タイトル | 評価 | 一言メモ |
余は如何にして服部ヒロシになりしか | うな | 作者のセンスが光る短編集 |
短編集 ★『余は如何にして服部ヒロシとなりしか』 十数年ぶりに中学時代を過ごした土地に降りた主人公は、目の前の女性の尻にひかれて、なんとなく後をつけてしまう。 しかし尾行はバレてしまい、咄嗟に「中学時代の同級生だった服部くんのお姉さんじゃないですか?」と誤魔化したところ、彼女は本当に服部くんの姉だと云い、自宅へ主人公を呼ぶのだが…… 第12回日本ホラー大賞短編賞受賞作。 上記のような意外な出だしから、狂人としか思えぬ人間の家に逗留し、次第に自己が失われ、現実すらも危うくなる様を、微妙なユーモアとエロを交えて語った佳作。 底が抜けて湯の張れない風呂に女と二人で浸かる場面や、妙に若々しい婆さんに乳首を吸わされる場面など、恐怖とエロとユーモアを絶妙に混ぜた作者のセンスがうかがえる。 珍妙で気を引くタイトルともども、色んな意味で面白い作品。 ★『浅水瀬』 峠でバイクを飛ばしていて、事故ってしまった主人公。 どうやら谷底に落ちながらも一命を取り留めたようだが、からだが動かない。 そんな彼の周りに人が集まってきて、なぜか次々と怪談をはじめる…… 奇妙なシチュエーションは面白いのだが、ストーリー自体はしょっぱなからオチがバレバレ。 それを丁寧に説明してしまうラスト含めて、いまいちキレのない作品。 中盤以降の軽妙さに比べて、出だしが妙にかったるいのもどうにもよくない。 ★『克巳さんがいる』 義母が死に、通帳をさがして家捜しをするわたし。 家中をひっくり返してやっと見つけた通帳には、義母の書いたノートがついており、そこにはわたしに対するさまざまな恨み言がつづられていた…… これも先の作品同様、どうにも出だしがかったるい。それでいて、中盤からはやけに軽妙。 全体的にいやな空気を作り出せているし、オチもありがち、というよりは正統派と呼びたい佳作。 ★『あせごのまん』 土佐と阿波の間にある土地、あせごに生まれた山の怪物、まん。 すなわち「あせごのまん」の半生を、地元民の言葉で語った作品。 物語自体は、方言の使い方が見事な以外は、よくある妖怪譚に過ぎないのだが、珍妙なペンネームの由来をでっちあげて、デビュー作の末尾に載せるセンスは素晴らしい。 あるいはこれらの作品を書いたのは、この奇妙な怪物のなれのはてではないかと夢想させるユーモアがいい。 収録された四編それぞれが別の趣向を凝らしているし、とにかく独特のセンスに将来性を感じる作家。 いまいち出だしがかったるい向きがあるので、そこを克服すればいい作家になるのではないかな。 (09/1/20) |