかお歳を召しているようだが、だからと云って主人公を同年代にすりゃいいってものではない。きみがどんな人生を送ってきたのか小生は知らぬがね、きみが五十代の男性を描くというのは、これは明らかに無理だよ。どう見ても言動のすべてが大学生以下の小僧にしか見えん。
もっとこう、自分で感覚のつかめる年齢・性別をチョイスしたまえ。なにも五十代の男でなければ成り立たない話でもあるまい。なにはともあれ、精進するように。とりあえずは五級。本当は級外にしたいくらいなんだぜ。


★『芥子沢平吉の情熱』
大介が学生時代に出会った屋台の親父、芥子沢平吉はラーメン狂いだった。
かつて中国東北部でふるまわれた幻の一杯の味を再現するために一生をささげていたが、ある日、一ヶ月間の謎の失踪をとげ、その間の記憶を失って沖縄で発見される。
平吉が云うには、記憶を失う直前に幻の一杯をついに再現したというのだが……

味の素ってそんな昔からあったっけ? とか、栗本先生のラーメン知識はチキンラーメンに偏りすぎてるとか、いろいろと突っ込みたいことはあるような気もするんだが、なんかもう、なにもかもが死ぬほどどうでもいい。


★『史上最凶のご馳走』
伊集院大介事務所に訪れた依頼主は、有名な中華料理人だった。
有名なテレビ番組で勝ち抜き、永世名人の称号をも獲得する彼は、次の料理バトルの食材として、十匹のワニを用意したという。ところがそのワニが逃げ出して行方不明だから、大介に探してほしいというのだ。
探し始めると、すぐにほとんどのワニは見つかったが、肝心の巨大ワニだけが見つからない。そしてその夜、依頼主はワニに頭を食べられて死亡する。
だが、大介はこの事件の裏にべつのものを感じ取っていた……

わりとまともにミステリーにしようという意図は伺えた。
でもさ、おれ、設定説明された段階で「ああ、また自殺ネタね」ってわかっちゃうんだよね。デビュー作でそのネタやってから、いったい何回おんなじネタ繰り返してんだよ、ホントにもう。
切れ者の息子が「切れ者と呼ばれている私としたことが」みたいな台詞を自分で云ったりしてアホの子にしか見えなかったりとか、そういう突っ込みどころは多々あるんだが、とにかくネタがわれまくってるのがミステリーとして痛い。
それにしても、かつて小説道場で「外人の台詞をカタカナにするな。漫画じゃないんだ。今度やったらぶっとばす」とまで云った栗本先生が、最近コンピューターだの外人だのの台詞をほとんどカタカナにしたり、今作では中国人に「あるある」しゃべらせたり、ぶっとばされたいのかしらん。






  逃げ出した死体 伊集院大介と少年探偵  う 

逃げ出した死体 伊集院大介と少年探偵
栗本 薫
講談社





伊集院大介シリーズ。
中学生の秋本元気が家に帰ると、見知らぬ男の死体があった。
驚いて外に出て警察に通報するが、戻ると死体はなくなっており、警察にはいたずら扱いをされ怒られる。
途方にくれて母親を待つが、母は帰ってこない。怖くて家にも入れず、外で待ち続けていた元気に声をかけてきたのは、大介の助手のアトムくんだった。
元気はアトムくんに一晩つきそってもらうことになり、自分が名探偵にあこがれていること、探偵同好会をやっていること、特に伊集院大介が好きなことなどを告げる。

う〜ん、ひどい。
まず無駄に長いのはいつも通り。これ短編のネタだろってのもいつも通り。中学生が幼すぎてキモイってのもいつも通り。分割住宅の入れ替えネタって「それは化石の街でやったでしょおばあちゃん」っていうのもいつも通り。どうやって勘違いさせたのかの説明がないのもいつも通り。少年探偵の元気君がなにも推理してないのに「賢い子だ」扱いされてるのもいつも通り。警察が無駄に悪辣すぎるのもいつも通り。エロくないのに無駄にセックス連呼されて萎えるのもいつも通り。主人公のあらゆる面にいちいちリアリティがないのもいつも通り。大介の推理が推理になってないのもいつも通り。基本的につまらないのもいつも通り。
だから、いつも通りでした。
昨今、こうも面白くなく、またどういじっても面白くなりそうな気配が微塵もない作品というのも珍しい。

それにしても、昔の栗本先生は、変質的なまでに読点を打ちまくっていたはずなのだが、なぜ、昨今の文章は、こうも読点がすくなく、読みづらいのでしょうか。
栗本薫の文章は、よく、ひらがなだらけと揶揄されるが、それは実際問題そんなんだけど、それ以上に、かつては、ひらがなだらけだからこそ、見栄えが良くなるよう、読みやすくなるよう、丁寧に、細かく読点を挟むことによって、独特のうねるようなリズムを作り出し、長文をするすると読ませ、難しい設定も、長台詞も、キャラクターの感情も、スムーズに理解させ、読者を作品世界に没頭させたはずなのに、なぜ、漢字をひらくことを強化させ、読点を減らすという、およそ最悪の選択肢を、彼女は選んでしまったのだろう。






  闇  うな  

闇 (ハルキ・ホラー文庫)
栗本 薫
角川春樹事務所





長編ホラー。
清乃はかつて身の回りに起きたことをそのまま書いた私小説で新人賞を受賞した新人作家。
しかしパート先では上司と不倫の関係にあり、家にはヒキコモリの弟。父は失踪し、母は癌で死亡と陰惨な日々を送っていた。
彼女の希望は、最近担当に着いた二枚目の編集者と会うことだけ。
そんなある日、彼女の家にいたずら電話がかかってくる。それはやがて無言電話になり、弟には謎の脅迫状が送られてくるようになり……

あれ?
あれあれ?
案外普通に面白い。ちゃんとホラーだし、オチもまあ、ありきたりだが、ちゃんと納得のいくもののになっている。
これは、あれだな。陰湿な主人公の一人称という形式が良かったんだな。
昔から、素できもいキャラを書かせたら栗本先生の右に出るものはいないわけで、ほんとにもう、この主人公がきもい。
殴りたい。なにをしたわけでもないのに殴りたい。そんな衝動に駆られるきもさ。
そのきもさが悲しい……とまでいかないのは残念だが、悪くないできだ。

まあ、そりゃ冗長なのは相変わらずですが、ずいぶんましな方だった。これなら半分くらいにまとめる程度でいいだろう。
これって『家』の焼きなおしぽくない? という気は最後まで晴れなかったが、栗本薫のホラーの中では面白い部類だ。
栗本先生には、今後もキモい男女の一人称を推奨していきたい。これならまだボロが出にくいよ。マジお奨め。ほんとに。

そういや、お茶会に行ったとき、前日に脱稿したって言ってたのがこの作品だったなあ。






  流星のサドル 

流星のサドル (クリスタル文庫)
栗本 薫
成美堂出版





 圧倒的な才能で周囲を魅了する若きサックスプレイヤー・矢代俊一。
 ピアニストの結城滉は、はじめて会った日から俊一が気に入り、気がつけば恋愛対象として激しい執着を覚えてしまっていた。決して告げることの出来ない愛情は、次第に滉の心と身体を壊していく……

 矢代俊一シリーズの番外編で、あらすじの通り、結城滉の視点から矢代俊一を見る感じで話が進んでいく。いや話が進んでいくというか、話は特にないんですけれども。
 いや、これが本当に話がなくってねー。前半はずっと「俊一見てるとチンコたってやばいよー」と云いつづけてるだけだし、後半は「もう我慢できねー!」って勝手に夜の街にバイクで飛び出して事故って死ぬだけだし、ホントおよそストーリーらしきものはない。
 『真夜中の天使』がそうであったように、輝けるものに惑わされ、追いつめられ自滅していく話として考えれば、栗本薫のホモ話としてはデビュー時から変わらぬ展開とも云えるのだが、しかし『真夜中の天使』の滝は良とたくさん会話もしていれば、作中も色々と人間関係が変わっているし、良が売り出されていく戦略の数々というのが話の大筋としてあった。
 今作の主人公ときたら、ほとんど矢代俊一と話すこともなく、ただずっと「もうたまらんもうたまらん」「手首痛い手首痛い」と云いつづけているだけで、本当にもう矢代俊一にはなにもしていない。一番の見所が「腱鞘炎で手首が死ぬほど痛いけど興奮しすぎてオナニーが止まらないよー」なシーンで、もう頭が悪すぎて和んでしまったほどだ。
 全体的に「無駄に長い。こんなので一冊にするな」の一言で、内容的には五十ページもあれば十分というかそれでも多いくらいなので、一冊丸々は時間とか資源とかいろんなものの無駄としか云いようがない。
 ただ、腐っても栗本薫というか、腐ってるから栗本薫というべきか、このストーカーとしか思えない主人公の支離滅裂で身勝手な心理が、時々妙に心を打つのも事実であり、今作ではクライマックスの、動かない右腕でバイクを駆って矢代俊一のもとへ向かおうとするシーンの、これで俊一のもとにたどりつけばすべてよくなるはずという、なんの根拠もない主人公の思いこみが痛々しく心を打った。理屈も根拠もまるでなく、一人よがりな感情なのに、だからこそその弱さが胸を打つ。適度なエピソードを重ね適切な展開のもとに出てきたシーンだったら、泣けていたかもしれないほどだ。まあ、現実問題として「チンコチンコ」「手首痛い手首痛い」しか積み重ねていなかったので、泣けなかったわけですが。
 そもそも矢代俊一がいつのまにか今西良とおんなじようなキャラクターになっていることは不問にしても、やはりこの内容のなさは認めがたい。輝ける存在にふりまわされ執着する、という点では『真夜中の天使』と同じような話なのだが、それだけに細部のいいかげんさとストーリーの無さが目立ってしまう辺りに、栗本薫の順当な劣化が見えてしまう。

 ちなみに今作の主人公の結城滉は『真夜中の天使』に出てきた結城修二の弟という設定。
 が、基本的に矢代俊一シリーズは『真夜中の天使』と別世界設定である『翼あるもの』およびその続編の『朝日のあたる家』と設定がリンクしているはずで、今作のせいで時空が歪んでいるのだが、あとがきにおいて「ある時点から枝分かれした別世界」云々と言い訳をしており「ある時点からじゃなくて根っこの部分でおかしくなているだろうが! 適当に設定をつなげていますと素直に云え!」と僕の心を嵐の中に連れて行った。











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