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紅玉いづき

タイトル評価一言メモ
ミミズクと夜の王うなあほらしいほど正統派の乙女ファンタジー





  ミミズクと夜の王  うな

ミミズクと夜の王 (電撃文庫)
紅玉 いづき
メディアワークス





盗賊たちの奴隷として生きてきた少女・ミミズク。
ある日、彼女は魔物に自分を食べてもらおうと、夜の森へと足を踏み入れ、美しい翼をもつ夜の王と出会う。
なかなか自分を食べようとしない夜の王のもとで、ミミズクは生まれてはじめて幸福な生活を得たのだが……
壊れた少女の再生を描く感動と王道のファンタジー。

いや、これはいい話ですよ。本当にいい話です。
不幸すぎて自分のことを不幸だとも認識できてない少女にはじめて優しくしてくれたのが人間嫌いの化け物、という設定だけで良くも悪くもクラッと来る。
そのクラッと来る物語を、お伽噺以上小説未満の、読みやすすぎるくらい読みやすい平易で安っぽい文章でさっくりと仕上げ、一気に読ませる一品。
主要人物はだいたい七人なんだけど、そいつらがそろいもそろっていい奴で、本当にうさんくさいぐらいいい奴らなんだけど、この説明をしようともしない安っぽい無国籍ファンタジーの世界でなら、それも許しちゃう感じ。

そもそもがぼくは「ひねくれ者とバカ」という組み合わせにとても弱い人間で、油断すると自分の書く話の九割がそういう話になってしまうくらいにツボに入りやすい設定なため、その組み合わせを恥ずかしいくらいに真っ向から書いた時点で、勝ち。
だってしょうがない。バカで不幸な少女と、ひねくれ者の魔王。この設定でいい話を予感しない方が無理。

展開も、びっくりするぐらいに起承転結がはっきりとしていて模範的。
あとがきで「安い話が書きたい」と主張しつづけてきたと作者が云う通り、この作品を構成するすべてが、安い物語をオーソドックスに、しかし完璧にしあげるように仕組まれている。
心の中に一欠片でも乙女がいるかぎり、こういう作品を拒むことはできませんのだ。
全乙女必読である。

が、しかし。なんでだろう。
あらゆるすべてが「泣き」の方向へ向かっているのに、なんでおれは泣けなかったんだろうか?
ラストシーンがだらだらしすぎていたからだろうか? 夜の王のイマジネーションがさすがに陳腐に過ぎたからだろうか? 途中からタニス・リー描く妖魔の王アズュラーンを思い出してしまい、その圧倒的な存在感にうっとりしてしまったからだろうか?
惜しい話だ。せめてあと十年早く読んでいれば、泣けたと思うのに。
だが残念ながら、今はその十年後なのだ。
安っぽくも丁寧な文章ではなく、安っぽくも力強い文章で私を物語世界にさらっていって欲しかった。そういう腕力、強引さが、ちょっと足りてなかったのかな。

ともあれ、ファンタジーがいけてて、不幸話に弱い人はとりあえず読んどけ的な話。

(08/11/21)










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