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加門七海

タイトル評価一言メモ
祝山実話をもとにしてもつまらんものはつまらん
怪談徒然草なんかどうでもいい。





  祝山  う

祝山 (光文社文庫 か 36-5)
加門 七海
光文社





ホラー作家の私が、肝試しを題材にした作品を書いているとき、昔の知り合いから肝試しに関する悩みがあると聞く。原稿に行き詰まっていた私は友人の話を聞きに行くのだが……
著者の実体験をもとにした話だそうです。

無駄に長い。
たったこれだけの話で一冊かよっていうのが第一印象。
しかも文が薄い。
こんなんだつたら50Pもあれば全部書けるじゃん。
作中で主人公が「とにかくページを埋めていく」とか書いていることもあって、いい加減に書いている印象が強くて好感が持てない。
薄いから読みやすくはあるんだが、そこから情景がなにも浮かばないため面白みも何もない。

実体験を元にしているからかなんなのかしらんが、事件もほとんど起こらず、盛り上がる部分もなく、最後に「これは脚色してるけど本当にあった話で」みたいなことをわざわざ書いているのも非常に興醒めだ。
関係ねえよ、本当にあろうがなかろうが。なにもいわずとも「本当にあったんじゃないか?いやいやそんなまさか」と読者が思っちゃうのが優れたホラーってもんじゃないか。

なんのひねりも面白みもない分、怖い話好きにはむしろツボなのかもしれない。
普通のホラー作家って、こんなもんだったかもしれんな、となつかしく思った。
「祝」が「はふり」ともよも、転じて「ほり」とも読まれるというくだりだけちょっと面白かった。なるほど、偶然だろうけど英語の「ホーリー」と通じてるんだな、と思って。

(08/11/6)







  怪談徒然草  う

怪談徒然草 (角川ホラー文庫)
加門 七海
角川書店





作者が本当に体験した話を四夜に渡って語り、それを文章に書き起こしたもの。

本当に体験した話だけあって、別にオチもなく、特に新鮮味もなく、なんかありがちな霊っぽいものを見たけどなにもなかったよ、という話ばかりで、本人にとっては大変なのかもしれないが、赤の他人である自分にとってはどうでもいい話ばかりであった。
結局、こういうのは「本当にあった」という部分にどれだけ重きを置いているかの問題であって、自分みたいに根本的に霊を信じておらず、見ず知らずの人間の話を信じるはずもなく、作家みたいに「面白ければオッケー」という人種の文章を信じる人間なんてこの世にいるはずもねえと思ってる人間には、こういうのを楽しむのは不可能なのでしょうね。

基本的には話が短すぎるうえにありがちなのばかりであったが、作者自身がおびえている最後の三角屋敷の話だけは、長めなこともあってちょっと面白かった。が、フィクション的に云えば設定が面白いだけで特に展開がなにもなかったため、やはり肩透かし。

あとは根本的に、作者のキャラが好きじゃない。
好きじゃないというか、これだけあけすけに語っているはずなのに、あまり作者のキャラが見えてこない。なんかその辺にいそうな霊能おばちゃんという感じで、キャラが立っていない。あるいは怪談というジャンルにおいては、そのありがちなキャラが大切なのかもしれないが、自分にとっては魅力のある語り口ではなかった。 例えば稲川淳二なんかは、ぶっちゃけあれ怖いなんてちっとも思わないけど、顔芸も含めて一つの芸として成り立っちゃってるから、怖さとか信憑性とか関係なく認めざるを得ないんだよね。そういう怪談者の凄みを感じさせて欲しかった。

しかし、やはり怪談というのは匿名性の生むファンタジーなのであろうな。
特定の人間が語ったという形をとると、途端にうさんくさい話になる。そんでもって、そういう話を語る人って、基本的にうさんくさいんだわ。なんで普段から論理的な人が霊を語ることってないの? おかしいだろ、確率的に。いかにも語りそーな人しか語らないんだもん。
自分は「人間には理解できない神秘的な領域はある」と信じてはいるけど、実際に語る人がアレだからどうもいけない。

けど、都市伝説や噂話的な「友達の友達の聞いたんだけど」みたいな話は、逆に信用したくなるような魅力がある。
それは語り手が見えないからマイナス要素がないというのもあるし、信じる必要がないからこそ信じたくなる天邪鬼気質の問題かもしれない。
ともあれ、人間世界の片隅に、あるいは裏側に、得体のしれない存在がいてほしい、理解不能な現象があって欲しい、という聞き手の願望が、都市伝説の信憑性をいや増しにしている。匿名性のファンタジーっていったのは、つまりそういうことだ。誰が云ったのかわからないからこそ、聞き手の願望をダイレクトに刺激するわけだ。
だから、だれが言い出したのかもわからない「本当にあった怖い話」の需要は耐えないのだろうなあ。
いずれにしろ、そこには聞き手のイマジネーションを刺激する新鮮味があってこそ、だと思う。

なので、いかがわしさばかりを感じて新鮮味を感じなかった本作は、自分にとっては無用の話であった。
霊の話をする人を信用するタイプの人にはいいのではなかろうか。
ちなみに本作で一番印象的だったエピソードは、二・三行のみふれられていた「小野篁の話をしたり書いたりすると、なぜか夜中でも窓の外に雀がたくさん集まってくる」というものだった。
こういう理解不能ながら明確な規則性を感じる話は好き。

(08/11/20)










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