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栗本薫 1995年


  終わりのないラブソング 7.8  う

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  JUNE全集 第1巻









  元禄心中記 天の巻 地の巻







  真夜中の切裂きジャック  うな

真夜中の切裂きジャック (ハルキ文庫)
栗本 薫
角川春樹事務所





短編集。
「死」の臭いがある作品が集まっている云々とあとがきでいっているが、要はなんとなく書いたのであぶれてしまった作品を適当に集めて一冊にしたもの。


★『真夜中の切り裂きジャック』
僕の恋人は連続殺人犯かもしれないって感じでドッキドキ? みたいな。
本当にもうそれだけで、雰囲気は悪くないが、雰囲気だけでオチも糞もねえ。
でも、結構悪くないです。雰囲気小説として。


★『翼の折れた天使』
なんか自分の息子があんまり可愛くないなあ、とか思っていたら!
タイトルでわかる通り、安易過ぎてなんともいえない。どうでもいい感じ。
つうか薫のタイトルセンスはケータイ小説レベルかよ……


★『獅子』
★『白鷺』
★『十六夜』
全部芸道小説。似たようなものだし。
芸に打ち込むがゆえに、ほかのことがわがままな子供のままの天才、というのは栗本先生の大好きな設定だが、どうもその描写がうまいとも思えないので、やめて欲しい。
この中では『獅子』がわかりやすくて好きかな。


★『<新日本久戸留奇譚>猫目石』 『魔境遊撃隊』の続編のようなパラレルワールドのような作品。
クトゥルー物としては古臭くすらあるベタさで、なにも新しさがない。
あと短編なのに中盤が展開・文章ともにぐだっていた気がするのはどうか。
悪くないんだが良くもない。そんな作品。

なんとなく思ったのは、これ、後半で化物の呪いをラマ僧がなんとかしてくれるんだが、どうも栗本薫の作品にはこういうのが多いな。
困っているとプロの大人があらわれてなにんとかしてくれるという。どうやってなんとかしてくれたのかは適当な描写で流してね。
『キャバレー』の滝川しかり『いとしのリリー』の精神科医しかり『朝日のあたる家』の島津しかり、とにかくほとんどの作品でさ、大人がなんとかしてくれるよね。
大人の解決での四苦八苦は描写されないし、されたとしてもちっとも面白くない。
これって、子供の考えだよなあ。大人が出てくればなんとかしてくれるってのは。
やっぱ、栗本作品って子供の作品なんだろうなあ

ま、この本自体は、可もなく不可もなく。
どうでもいいっちゃどうでもいい。






  六道ヶ辻 大導寺一族の滅亡  うなぎ

六道ケ辻 大導寺一族の滅亡 (角川文庫)
栗本 薫
角川書店





長編ミステリー。
古くから伝わる名家、大導寺一族。その蔵から、古い手記が見つかる。
そこに書かれていたのは、かつて大導寺家で起きた血なまぐさい殺人事件の顛末であった。

ちとおまけ評価かな、という気はするが、評価高めで。
栗本薫がある日突然目覚めた明治・大正浪漫。
シリーズの第一作にして、唯一まともに面白い作品。
なにせこの作品、あの栗本先生が書くのにてこずった、何ヶ月かけて書いた、というほど、文章に気をつかって書いているのだ。
 
具体的に云うと、旧かな遣いを盛り込んだりして、大正時代の手記っぽくする努力をちゃんとしている。
この努力をなぜ後のシリーズで続けなかったのか?(めんどいからだろうけど)

ストーリー自体には、ま、とりたてて物珍しいところはないです。
トリックとか動機とかにも目新しい部分はないし。
ただ、ちゃんと気を使って書いているので、雰囲気があるのだ。
ベタさもいい。屋敷に閉じ込められている狂女とか性的に爛れた人間関係とか 「あ、どこかで見たことある(具体的に云うと横溝正史の諸作品で)」という設定が、これでもかと詰め込まれているのでたまらない。
ベタは全力でやったとき、すばらしい威力を発揮するのだ。

……なんかほめていないような気がしてきたが、ほめてます。面白いです。
栗本先生の大正浪漫ものならこれをおすすめ。
つうかほかのは全部素人におすすめできない。






  仮面舞踏会-伊集院大介の帰還  うなぎ

仮面舞踏会―伊集院大介の帰還 (講談社文庫)
栗本 薫
講談社





ミステリー。伊集院大介シリーズ。

あらすじ。
滝沢稔はパソコン通信にはまっている18歳。
いつも馴染みのフォーラムを回り、仲間たちとネットでの交友を楽しんでいた。
しかしそんなある日、ネットでの友人である女性に交際を迫られ、断ったことをきっかけに、ネット上での事件に巻き込まれる。
困っていた稔の前に現れたのは、失踪していた名探偵、伊集院大介であった。
大介は未知のネット社会に興味をもち、稔に教えを乞う。
その間にも、事件は進行し、やがて血なまぐさい様相を呈していく。
誰もが容易に偽りの仮面を被れるネット社会。果たして大介が見出す真実は――

伊集院シリーズでも一に二を争う傑作である。
虚実の定かならぬネット社会であるからこその事件。絡みあった人間関係。
インターネットも普及していないパソコン通信の時代であるからして、いま読むとかなり隔世の感があるが、それでも現在にも通じるネットならではの深さ、怖さを活写している。

登場人物にもいちいちリアリティがある。
メンヘルのダフネや下ネタ大王の松田など、ネットならではのキャラであり、面白い。

伊集院大介の推理も光っている。
人の心の襞を読み取り、真実を導き出していく伊集院大介の真骨頂である。
サブタイトル通り「伊集院大介が帰ってきた!」と思ったものだ。
すっとぼけていて、優しくて、鋭くて。理想の男である。

ただ。
いくらメンヘルとはいえ、あの程度で死ぬかあ? という疑問は尽きない。
いや、あれで死ぬんだったら、2chのせいで毎日どれくらいの人間が死んでいることやら。
それにサーバー会社にログ残らね?
ま、当時はネットやってなかったから気にならなかったけどさ。

ともあれ、数少ないおすすめ長編ミステリーである。ネット好きなら読め読め。
ツッコミ所も多かろうが、それを差し引いても面白い。むしろツッコミを入れたほうが面白い。
本当に面白かった。続編が楽しみになった。
大介の、アトムくんの、松田さんのその後が気になったものだった。

……気にしなければ良かった。






  魔女のソナタ  う

魔女のソナタ―伊集院大介の洞察 (講談社文庫)
栗本 薫
講談社


長編ミステリー。伊集院大介シリーズ
あらすじ。
レズバーの


だからレズネタやめろっつってんだろうがこのばかちんが!
安定してつまらない栗本先生のレズネタシリーズ。
だから今作もつまらないです。つうかネタが弱い。
せっか帰還した伊集院大介の行方に、今作で早くも暗雲がたちこめてまいりましたよ。






  好色屋西鶴 第二部  う

<br><br> 第一部とまとめてあるので、そちらへどうぞ





  緑の戦士  うな

緑の戦士 緑の星へ! (新書判ハードカバー)
栗本 薫
角川書店





なんか最近やなことが続くしー、鬱だしー、おセンチだしー、乙女だしー、お気に入りの桜の木が切られるとかなんとか云ってるしー、ちょっとリストカットしちゃおうかしらん?
なんてやっちゃった主人公が、なんか気がついたら別世界にいて、そこで勇者様ってことになって、なんだかよくわからないままに緑の戦士として世界を乱す敵を追いかけることになったのでした。

これ、あれだよね、94年か95年くらいでさ、ちょうどルビー文庫が創刊したりとかさ、女の子も読むラノベをつくろうって感じでさ、「The・スニーカー」の栗本薫別冊特集号みたいなのが出て、そこで書き下ろしではじめた奴だよね。
その巻頭特集が高河ゆんとの対談だったりしてさ、とにかく時代を感じる一品だよね。
この時点では、栗本薫がラノベ界に置いてトップクラスの存在だって事が知れるね。

実際、ルビー文庫は秋月こおが台頭してくるまで栗本薫が稼ぎ頭だったろうしさ、 あの時期、売上的にトップのラノベはロードス島戦記とグインサーがだったわけだしさ、
本当にもう、輝いていたよね、眩しすぎるくらいね。
そもそもスニーカーなのにハードカバーで出してもらってたっていう特別扱い。
単に読者の足もと見ただけのような気もします。

が、実際にはその時期にはちょっと笑える感じになっていた栗本先生なわけで、 (ぼくはちょうどこの時期にファンになったから偉そうなことはいえないんだけどさ) その証拠と云えるのか本作ではなかろうか。

おそらくスニーカーであることを意識してか、今作は栗本先生自ら「ゲームっぽい」と仰られています。
で、くり返すようですが、この作品は94年にスタート。
94年というのがゲームの歴史的にどの時期かというと、SFC全盛期、年末にプレステとセガサターンの(ついでにPC‐FXの)発売を控えた、いわば現在のゲーム界へと続く転換期なわけです。

んなのに、なんでこの作品、PCエンジンっぽいんだよ!
もうね、古い。
現代の女子高生が異世界に飛ばされて勇者になって、というありがちな設定をいまさら衒いもなくやられても扱いに困るというか、幻夢戦記レダですか?
古い・安い・かっこ悪い。
三拍子揃ってしまった。

でもまあ、いいさ。安っぽさは狙った物として受け止めるよ。
でもさ、おれ、ゲームオタクなわけよ。
特にこの時期はゲームの合間に人生やってたような時期で、うるさいのよ。ゲームに。
これで「ゲームっぽい」とか云われたら、こんなクソゲー買わねーよって感じですのだ。

なんつーかさー、植物の味方・緑の戦士って、そのいいかげんなエコ設定とかさ、 いや、そんな細かいところはいいか。
とにかく、ワクワクもドキドキもないんですよ。
手に汗握るバトルも無いし、世界観に格別目新しい部分があるわけでもなし。
仮にこの作品をゲーム化したとき、おれは見向きもしないと思うわけね。
ファミ通のクロスレビューで言うと6・7・6・5。
そんな点数までまざまざと思い浮かぶ。そんな地味なしょぼさ。
ゲーム舐めんなって感じでしたね。ロッキーと共に戦ったファミコン戦士としては。

実際、この作品の存在感の無さは栗本薫作品の中でもトップクラスなんじゃないかなー。
一つ評価できるところがあるとすれば、全三巻でかっちり終わってるところ。
まあ、これでも一冊伸びたらしいけど、全三巻なら全然許容範囲。
あとはラスト、異世界の存在理由に対して、それなりに納得のいく説明がついていたことか。

で、こんだけくさしといてなんだけど、実はあんまりストーリー覚えてないの。
結局、最後なにがどうなったのか、まるで覚えてない。
なんかおっかけていた敵がちょっといい男で、なんだかんだで仲間になって、 主人公がちょっと淡い恋心なんて抱いちゃって、で、なにやら力を合わせて真の目的を達していたような気がするんだが、その目的がさっぱり思い出せない。
そして古本屋でもあんまり見かけないから読み直すことも出来ない。
いや、図書館で借りりゃいいのかもしれないけどさ、そもそも読む気がしない。

でもまあ、どうだろ。ラノベというより、少女向け児童文学だと思えば、思えるかなあ、思うか! 思ってやりますか! やりますとも! いいですとも!
そんなに悪い作品じゃないです。読み終わった先から記憶から抹消されると思うけど。

でもなー、ゲームっぽい小説でこれが出来上がっちゃう栗本先生に、ちょっと違和感は感じたねー、ファンになったばかりのオイラですらも。
ま、ゲームやらないんだから、本当にゲームの感覚をつかめるわけないんだよね。

なんかグダグダな感想になってしまいましたが、作品自体もそんな感じですよ、と。
一言で云うと凡作ですね。
しかし、栗本薫に名作良作佳作駄作愚作腐作痛作は数あれど、正真正銘の凡作はむしろ珍しいので、ある意味おすすめ。






  夢見る頃を過ぎても(中島梓)  うな 

夢見る頃を過ぎても―中島梓の文芸時評 (ちくま文庫)
中島 梓
筑摩書房





文芸時評
これ、すっごく失礼な本ですな。
いいかげんな気持ちで連載引き受けたというくだりから始まり、「もう十年も小説なんて読んでない」という問題発言をかもしつつ、適当にすばるだの春秋だの新潮だのの小説誌を買ってきて流し読みしては「つまんなーい」「意味わかんなーい」「知らない人ばっかり「ぶぶぶぶんがく」「これは面白い」「大先生の登場!」みたいなノリで、片っ端から斬ってすて斬ってすて、と。
もう失礼千万極まりない。どうかと思う。

のに、面白いんだなあ、これが。
あまりにも率直な物言いは共感を生むし、そもそも書き方が面白い。
実況中継でもしているかのようなテンションの高い書き口は、まさに中島梓の真骨頂。
バカにされた本人はたまったもんじゃないかも知れないが、このノリで斬って捨てられたのならば、むしろおいしいだろ、と思ってしまう。読みたくなるし。

また、この本は94年頃に出版されたんだけど、当時は、ここに挙がっている作家や作品、なにひとつ読んだことのないうなだったので、なにを書いてあっても「へー」だったわけですが、今ではいくつか読んだことある作家もいるわけ。
そしたら、ぼくの感想と梓の感想がかぶっているのな、実に。
おれが面白いと思っている作家を梓もほめているし、おれがうぜーと思っている作家を梓も虚仮にしてたりな。(例えば角田光代は褒めているし、奥泉光はギャグのネタにしている)なんつうか、おれの感性は素で梓と同じかよ、と嬉しいようなげんなりするような、そんな感じでした。
影響受けすぎたのかも知らんなあ。

正直、文芸時評としては程度が低いと思う。
この時代に大江健三郎だのW村上だの、いくら売れているとはいえいかにも古いし、そもそもその辺の人についてはデビューしてすぐに『文学の輪郭』などの著作で語っていただろ。進歩なしかよ。新しく読んだ作家について考える気ナッシングかよ。どうかと思うよ、ぼくは。
だから、文芸時評としては、おすすめできない。

文芸がらみのエッセイとしては、実に面白い。
時におちゃらけ、時に自虐し、時に調子に乗り、時にまじめになり、軽妙洒脱に文章を切り替え、読者をあきさせることなく最後まで読ませる技量はさすがの一言。 内容がないよう状態でも、このノリ・文章が保たれていたならついていきます、あたし。

保てなかったんだなあ、これが。

ほかの評論本に比べると、いかにも「連載を頼まれたから書きました」感が強く、これが云いたかったというのがなかったので、ちょっと評価は低め。でも、面白いですよ。文学の話をこんなに面白くわかりやすく書ける人なんて、滅多にいないって。
だからもっと文学も読んでいて欲しかったが、もうどうでもいいや。









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